日本にいながら‟海外とリモートで仕事”する時代のサバイバル術-実践者3人の本音とは

2024年2月20日(火)10時0分 マイナビニュース

グローバル業務というと、海外駐在を思い浮かべる人が多いかもしれませんが、実は日本にいながら海外とリモートで仕事をするケースが増えています。コロナを機にリモートでも大丈夫と意識が変わったこと、為替や物価の面で駐在手当や家賃補助などの企業のコストが高くなっていること、そしてカップルの場合パートナーのキャリアの継続の難しさなどの要因が考えられます。
さらに世界トップクラスのビジネススクールのグローバルビジネスのカリキュラムにも「リモート・マネジメント」というテーマがあるくらい、国境を越えてリモートで仕事をすることはスタンダートになりつつあります。
そんなわけで、これから海外と仕事をしてみたいという方には、海外とリモートで仕事をするスキルはマストアイテムとなりそうです。
この度、実際に海外とリモートで仕事をしている3人のビジネスパーソンに、インタビューして、そのリアリティに迫ってみました。困難を感じる点、メリット、工夫している点など、参考になることが山盛りです。
○困難を感じる点:無意識に「議論を掘り下げること」から逃げてしまう
英語で仕事をするときに、一番不足していると思うのはミーティングでの瞬発力ですね。相手が一人なら間がとれるけれど、ミーティングでは英語を英語で理解して、パッと言わねばなりません。自分にはその能力が足りないと痛感します。だいぶ慣れましたけど、反応する速さが間に合わず、言いそびれることが今でもよくあります。そんな状況なので、議論にカットインしていけるのはもっと英語力が高い人だろうと思っています。
あと、伝えられる表現に限界があることから無意識に、議論を掘り下げることから逃げてしまいます。対面よりも、この傾向が強くなってしまいます。Whyという本質的なことでなく、早くHowを決めようとしてしまいがち。そのせいで実は、相手が腹落ちしていなかったなんて失敗もありましたね。あとオンラインだと、あいまいな点を聞きづらく、その場で結論を出すのを避けてしまう傾向が強くなります。
○リモートのメリット:他業務と兼務できる
今の仕事を引き継いだ時からリモートだったのでよくわかりませんが、他業務と兼務できるのはリモートならではだと思います。
○工夫していること:くどいくらい説明する
リモートでの海外業務では、相手の忙しさや微妙なリアクションを把握しにくいので、食い違いも起きやすいです。だから、くどいくらい説明するようにしています。たとえば『集計表を作って』と指示するだけでなく、サンプルの表を示し、目的や用途や期限を説明し、何度かやりとりして表の埋め方や優先順位を整理する、という感じです。
出張時には、極力、信頼関係を作るようにしています。出張前は、英語漬けに慣れるように、オンラインの英語レッスンで集中練習してから行きます。難しい単語や表現を覚えるより、平易な単語を組み合わせて言いたいことを表現するようにしています。そのほうが自然に聞こえるし、周りのノリもいいですね。一度会っておくと、次からはオンラインでぐっと話しやすくなりますよね。私の場合は海外業務といってもグループ社内の人だから多少間違えても修復がききます。これが社外の人なら、もっと高い英語力がいると思います。」
○■英語力上級のKさんの場合:全体的な意思疎通のレベルはリモートでは下がる、そこで…
業務全体の90%くらいは英語による海外とのやり取りで、メールは日常茶飯事、オンラインミーティングもほぼ毎日あり、長いものは数時間続きます。デューデリジェンス(投資にあたって、投資対象となる企業や投資先の価値やリスクなどを調査すること)の段階では現地に出向くことが基本ですが、コロナの時期はそれもバーチャルで、細かい確認をしながらやりきりました。案件のヘッドを務める場合、日本側の代表として、ミーティングを仕切らなければいけません。流れをコントロールして、用意した質問や、途中ででてきた確認が必要な事項は、必ずその場で聞いて確認します。ただ、やり方や手順は、ある程度定型化されています。
でも、これをリモートでやるときには、全体的な意思疎通のレベルは下がると感じます。理由はいろいろありますが、まず相手の表情を3Dで読み取れないし、声のトーンの変化もわかりにくい。それから先方のチーム同士が話しているとき、チーム内の力関係や雰囲気を把握しづらいですね。こうした小さなことが複合的に重なって、コンテクストがわかりにくく、その場で聞き返さなければいけないという状況が発生します。
数字はたくさん扱いますが、数字については、口頭と書面の乖離がないようにするという点は対面もリモートも同じですね。
○リモートのメリット:準備時間が確保できる
リモートで海外業務を行うのはメリットもあります。飛行機など出張の移動時間を省けるので、会議の直前まで準備ができるなど、作業時間に余裕ができました。
○工夫していること:プラスのコミュニケーション
対面と比べて困難と感じる点も、最終的にはリモートでも克服できると思いますが、やはり時間はかかります。リモートだと、プラスのコミュニケーションが必要になります。私は、自分が主にやりとりしている相手とは、1対1の打ち合わせを、雑談も交えてやるようにしています。相手の人柄がわかるし、チームのほかの人を話題にしたときの様子から、人間関係がつかみやすくなります。これをいろんな会社の人を相手にやっていると、だんだんコツがつかめてきますね。
