スペイン人ライターのF1便り:最高峰のエリート集団のなかで明暗分かれたドライバーたち

2018年12月29日(土)7時0分 AUTOSPORT web

 スペイン在住のフリーライター、アレックス・ガルシアのモータースポーツコラム。各ドライバーたちの2018年シーズンの評価をまとめていく。


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 2018年シーズンのF1が終わった。興奮に満ちた長い1年間が過ぎた後、少々くつろぎながら素晴らしかったシーズンを振り返るのに、12月は最適な時期だろう。2018年はF1史上初めて、シーズン全戦を通してドライバーの顔ぶれがまったく変わらなかった。


 つまり、シーズン中にその役割を担ったドライバー総人数が過去最少だったということだ。またある意味で、過去に例がないような個性豊かなF1マシンも多かった。すべてのF1ドライバーが驚くほど優れた技能を有しているという事実を指摘しておくことは重要だ。


 だがそんなエリート集団においても、全員が同じようなパフォーマンスを残せるとは限らない。1年のまとめとして全20名のドライバーたちをランキング形式で評価していこう。


20位 セルゲイ・シロトキン(ウイリアムズ)

2018年 セルゲイ・シロトキン(ウイリアムズ)


 ウイリアムズからF1デビューを果たしたシロトキンについては、2018年シーズンが間違いなく困難なものになるだろうとの予測はあった。一方でチームは、彼のスポンサーから得られる支援金を喜んで受け入れた。その真面目な姿勢やエンジニアリングに関する学歴(大学で最後に書いた論文は自身がF1テストドライバーとして過ごした2017年シーズンがテーマだった)は武器にもなり得たはずだ。


 しかし、経験不足でかつ結果も伴わなかったシロトキンに、2度目のチャンスが与えられることはなかった。事前の予想よりはチームメイトのランス・ストロールに近付けたし、比較すれば潜在能力もより高いものだったかもしれない。だがシートを失ったことで、じきに忘れられる存在になってしまうだろう。


19位 ランス・ストロール(ウイリアムズ)

2018年 ランス・ストロール(ウイリアムズ)


 ストロールにとって、2018年シーズンの走りは論議を呼ぶ奇妙な内容だった。F1デビューした2017年より、良くも悪くも見えたのだ。ミスの数は減ったものの、彼ならではの速さがまったく見られなかった。ウイリアムズのマシンでは輝けなかったようだ。


 2019年の移籍先であるレーシング・ポイントでは、実力を試されることになる。豊富な資金を持参したとしても、F1における居場所は自分で築かなければならない。なにしろチームメイトだったシロトキンを、期待されたほどには引き離せなかったのだ。


18位 ブレンドン・ハートレー(トロロッソ・ホンダ)

2018年 ブレンドン・ハートレー(トロロッソ・ホンダ)


 短命に終わったハートレーのF1での経歴を表現するとしたら、おそらく『不均衡』という言葉がふさわしいだろう。レッドブル・ジュニアチームのプログラムを解雇されてから10年近くが経過した2017年に、ハートレー自身が驚いたというF1復帰が果たされた。


 彼はベストを尽くしたが、結局のところ耐久レースでの数年間を経た後に、F1に求められる速さを取り戻すことは難しかったに違いない。それでも鈴鹿で行われた第17戦日本GPの予選などいくつか良いパフォーマンスも見られ、わずかながら2019年シーズンに残留の可能性もあった。だがダニール・クビアトの復帰が決まり、惜しくもその機会を逸した。


17位 ストフェル・バンドーン(マクラーレン)

2018年 ストフェル・バンドーン(マクラーレン)


 バンドーンがこれまでにF1で見せた最高のレースが、自身のデビュー戦である2016年バーレーンGPだったというのは皮肉だ。それ以降は勝利にどん欲なチームメイト、フェルナンド・アロンソに大きく水をあけられている。低パフォーマンスのマシンに乗っても最高の走りを見せられるドライバーと組んだことが、不幸だったのかもしれない。


 だがGP2(現在のFIA F2)でタイトルを獲得し、スーパーフォーミュラでも活躍した後のバンドーンに、なぜF1でもっと良い成果が出せないのかを問う人はいない。彼はフォーミュラEのデビュー戦でもあまり良い結果は出せなかった。技能はあっても、戦い方は自分で見つけなければならないのだ。


