大神いずみ「長男・翔大が大阪から帰ってきたと思ったら大学の寮へ。寂しそうな次男・瑛介を母は見逃さなかった」

2024年2月13日(火)12時0分 婦人公論.jp


瑛介憧れの帽子の被り方。そういえば甲子園でよく見かけるような…(写真提供◎大神さん 以下すべて)

大神いずみさんは、元読売巨人軍の元木大介さんの妻であり、2人の球児の母でもある。苦しいダイエットをしている最中に、長男が大阪の高校で野球をやるため受験、送り出すという決断をした。球児の母として伴走する大神さんが日々の思いを綴る。

* * * * * * *

前回「大神いずみ「12月、1月は誕生日や記念日続きで忙しい。夫・元木大介との結婚記念日には〈今年も1年、よろしくお願いします〉。息子の誕生日には自分を褒めて」」はこちら

長男・翔大が帰ってきた。


我が家の長男・翔大が大阪から帰ってきた。

3年前、あの頃私は人生初の大掛かりなダイエットを敢行し、体重計を抱えながら新横浜〜新大阪を何度も往復して履正社の入学準備に追われていた。

いよいよ大阪に送り出した時の寂しさを、はい、
どうでしたか?と訊ねられてもまだ客観的になれない、つい2ヵ月くらい前のことのような気がしているのに…。

翔大、まもなく履正社を卒業。
…の前に、

本日大学の寮に入寮していった。
早っ!
卒業式は3月なのだが、プロと同じく2月には大学も新しいシーズンを迎え、新入生たちは早々に入寮。翔大の同級生たちも1月の終わりには高校で最後の練習を終え、挨拶をして各々の進学先の入寮に散って行った。
ちなみに今は1月に卒業式をする高校もあると聞く。
高校、短すぎる…。

「いいかげんにしなさい!」

己の図体も考えず、デッカい男子2人がドタドタぐるぐる、ダイニングテーブルの周りを追っかけまわしている。
たぶん2人とも、自分が傍から見てそこそこデカいオトナサイズなのをお忘れだ。
昨年末に翔大が大阪から戻って以来、うちはずっとこんな毎日。顔を合わせれば朝っぱらからケンカばっかり。しかも、今どきの小学生だってもっと聞き分けがいいだろう、取った取られた、俺が先いやオレの方が先…幼児も笑う発端で。

キョーダイ、って何なんだろう


キョーダイ、って何なんだろう?

顔を合わせればどこかを掴み合って「痛い!」の「やめろ!」だの…これは彼らなりの独特な交信手段なのか。

小さな頃の兄弟喧嘩は、下がまだチビすぎて手足が兄に届かず笑って見ていたけれど、今や背丈170cm超えのガタイのいいおっさん2人である。
同じような感覚で13歳と18歳がトムとジェリーのように追っかけ回す様は…なんかぜんぜん可愛くない。見苦しい。

最近では映画『クリード』に触発されてボクシングに心酔している兄が、弟相手にシュッ、シュッ!と型を見せる。
性格の違う弟はほんのちょっと拳が肩にかすっただけで「暴力反対!おかーさーん!ショウタが暴力をふるってきましたー!」とダミ声で訴える。

大人になれ18歳。
13歳も、ちゃんと喋れ。
2ヵ月ほどの間ずっとこんな毎日だった。

弟を見守る兄


兄は束の間の実家住まいで、たまに作り慣れたお惣菜を作ってくれることもあった。黙っていても食べ終えたらお皿を洗って伏せる。同じようにしないで食べっぱなしの弟にプンプン腹を立てる。

おとなしく2人でキャッチボールへ表に出たと思えば、まもなくどちらかがカンカンに怒って戻ってくる。
「アイツ真面目にやらないから、もういい!」
「翔大がボールわざと変なとこ投げてくる。」
「もう2度とお前とは野球やんねぇ!」

はいはいはい…。
もう顔を合わせればケンカばっかりで、早くどちらかが観念してくれないかと辟易していた。

兄弟って、もっと仲がいいものなんじゃないのか。うちの息子たち、まだ本当に幼いのである。

ただこの2ヵ月の間、瑛介のチームの練習を見に行ったり、試合の結果を誰よりも気にしたり、高校の進路のことを本人より心配したりと、兄は弟の野球を親身になって見守ってくれていたのも事実。自分が辿ってきた道を振り返って、兄なりに弟の野球に期待するところが大きいのかもしれない。

ホントは大好きで仕方ない


瑛介はまだ自分のことで精一杯。
でもいつだって5年先を行く兄の一挙手一投足を、つぶさにじぃぃと見守っている感はある。
決して「お兄ちゃん、すごい!」など褒めるようなことは言わないのだが、淡々と兄の学校の結果などを確認しながら、いつのまにかいつもの帽子の被り方が、大阪の高校に多い、てっぺんを凹ませる被り方になっていたりする…。
夫からは「やめなさい」と言われている。

お互いの練習の仕方には常に不満で、「あんな練習じゃ絶対上手くならん」「ちゃんとやってる」「汗ひとつかかずによく言うよ」
人のことはいいから、自分の練習をしなさい!
来る日も来る日も2人にかける言葉は同じだった。結論。練習の相手がいればいいと言うものではない。はぁ…なさけない。

喧嘩していたと思ったらやおら2人でケータイを覗いて、キャッキャとサッカーゲームを楽しんでいる。アイテムを自慢しあったり戦略を考えたり…なんとも仲が良い。なんだアンタたち。ずっと口きかないとか2度と喋らないなんて宣言は、ものの数分で撤回されてしまうではないか。
まともに取りあっていては目くじらを立てていた母がバカみたいだ。

