『せとさんち』は、みんなの関係案内所!

2023年3月2日(木)11時0分 ソトコト

地域と関わるのも、学生時代に大切なこと。





勉強、部活、アルバイト。学生が打ち込む3つの柱だが、「それだけだともったいない」と、横浜市立大学大学院に通う秋田県出身の大関羅捺さんは話す。「住んでいる地域と関わることも、学生時代を豊かに過ごすために重要なこと。私はそう思って大学2年生のときに、学生が地域に入る拠点となる空き家を探し始めました」。


その思いに共感したのが、同じハンドボール部の仲間で、群馬県出身の米窪日菜子さんだ。「横浜で暮らし始めたものの、私たちの田舎と違って隣人に挨拶をしても返ってこないとか、人間関係の距離を感じることがありました。その距離を縮めたいなと思って」と話す。さらに、ハンドボール部で茨城県出身の沼倉千晴さんや、大関さんの知り合いだった横浜国立大学で建築デザインを学ぶ福井県出身の西尾昂紀さんも加わり、その頃みんなが住んでいた京急本線金沢文庫駅周辺で空き家探しを進めた。しかし、なかなかいい物件が見つからず、あきらめかけていた2019年の秋、大関さんが所属していた不動産マネジメントゼミに「空き家を有効活用してほしい」という方からの要望があった。「それが、今の『せとさんち』です」と大関さんは笑顔で話す。





『せとさんち』はゼミ生たちで掃除を行い、リノベーションを行おうと進めていたものの、新型コロナウイルスの蔓延によって「人が集まる」ことを禁じられ、思うように進まなかった。さらに、ゼミ生は3年になると就職活動も始まるため、活動の参加者も次第に減少。一方で、西尾さんをはじめ横浜国立大学や東京工業大学など地域の拠点づくりに関心を持つ他大学の有志の学生の参加も増えたので、ゼミではなく任意団体として『せとさんち』の活動を続けようと2021年3月、『空き家改修団体せとさんち』を立ち上げた。





場をつくりながら、地域に開いていくこと。








『せとさんち』のリノベーションは進められたが、「どんな場をつくろうとしているのか、地域の皆さんにも見ていただきたくて」と、並行してイベントも開催することに。まず開催したのは、21年7月の「せとさんちの展示会」。建物の模型や説明パネルを展示したり、訪れた地域の人たちにプレゼンテーションしたり。「私たちの活動を知っていただけました」と大関さんは振り返る。21年12月には、つくりかけの土間で「クリスマスマーケーット」を開催。「『好き』を共有するのが『せとさんち』のテーマですから、米窪はイラスト、沼倉は写真で、私はスパイスを使って、来訪者をもてなしました」と大関さん。「このイベントで、初めて町内会の掲示板に告知チラシを貼ってもらえ、地域の皆さんが大勢来てくれました」とうれしそうに話した。22年1月には、米窪さんが好きな「焼き芋」と、みんなが好きな「古着」を掛け合わせて「焼き芋、古着」のイベントを開催。芋は大関さんと米窪さんがアルバイトをしていたラーメン店からもらった焼豚用の釜を使うと、「ホクホクトロトロに焼けて、用意した焼き芋がすぐに売り切れました」と翌月も開催するほどの人気ぶりだった。








イベントだけではなく、「『せとさんち』が地域の皆さんの日常の一部になってほしくて」と22年5月、『ゆるゆるカフェ』をオープン。学生が接客する飲み物だけのカフェで、今は『喫茶せとさんち』として開いている。「地域のお年寄りが学生とおしゃべりしたり、子連れのママさんが来てくれたり。『開いているだけで心が休まる』と言ってくれて、前向きな気持ちになりました」と大関さん。
7月には「夏祭り」の開催に向けて、「地域の皆さんが来るのを待つのではなく、私たちのほうから出向いていこう」と考えた大関さんは、『せとさんち』がある瀬戸町内会のジャガイモ掘りに参加したり、子供会の夏祭りを手伝ったりした。「そこで町内会会長や会の方々とご挨拶でき、『せとさんち』の『夏祭り』のチラシを配ることもできたので、親子連れのお客さんが大勢来てくれて、賑わいました」と大関さんは、また一歩地域に踏み込めたことを喜んだ。





続けるために大切なのは、「よくしゃべること」。





近頃は、『喫茶せとさんち』を訪れる地域の人から、「ここでワークショップを開きたい」との声が聞こえるようにもなってきた。「私たち学生メンバーの『好き』から、たとえば麹やアロマなど、地域の皆さんの『好き』を共有するフェーズに入ってきたように感じます」と大関さんは言う。米窪さんも、「場が整い、地域の皆さんを受け入れる準備ができてきました」とうれしそうだ。沼倉さんも、「4年間、地域とつながりを持って過ごしたほうが楽しいし、学生生活も有意義になるはず。





『せとさんち』が学生と地域をつなぐ関係案内所になったらなと思います」と『せとさんち』の意義を語る。西尾さんも、「横浜は都会だからこそ、人のつながりが希薄なところも感じられます。その隙間を関係案内所として埋めることができれば」と期待を込める。
『せとさんち』の活動の中心は学生で、社会人である米窪さんや沼倉さんはあくまでもサポートメンバーだ。大関さんや西尾さんもいずれは大学を卒業し、『せとさんち』は後輩たちに承継される。活動を続けていくために大切なことを大関さんに尋ねると、「よくしゃべること」と笑顔で答えた。「何げない話題でもしゃべりかけることで、地域の方が『何かやってみたい』と思われている気持ちを引き出すことができるからです。ワークショップも、しゃべったことがきっかけで開催が決まりましたから」と大関さんは、地域と関わるにはコミュニケーションを取ることが何よりも大切だと語った。
建物のリノベーションは、学生の活動をサポートする、『キャンパスタウン金沢』の「サポート事業補助金」を活用して進めてきた。「建物と同様、時間をかけて地域の皆さんとの関係性も築いてきました。学生の小さな挑戦を後押しし、地域の皆さんの日常をちょっと彩れる場になるよう活動を続けていきます」と、大関さんは『せとさんち』がより地域になじんでいく姿を思い描きながら話した。


自分たちのペースでつむぎ、地域の関わりしろをつくっていく!











『せとさんち』・大関羅捺さんが気になる、関わりを楽しむコンテンツ。


Book:まちで闘う方法論─自己成長なくして、地域再生なし
木下 斉著、学芸出版社刊
『せとさんち』をつくり、運営していくうえで困ることは多々ありますが、この本を読むと「なるほど!」という実践的な解決策が得られます。まちづくりのプロジェクトを中心になって動かす人に読んでほしいです。


Book:場づくりという冒険─いかしあうつながりを編み直す
藤本 遼著、NPO法人グリーンズ刊
場づくりを実践している全国のキーパーソンに、コンセプトや内容、特徴など、さまざまなことを聞いたインタビュー集。巻末に全国のプロジェクト事例がまとめられていて、それを頼りに何か所か現地も訪ねました。


Book:ねじれた家、建てちゃいました。─建築家アトリエ・ワンとすすめた家建て日記
橋本愛子著、永井大介著、平凡社刊
土地探しから家の設計、施工など、自宅を一軒建てるまでのプロセスを、施主夫妻が一冊にまとめたもの。『せとさんち』を立ち上げる中で、場づくりには建築デザイナーを理解しなければと思い読みました。


photographs by Hiroshi Takaoka text by Kentaro Matsui


記事は雑誌ソトコト2023年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

ソトコト

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