■ピエール・ガスリー、2019年のレッドブル・ホンダでの活躍に期待


16位 マーカス・エリクソン(ザウバー)

2018年 マーカス・エリクソン(ザウバー)


 F1で過ごした5シーズンの間、エリクソンは良いマシンに恵まれたことがほとんどない。ここ数年、最悪レベルのマシンと格闘を余儀なくされてきた。2018年は若くて将来を嘱望されるルクレールとのコンビだった。


 2019年にフェラーリへ移籍するルクレールより力量で劣っていたものの、良い走りを見せることはできた。それでもマシンの性能を考えればもっと走れたはずだ。ザウバーにとって、エリクソンの持つ経験値は貴重なものだったが、2019年にライコネンが移籍してくることになり、それも不要になった。次に挑むインディカーでは、はるかに良い走りができるはずだ。


15位 ロマン・グロージャン(ハース)

2018年F1第12戦ハンガリーGP決勝 ロマン・グロージャン(ハース)


 ハースF1チームはなぜ2018年シーズンにルノーの後塵を拝したのだろうか?その答えは彼の走りにある。2017年、グロージャンはふたつのことで有名だった。『スピードの速さ』と『無線から聞こえる不平の多さ』だ。


 そして2018年、そこに『くだらないミス』が加わった。2018年シーズンは後半に復調したことでチームでの居場所をなんとか守れたものの、序盤の数戦はひどい出来だった。これから戦い方のレベルアップを図らないと、2019年はシーズン序盤に終了などという羽目になりかねない。


14位 ピエール・ガスリー(トロロッソ・ホンダ)

2018年 ピエール・ガスリー(トロロッソ・ホンダ)


 2017年に数レースを走ってF1で戦う要領を身に付けたガスリーは、初めてのフル参戦となった2018年シーズンでその成果をいかんなく発揮した。トロロッソ・ホンダのマシンがパフォーマンスを上げたとき、ガスリーは常にそれに応えて良い成績を挙げた。


 第2戦バーレーンGPでは堅実なレース運びでシーズン最高の4位入賞を果たし、2019年のレッドブルF1昇格を決めている。シーズンを通して良い戦い方を見せたガスリーには、非常に厳しい上位グループで戦う力も十分に備わっているだろう。


13位 カルロス・サインツJr.(ルノー)

2018年F1第18戦アメリカGP カルロス・サインツJr.(ルノー)


 2017年終盤の数レースを見た人は誰もがサインツは翌年もっと活躍できると期待したはずだ。サインツは安定的にポイントを稼げる、優秀で堅実なドライバーなのだから。だがトップチームに入れるほどの実力はあるだろうか?


 F1に4シーズン在籍しているサインツよりも経験の浅いドライバーたちが、彼よりも良いマシンに乗っている。その理由の一部が政治的配慮だったとしても、彼の才能を疑う声も一定数あるのだ。2018年シーズンも良くやったとはいえ、チームメイトのニコ・ヒュルケンベルグを成績で下回っている。


12位 セルジオ・ペレス(フォース・インディア)

2018年F1第19戦メキシコGP エステバン・オコンとセルジオ・ペレス(フォース・インディア)


 ペレスは、たった1戦の結果が全体を変えてしまうことの分かりやすい例だろう。2018年シーズンに表彰台に上ったのは、上位チームのドライバー以外ではペレスの1度だけだった。そしてそのときの15ポイントがなかったら、彼はドライバーズ選手権で8位ではなく12位に終わっていたはずなのだ。


 シーズン全体で見れば調子も決して悪くはなかったものの、彼としてはチームメイトのエステバン・オコンに敗れた回数が多すぎたと感じているに違いない。


■F1ベストドライバーであるフェルナンド・アロンソの引退表明


11位 ケビン・マグヌッセン(ハース)

第13戦ベルギーGP決勝 ケビン・マグヌッセン(ハース)


 安定性、堅実さ、そしてミスの少なさ。2018年はマグヌッセンにとって、F1に参戦して以降で最高のシーズンとなった。とくにグロージャンのパフォーマンスが良くないときにチームを引っ張った事実は、数字の成果以上に彼への信頼度を高めた。


