88歳・山﨑努が語った“令和のがん告知”のリアル「今は本人にもずばりだからね。『生存率は10から15%』とまで」
2025年1月12日(日)7時0分 文春オンライン
食道がんで闘病していることを明かした俳優の山﨑努(88)。その内実について、次女・直子氏とともに語る。
◆◆◆
ステージⅣの食道がんが見つかった
山﨑努(以下、努) 昨年2月にステージⅣの食道がんが見つかった。同じような状況にある方の参考になればと、娘に手伝ってもらって対談の形で体験を報告します。
入院、闘病を続けて、一時期は胃ろうでしか食事が摂れなかった。
今はすっかりよくなって、何でも食べられるようになりました。一番難しいお米、ご飯は征服したし、麺類にも挑戦して、ラーメン、そばを食べてみた。もう何でも食べられる。
山崎直子(努氏次女。以下、直子) 本当によかった。
最初は胆嚢の痛みの診察で病院に行ったんだよね。ただ、その前から食べ物を飲み込みづらいとは言っていたから、もしかしてがんかもしれない、という自覚はあったらしい。
でも、私たちには、がんだとしても自分はこのまま受け入れようと思うって。とにかく検査を受けて欲しかったけれど一向に病院に行ってくれず……。
そのうちに、多分、体が早く治せって悲鳴をあげて胆嚢炎の激痛になったのでは、と私は思った。
努 胆嚢炎は本当に痛くて七転八倒、病院に行かざるを得なくなった。
そしたら担当してくれた先生が、すぐにベッドを押さえてくださり、「食べ物が飲み込みにくい症状が気になるから、一度入院して精密検査を受けるように」と言ってくれた。
僕は面倒くさいから最初、入院しない、検査も受けないって抵抗したんだけど、結局CTを撮ってみて、がんだとわかった。今思うと、あの先生には感謝です。
直子 そのあと、最初に一対一で話したがんの専門医の先生の存在も大きかった。
努 抗がん剤治療専門の先生が、最初に2人きりでお会いしたいと言ってね。
30代後半ぐらいの無口な人で、会っても全然喋らないんだ。しばらく2人で黙って窓から空を見てた。しかたがない、こちらから世間話ふうに色んなことを喋ったの。
その中で僕が「もう充分生きましたから」みたいなことを言ったんだ。そうしたら、初めて「その言葉で安心しました。思い切って治療に踏み切れます」って決断してくれた。
僕は87歳(当時)という齢で、彼はそんな年寄りを診たことがなかったんだね。抗がん剤をどのぐらい使ったらいいか、患者の精神状態はどうなるのか、そういうことがとても不安だったらしい。
今の告知はああいう感じ
直子 その後、家族が病院に呼ばれ、医師から説明を受けました。連絡の電話があった時には、ほぼ間違いなくがんなんだな、とは思っていたんだけど……。
努 「家族って何だ」。家族同然の友人もいるから、彼らも呼んだんだ。その辺から既に戦闘的になってた。病院には迷惑をかけたと思うけどね、そこは僕流にやらせてもらった。
その時に病状の説明をしてくれたのが、その病院のエースのような若い元気な先生だった。彼はMLBのワールドシリーズの予想をするような快活さで明解なパフォーマンスをした(笑)。
直子 そこまでじゃなかった(笑)。感情を込めない、淡々とした口調だった。今の告知はああいう感じなんだね。
努 医者の悪口を言っているんじゃないんだ。
ちょっと前まで、がんの告知って大問題だっただろう。本人には知らせないとか、家族の誰に知らせるかとか、暗示的な表現を使うとかって。
今は、本人にもずばりだからね。「生存率は10から15%」とまではっきり言われたから。
直子 そうだった。
努 感心したんだよ。はっきり言われて。僕自身は全くショックを受けなかった。
以前のように告知されなかったら、もしかしたらとずっと疑心暗鬼になって、精神的にややこしかったと思う。
直子 あの時は、家族も友人も説明を聞いて、みんながっくりきちゃっていたよ。
努 なぜ、家族を集めるんだろうね。本人に告知して、本人に任せればいいのに。
その時の直がすごかったね。すっと立ち上がって、つかつかと僕のところに来て、「とにかく胆石のおかげでがんが発見できたんだから、これから治療に専念して下さい」って説教した。
直子 そうだったかな。
努 そのまま今度は主治医のところに行って、背筋を伸ばして、大きな声で「父は現役ですから、そのつもりで治療して下さい」って言ったんだよな。
直子 「必ず治して下さい、仕事に戻りますので」って。
努 直はどちらかというとおとなしいタイプだと思っていたんだ。でもみんながショックで項垂(うなだ)れているなかで、直だけがしゃきっとしてた。印象的だった。やるときゃやるもんだなって思った(笑)。
※本記事の全文は「文藝春秋 電子版」に掲載されています(「 食道がん体験報告 生存率15%からの生還 」)。全文では、約100日に及ぶ入院生活、抗がん剤パクリタキセルの副作用、歌を使ったリハビリ、黒澤明の思い出などについても語られています。
(山﨑 努,山崎 直子/文藝春秋 2025年2月号)