ちなみに夫も6つ年上の兄との2人兄弟だが、大きな喧嘩をしたことがほとんどないほど、常に兄弟愛に溢れている。なぜだうちの息子たち。
どちらかがほんの少しだけ大人になれば、きっと落ち着いた兄弟に見えるのかもしれないなといつも母は思っている。ホントは大好きで仕方ない
兄と弟なのにね。

入寮の数日前


入寮の数日前。
呑気に遠くへ練習に出たりする翔大に準備を訊ねると、うそでしょ!?と言うくらい何にも持ち物の準備ができていなかった。

「母」という生き物の鳴き声が図鑑に載っていたらたら、間違いなく「キーっ!キーっ!」ではないだろうか。

慌てて首根っこ捕まえて買い物に走る。
野球道具、布団、衣装ケース、物干し、洗面道具など…。これまで1人暮らしだったのでほとんど揃ってはいるものの、出来るだけ少なくまとめて、名前を書いて…初めての集団生活に入る心構えなど、彼にできているんだろうかと心配になる。高校3年間の寮生活をしていればなんてことないことも、翔大にとっては全て初めての経験だ。


入寮の時の手荷物。 これに布団セットや衣装ケースなど…けっこうな荷物の準備は出発ギリギリに完了。

なんとか荷造りを終えて、前日の夜は幼馴染み家族が集まって一緒に食事をした。3年前もこうしてみんなに集まってもらって、一緒に翔大の背中を押して大阪に送り出したものだが…早いもんだなぁ。

みんなでワイワイ賑やかに過ごしたことで、本人も私たち家族も、寂しさや不安が紛れて余計なことを考えないで過ごすことができた、楽しい夜だった。

入寮当日


入寮当日。

まさかの関東大雪予報。朝からだんだん雲行きが怪しくなり、昼過ぎから白いベチャ雪が舞い乱れる悪天候。普段は1時間くらい高速道路を使って辿り着く道は軒並み閉鎖され、結果的に自宅から寮まで3時間かかってたどり着いた。

運転していた父親とは、思いがけず長いドライブでたくさん話ができたようだ。
最近はいつか車の免許を取りたい翔大に、運転席から標識や交通ルールなどを教えるようなことが多かった。スニーカーや野球、車のこと。きっと名残り惜しむように、いろんなことを話したのではなかろうか。
(ワタシは後部座席でデッカい鯨の夢を見ながらガーガー眠っていた。)

寮に着いて少ない荷物を下ろすと、いったんまた3人で食事に出て、すぐ戻った。
何度行ってもつくづく、素晴らしい練習設備に恵まれた大学だ。少し街やキャンパスから離れたところにあるグラウンドと寮は、学業と野球に専念するにはこれ以上ない環境。
親としては安心して、よろしくお願いいたします、と息子を託して寮をあとにした。

ドンと来やがれ!そんな気持ちで


…自宅までまた3時間かけて帰宅。

夫婦で道順以外ほとんど喋ることがないなかで、ワタシはいつか来るべき「瑛介まで家からいなくなって夫婦2人生活」を想像しては、凍った路面のようにカキっと背筋が凍るような思い。
その日は案外すぐやってくるんだろうか。

まだ大阪に荷物を残したまま、飛ぶ鳥は最後の最後までバッタバタと跳ね回って慌てまくりながら、今度も我が家を立って行った。

いつもこれくらいガサガサと飛び立つくらいが、寂しさもしんみりすることもなく良いのかもしれないな、と思う。
忘れ物はなかったのかいな…?修学旅行ではないのだ。これから長い寮生活、足りなければきっと息子は自分でどうにかするだろう。

4年間、野球をやり通して卒業してほしい。
父親も大学野球は未経験だ。プロの経験はあっても、そこだけは父も辿っていない道。初めて大学野球の世界に飛び込む長男に、私たち家族もどこか「大冒険」のようなワクワクする期待を寄せている。高校でできなかったことを、うりゃー!とやり返すように大学で頑張ってほしい。

そう、3年前もそうだったように。
まだ起きてもいない悪い想像で不安になるより希望をもって…。
ドンと来やがれ!そんな気持ちで行くのが正解だ。
たとえそのあとひっくり返るように思いもしなかったことが起きたとしても…。
心配はそこからでいい。迫り来る壁にぶち当たって、よじ登って、とにかく越えればいい。これは高校時代に翔大が学んだ大事なことなのだから。

不思議な絆で繋がっている


瑛介が学校から帰ってきたとき、もう家には翔大がいなかった。
毎晩陣取りでドタバタと取っ組み合っていた2人の布団はまだ並んだまま。今日から大の字になって瑛介1人ゆっくり寝られるはずなのだが…。

私たちが家にたどり着いた夜10時前には、自宅の周りには10cmくらいの雪が積もっていた。きっと明日までもっと降り積もるだろう。

あと1日翔大の入寮が遅ければ、間違いなく兄弟2人で転げ回って雪を投げ合っていただろう外の景色を、瑛介がちょっと寂しそうに眺めていたのを母は見逃さなかった。

言葉はなくとも、不思議な絆で繋がっているものなのかなぁ…兄弟ってのは。

母もうっかりどこかに落ち着いて座ってしまったら、急に「切ないもの」が襲ってきそうで…。

泣かない。
泣くのはココじゃない。
もっともっと先の、嬉しい時に取っておこう!

婦人公論.jp

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