『Rural Labo』が生み出す、関わりの循環。

2023年3月3日(金)11時0分 ソトコト

同世代の仲間が欲しくて、『Rural Labo』を設立。





幼少の頃から日本や海外を転々として暮らしてきた小菅勇太郎さん。「そのせいか、一つのまちに暮らし続ける感覚が薄くて」と笑顔で話す。マレーシアでの4年間は、夕方に同級生や親たちとビーチで夕日を眺めながら食事を楽しむといった暮らしに幸福を感じたという。「友達の親に起業家が多く、好きな仕事に打ち込んでおられる姿に憧れました」とも話す。


中学3年からは東京に暮らすも、海外と違う習慣のなかで生き方に悩みもした。高校生になると、まちにも関心を持ち、まちづくりのセミナーやイベントに積極的に参加した。ところが、「年輩の参加者が多く、親睦会で『小菅くん、ビールどう? 高校生だから飲めないか(笑)』というやり取りに苦笑いを浮かべていました」と振り返る。学びはあったものの、一人で地域に飛び込むにはハードルが高く、同世代の仲間が欲しいと感じた小菅さんは大学入学後にコミュニティを立ち上げた。それが『Rural Labo』だ。








地域に入る準備として、多様なイベントを開催。


『Rural Labo』の目的は、一人ではなく、みんなで地域に足を踏み入れる準備としての交流会やイベント、合宿などを開催し、仲間や地域とつながりをつくること。それによって、地域に入るハードルを低くすることだ。今、13人の運営メンバーのもとに全国から435人のラボメンバーが集まり、さまざまな活動に参加し、地域づくりの道を歩み始めている。


その扉となるのが、東京都文京区のカフェ『Rural Coffee』で毎月開催される「Rural Coffee Meet
up」というオフライン交流会だ。ラボメンバーになった人同士が互いのことを話したり、先輩ラボメンバーが自分の経験を話したりして交流を楽しむ。オンラインでも交流会が催され、メッセージングアプリのSlackを活用して情報を共有したり、地域づくりを実践する先輩ラボメンバーやキーパーソンをゲストに呼び、セミナーも開催したりしている。





地域での2泊3日程度の合宿も実施している。ラボメンバーが地域づくりに関わっている地域に数人で訪れ、一緒に過ごしながら地域のことを知り、交流を深める。「『ラボメンバーの地元をめぐる旅』という企画もあり、2022年は東京の離島・八丈島へ行きました。長野県・小布施町などほかにもいろいろな地域で企画しています」と小菅さんは言う。


さらに、1か月間程度滞在する地域留学も始めようとしている。「地域で活動するには自動車免許は必須だと思うので、合宿免許のようにシェアハウスから教習所に通いながら地域のことを学ぶ地域留学を、香川県で実施しようと企画しています」と話す。まちづくり会社で短期アルバイトをしたり、まちづくりに取り組むキーパーソンの講座を聴いたり、農業体験をしたり。夏なら海で遊んだり、地域の方と一緒にバーベキューをして交流したり。「参加者同士も仲良くなれて、免許も取れる。一石二鳥。この仕組みを全国に展開したいと考えています」と小菅さんは期待を込めて話す。


また、2022年9月には埼玉県・横瀬町で『Japan Vitalization Summit 2022』を開催し、全国から180人ほどが参加する大きなイベントになった。交流会やトークセッション、ワークショップなどを行い、地域づくりについて深く、楽しく学んだ。「大勢の同世代の人たちが集まり、熱心に活動している、あるいは活動しようとしていることを肌感覚で知り、刺激を受け、勇気づけられました。開催後、知り合いになったラボメンバーの地元を実際に訪ねたという報告も相次ぎ、うれしかったです」と、つながりが広がったことが素晴らしい収穫だったと喜ぶ。