そもそも、海外の相手はコロナ前から、最初の売り込み商談などはリモートでやっていましたし、慣れていなかったのは日本側でしたが、コロナで一気に変わりました。今は重要な決定フェーズは海外出張の対面にもどりましたが、その他リモートで済む業務は極力リモートに寄せています。
○困難を感じる点:現地社員の働く雰囲気、日常的なコミュニケーションが見えない
現地社員もほぼ在宅勤務で、会議はすべてリモートという前提で成り立っています。リモートで話している間はいいのですが、その時間以外での、あちらの人の働く雰囲気や日常的なコミュニケーションやモチベーションは見えません。でも社内の企画や業務改善を考えていく仕事上、これらは不可欠な情報です。
これを補うため、仕事上使っているSlackでダイレクトメッセージもなるべくSlackのオープンな場でやり取りすることにしました。メンションしない限り見ることはないかもしれませんが、関係のないチャンネルをレビューして、話したことのないチームの動きがわかるのは大きなメリットです。ただ現地ではパブリックな場でのコミュニケーションには気を遣うので、理解を得るのが大変でしたね。
○リモートのメリット:参加者が平等に画面上の場があり、安心して議論に入れる
リモートワークのほうが助かることもあります。リモートでは一人が話しているときに、かぶせるような発言はしないという暗黙のルールがあるので、若干のタイムラグにカットインするタイミングは得やすいです。
画面の面積が人数分に割り振られるので、それ相応の存在感が出せます。例えば自分一人対相手の組織の3人が会議をする場合、対面ならわっと圧倒されますが、オンラインの画面なら4人平等に画面上の場があるので、カメラを通して安心して議論に入っていけます。自分がプレゼンターでないときでも、議論の趨勢を見守って、言うべきタイミングかなというときに発言を差し込みやすいです。
○工夫していること:事前準備に尽きる
リモートでの海外との仕事を成功させるコツは、事前準備に尽きると思います。母国語でないと思考力のレベルはどうしても落ちるので、日本語で深くよく考えて準備をします。またテーマを自分が良く知っているかどうかは会議の成否に影響するので、事前にキャッチアップして、自分の意見が言えるものは言えるようにしておきます。たとえば、プロジェクトのキックオフではプレゼンターをやる必要があるので、プレゼンのあとに想定されるQ&A、プロジェクトの位置づけ、目的、なぜ重要かなどを、日本語で考えて、詰めが甘いと感じるところは、日本語で徹底的にロジックを詰めておきます。日本語だとスムーズに返せたり、さらっと言い逃れができますが、英語だと適切な言い回しができないと詰まってしまいます。なので、こう聞かれたらこう返すというところまで準備しておきます。要は、事前に不確定要素は極力排除しておくわけです。ただ一旦ミーティングが始まると、頭の中はすべて英語ですね。
プレゼン資料をつくるときは悩ましいです。私はディテールから始めて言いたいことをクリアにしていく積み上げ思考をするほうなので、一旦内容を日本語でまとめます。そして受け手である英語の思考回路に合わせて、言いたい事の順番やスタイルを組み直して英語版にします。思考は言語に依存しているなと思います。
○最後に:コミュニケーションの密度を高くせよ!
インタビューから見えてきたのは、オンラインで手軽に話せるメリットを生かして、コミュニケーションの密度を高くせよ!ということだと思います。
特に、組織を動かしたり問題解決するのに不可欠な、相手側の状況や組織・人間関係の把握には、対面の時以上の努力がいります。具体的には、ミーティング以外の場面での、より頻繁で広範囲なコミュニケーションのキャッチボールです。1on1の雑談であったり、チャットの工夫であったり、出張したときに思いっきり信頼構築を試みることだったりします。
また、あいまいさや微妙なニュアンスの違いなどからすれ違いが起こりやすいので、一つ一つの業務の確認、詰めをきっちりと行う習慣も必要だとわかります。
リーガルやファイナンスなど高度に専門的でもタスクが明確で定型化されている業務と、企画や新規事業などアイデアや柔軟性が必要な業務では、困難さも異なるようです。
いずれにしても、上級レベルの英語力がある人でも、それなりの困難があり、工夫をしているようです。英語習得中の初級・中級レベルの方も、仕事で使えるようになるレベルってどんなだろうというゴールイメージが湧くと思います。
リモート海外業務を制する人は、グローバルビジネスを制する、という日も近いかもしれません。
安藤益代 あんどうますよ 株式会社プロゴス取締役会長。野村総合研究所、ドイツ系製薬会社を経て渡米。7年半の大学院/企業勤務経験を経て帰国。シカゴ大学修士。ニューヨーク大学MBA。英語教育・グローバル人材育成分野にて25年の経験を有する。国際ビジネスコミュニケーション協会で、TOEIC®プログラムの企業・大学への普及ならびにグローバル人材育成の促進などに本部長として携わる。EdTech企業執行役員を経て2020年よりレアジョブグループに参画。国内外のEdTechコンテストの審査員も歴任。講演、インタビュー、執筆多数。2022年4月より現職。 この著者の記事一覧はこちら

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