 とはいえマグヌッセンはもう少し多くのポイントを稼げたはずだし、稼ぐべきだった。もちろん、ハースF1チームがメルボルンで起こした悲劇的なミスが彼の足を引っ張ったことも間違いないが。


10位 エステバン・オコン(フォース・インディア)

2018年F1第17戦日本GP鈴鹿 エステバン・オコン


 F1は2019年にオコンの不在を寂しく感じることだろう。第20戦ブラジルGPで、自分のミスでトップを走るフェルスタッペンと接触し、その勝利を台無しにしたからというわけではない。オコン自身が著しい進歩を見せていたからだ。


 必ずしもポイントが実力をそのまま反映するものではないとはいえ、オコンはフォース・インディアのチームメイトであるペレスより速いことの方が多かった。2020年には彼を競争力の高いマシンに乗せるべきだ。たとえそれがメルセデス以外だったとしても……。


9位 ニコ・ヒュルケンベルグ(ルノー)

ニコ・ヒュルケンベルグ 2018年F1第13戦ベルギーGP


 上位常連組を除けば最も多くドライバーズポイントを獲得したヒュルケンベルグにとって、2018年は素晴らしいシーズンだったと言えるだろう。ほとんどのレースで、彼はF1『Bリーグ』(つまりメルセデス、フェラーリ、レッドブル以外)の1番手ドライバーだった。


 ルノーは、シーズン開幕当初は強力な走りを見せていたものの、第13戦ハンガリーGP以降は苦戦が続いた。そんなときでも、ヒュルケンベルグはルノーの要求に的確に応え、チームの力を最大化させていった。


8位 バルテリ・ボッタス(メルセデス)

2018年F1第19戦メキシコGP バルテリ・ボッタス(メルセデス)


 1勝も挙げられなかったボッタスの2018年シーズンが上出来だったと評することは難しい。今年はドライバーズ選手権で5位に終わり、表彰台に上った回数はハミルトンの優勝回数よりも少なかった。


 2017年と比べてメルセデスがボッタスよりもハミルトンを優先させる戦略を多く取ったのは事実だが、ボッタス自身も必要なときに必要な速さを出せなかった。彼のマシンの良さを考慮すれば、それは受け入れがたいことだ。


7位 フェルナンド・アロンソ(マクラーレン)

2018年 フェルナンド・アロンソ(マクラーレン)


 優れたドライバーをひどいマシンに乗せるとどうなるだろうか?アロンソにはその答えが嫌というほど分かっている。なにしろマクラーレンで4年続けてその状況に苦しめられてきたのだ。


 マシンの状態が良かった2018年の序盤は強力な走りでポイントが稼げたものの、その後あっという間にトップ10から消えたアロンソは、低迷したまま第21戦アブダビGPを終えて、その後引退を表明した。


 シーズン中に発揮したパフォーマンスは、彼が今後どのレースを選択するにしても、まだ何年も先までやれることの証明した。WEC世界耐久選手権、インディカー、IMSAスポーツカー選手権……。


6位 シャルル・ルクレール(ザウバー)

2018年 シャルル・ルクレール(ザウバー)


 2018年に大きな話題をさらったドライバーがルクレールであることは疑いの余地がない。開幕戦オーストラリアGPの決勝で、明らかにグリッド上で見劣りするザウバーのマシンを駆った彼は、もう少しで中団グループのトップに立つところだったのだ。


 ルクレールは、計10戦で入賞し、ポイント獲得回数でオコンと並び、アロンソより多かったことになる。彼はそのルーキーイヤーに何度も人々を驚かせ、そして自分よりも経験豊富なチームメイトを打ち破った。


 特に第11戦ドイツGP以降のレースでは、ハースのふたりを上回り、ルノーやフォース・インディアにも匹敵、もしくは上回る速さを見せた。その当然の結果として、2019年シーズンにフェラーリのシートを獲得。彼がそこでどんな走りを見せるか、世界が注目している。


■キャリアのピークにあるルイス・ハミルトン


5位 ダニエル・リカルド(レッドブル)