そんなふうに活動を展開している『Rural Labo』。拠点としては、東京の『Rural Coffee』と、今回取材に訪れた長野県・辰野町で借りている古民家がある。「縁あって偶然に辰野町の地域おこし協力隊の方とつながり、地域の困りごとと観光をかけ合わせるという事業に携わることになり、ラボメンバーと一緒に辰野町に通うようになりました。事業は3か月間で終わったのですが、通うなかで辰野町が好きになり、辰野町でほかの活動もできるのではないかと考え、地域の方に勧められたこともあり、この古民家を拠点として借りたのです」と、『Rural Labo(辰野川島拠点)』を案内してくれた。


大切なのは、持続する関係人口づくり。





この日、『Rural Labo(辰野川島拠点)』では3人の運営メンバーが合宿に訪れていた。実家のある神奈川県横浜市と静岡県・東伊豆町のシェアハウスで二拠点生活をしている学生の石田瑛也(てるや)さんは、「仲間がいれば活動の可能性が広がると思い、『Rural Labo』に入りました。今度、『ラボメンバーの地元をめぐる旅』を東伊豆で実施しようと企画中です」と話す。栃木県日光市に移住した髙橋広野(こうや)さんは、「日光では同世代のプレイヤーと出会えず、仲間が欲しくて入りました。議論したり、企画を立てたりすることで、日光を違う角度から見られるようになりました」と。神奈川県相模原市に暮らす学生の高橋采伽(あやか)さんは、「将来的に多拠点生活がしたいので、お気に入りの地域を探しながら活動しています」と話した。








3人は小菅さんと陶芸教室に参加した。教えるのは、川島地区に住む荒井正輝さんだ。地区の人口減少に歯止めをかけようと移住者の受け入れ活動を続けてきたこともあり、『Rural Labo』の活動も応援している。「川島地区の人口は50年間で半減しています。若い人たちと一緒に地区の元気な姿を取り戻したいです」と話す。そのためにも、関係人口の存在は欠かせない。小菅さんは、「自治体の関係人口創出事業は期間が決まっている場合が多く、終了後、せっかく仲良くなったメンバーのつながりが希薄になりがち。『Rural Labo』では終了後も東京で再会したり、交流イベントを開いたり、Slackで情報交換したりしてつながりを継続しています。そして、『辰野町、また行きたいね』と自主的に合宿を企画し、辰野町へ通い続ける流れも生まれています。価値観が近い若者同士だから、つながりも保ちやすいのでしょう」と『Rural Labo』の特徴を語る。


パートナー提携拠点」が全国に8か所あることも関係人口の扉を広げている要因だ。「ラボメンバーが拠点を行き来し合い、互いに学び合っています。辰野町に来たメンバーが仲良くなり、一緒に香川県の拠点に行くとか、コミュニティが自走し、関係人口のシェアが起きています」と小菅さんは、「パートナー提携拠点」がメンバー主体で発展することに期待する。
ラボメンバーが地域に足を踏み入れ、地域を活性化する。そこに新しいラボメンバーが加わり、活動を始め、ほかの地域との交流も深める。そんな「関わりの循環」が、地域に関心を持つ若い人たちの一歩を後押ししている。











『Rural Labo』・小菅勇太郎さんが気になる、関わりを楽しむコンテンツ。


Website:News Picks
https://newspicks.com
基本的な情報収集として、スキマ時間にスマートフォンで読んでいます。地域に関する記事もあり、参考になります。記事以外にも、落合陽一さんの「WEEKLYOCHIAI」など番組も視聴します。​


Book:地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門
木下 斉著、ダイヤモンド社刊
地域内外の人の巻き込み方や、事業としてのまちづくりなど、専門家が行うまちづくりではなく、一般の誰でも始められるまちづくりの方法が書かれています。自分も挑戦してみたいと思わせられる一冊です。


Book:働く意義の見つけ方─仕事を「志事」にする流儀
小沼大地著、ダイヤモンド社刊
ビジネスを通して社会をよくすることに人生を懸ける著者の生き方に影響を受けました。関係人口を巻き込むときに大事なのは、自分が「働く意義」や「生きがい」を持つことだとも気づかされました。


photographs by Yusuke Abe text by Kentaro Matsui


記事は雑誌ソトコト2023年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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