2018年F1第21戦アブダビGP ダニエル・リカルド(レッドブル)のスペシャルヘルメット


 2018年シーズンの後半戦、繰り返しエンジントラブルに悩まされたリカルドの表情からは、いつもは絶やさない笑みが一時的に消えてしまったこともあった。強力な立ち上がりを見せたシーズン序盤は、レッドブルのチームメイトをはっきりとリードしていたが、その後ドライバー、マシンともに勢いが衰え、シーズン終盤にはフェルスタッペンが優位に立っていた。


 それでも年間で2勝を挙げ、他にも多くのレースで強い走りを見せたリカルドは、やはり戦い方に長けたドライバーだ。チームが最強の状態ではなかった時期に彼が勝利していることも思い返すべきだろう。


4位 キミ・ライコネン(フェラーリ)

2018年F1第14戦イタリアGP、キミ・ライコネンとミントゥ夫人


 ボッタスと同じくライコネンも、チームメイトのタイトル獲得を優先させる戦略に影響されてきた。だがまれに、フェラーリがふたりのドライバーの関係性をそのまま受け入れ、ほとんど戦略的な介入を行わなかったこともある。“アイスマン”はそうしたチャンスを活かしてきた。


 第14戦イタリアGP予選で見事な記録を出してポールポジションを獲得し、第18戦アメリカGPの決勝ではフェラーリのドライバーとして久しぶりの優勝を飾った。これは2018年シーズン中で最も話題を呼んだ優勝のひとつであると同時に、戦略に左右されずにレースができれば、ライコネンには今でも戦いの頂点に立つ力があることの証にもなった。


3位 マックス・フェルスタッペン(レッドブル)

マックス・フェルスタッペン 2018年F1第18戦アメリカGP


 彼こそ将来の世界チャンピオンだ。フェルスタッペンはタイトル獲得を運命づけられた天才たちのうち、最も新しくエリート階級に加わったドライバーである。少なくとも、そのように見える。フェルスタッペンの走りは攻撃的で華々しく、コース上の彼を見るのが楽しかった。


 だがその態度がときに、避けられたはずのインシデントに巻き込まれることにもつながったのだ。それでも彼の持つ気概や才能で、シーズン後半戦には見事としか言いようのない成績を挙げた。ホンダをもう一度表彰台の最上段に連れて行けるのはフェルスタッペンかもしれない。


2位 セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)

2018年F1第17戦日本GP セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)のスペシャルヘルメット


 もしシーズン後半戦だけを対象にベッテルを評価しなければならなかったとしたら、どう良く見積もっても4位より上にはできなかっただろう。しかし2018年シーズンの前半戦を通して、彼はタイトル獲得を目指すハミルトンを脇へ追いやり、力強い勝利を重ね、調子が最高に良いときに自分には何ができるのかを示してきた。


 最後まで接戦が続くことを期待したが、彼は何度か高くつくミスを犯すという悪い側面も見せた。だが結局のところ、フェラーリにはメルセデスほどの競争力がなかったのだ。世界タイトルを賭けて戦うのであれば、真のチャンピオンに必要なのはチャンスを最大限に活かす力だ。2019年のベッテルには、それを示すことが求められる。


1位 ルイス・ハミルトン

ルイス・ハミルトン 2018年F1第19戦メキシコGP

 文句なく、ハミルトンこそが2018年の“マン・オブ・ザ・イヤー”だ。計11勝を挙げ、後半戦だけで11戦8勝というベッテルが2013年に出した記録に次ぐ見事な成績も残した。最も重要な点は、メルセデスのマシンが競争力の点で最強ではない時期でもライバルの追撃をかわしてきたこと、そして最強のマシンに仕上がっているときには絶対に失敗をしなかったことだろう。


 成熟し、スピードがあり、自信に満ちている。ハミルトンは今や、そのキャリアのピークにあり、これまでで最も強い走りを見せている。彼の勝利を阻む可能性をもつドライバーは、ベッテルかフェルスタッペン以外にいないだろう。もし2019年にハミルトンを阻むマシンをフェラーリとレッドブルが用意できなければ、1年後には自身6度目の世界制覇が現実のものになるだろう。


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