「災害に強い」中古マンションの選び方 - 購入前に確認するべき6つのポイントとは?【住宅のプロが解説】

2024年3月6日(水)9時0分 マイナビニュース

突如発生する地震に火災、連日続く台風や大雨・・私たちは日常的に災害と背中合わせで生活しています。特に都心部では建物が密集しているぶん、地震や火災などのリスクが高まります。
最新の耐震基準に則って建てられた新築マンションや、周辺エリア一帯で計画的に開発されたマンションであれば、防災不安は抑えられるでしょう。一方で、中古マンションは年代によっては耐震基準に則っていなかったり、防災観点での対策が行き届いていない場合も。購入前にしっかりチェックしないと、命を守る観点はもちろん資産価値にもマイナスに響いてしまいます。
そこで今回は、防災観点でマンションを選ぶ際に自分でできるチェックポイントについてお伝えします。
※本記事は東京首都圏におけるマンション購入をメインとしています。それ以外の地域や戸建て住宅は、一部参考にしづらい項目が含まれている場合があります。
※本記事の内容は、2024年2月末段階の公的機関の基準値に基づくものです。今後、2024年1月に発生した能登半島地震の被害状況の調査結果等を元に、基準が更新される可能性があります。最新情報は国土交通省等の発表内容をご参照ください。
■中古マンションを買うなら「防災対策の確認」は購入前に
これからマンション、とくに中古マンションを買おうとする人にとって、防災意識を持ってマンションを選ぶべきだとお伝えする理由は、主に2つあります。
一つ目として、近年の災害発生確率の観点からです。近年、台風や大雨などの気象災害が増加傾向にあります。環境省もその背景に地球温暖化に伴う気温上昇や大気中の水蒸気量の増加、海面上昇などが影響しているとし、危機管理を促すガイドブックを作成(『勢力を増す台風 〜我々はどのようなリスクに直面しているのか〜 2023』)。国土交通省は2020年8月に水害ハザードマップの説明を義務化するなど、政府も対策に乗り出しています。また、地震調査研究推進本部地震調査委員会によると、マグニチュード7程度の「首都直下地震」が今後30年以内に発生する確率は70%。元々歴史的にも大規模な地震や火災に悩まされてきた日本ですが、リスク回避のために個々人ができうる対策をしておくことが切実な段階にきています。
二つ目の理由として挙げられるのが、マンションの資産価値維持の観点です。昨年弊社(Housmart)にて、中古マンションの購入を検討する人へのアンケート結果を行った結果、「防災の観点から不安を感じた物件の購入を見送った経験がある」と答えた人が、全体の半数以上(2人に1人)いたのです。つまり、2人に1人が「買うか買わないか」をハザードマップなどの情報を元に意思決定していることになります。もしもマンションを購入して所有するならば、防災観点で不安要素を抱えるマンションは、将来的に住み替えなどで「売りたい」と思った時に苦労をする可能性が大きい、といえるのです。
読者の中にも、「なんとなく見ておいた方がいい」という意識をお持ちの方は多くいらっしゃると思いますが、治安面や教育環境に比べて後回しにされがちな項目でもあるといえます。また、専門家でないとなかなか判断がつかないのも実情です。
災害リスクは、残念ながら「この一つだけ見ておけばOK」というものはありません。複数の要素を総合的に見て判断する必要があります。そこでここでは、「自分でできる」範囲で、「効率的に物件を選んでいくための最低限の判断軸を持ちたい」人のための簡単なチェック事項をお伝えできればと思います。気をつけたいのは、この項目に上がっている要素のうち一つが当てはまっていたら安全、という絶対的指標ではないということ。あくまでも2024年2月末段階で、最終的には複数要素による総合的な判断となりますので、もしも希望物件があり判断に迷っている方は、個別で専門家に相談するようにしてください。
では早速、各項目ごとに調べ方や情報参照先をご紹介していきます。
■中古マンション購入前に確認したい、6つの防災チェック項目
【1】マンションの築年数
まずは地震への防災対策として、建物の耐震基準を確認しましょう。
中古マンションの場合は、十分な耐震化がされているかを知るために、まずは築年数を見てみます。1981年6月1日以降に建築確認を受けた建物、いわゆる「新耐震」であるマンションであれば、震度6強〜7クラスの大地震でも倒壊しないとされています(国土交通省)。
首都直下地震の最大予想震度は、震度7。つまり新耐震のマンションであれば、耐えられる想定です。都心南部直下地震において約8万棟の建物が全壊すると予測されていますが、そのうち約8割が、旧耐震基準の建物とされます。耐震補強をしない旧耐震のマンションでは、設計時に震度5クラス以上の地震に対する設計規定がなかったため、それ以上の震度に耐えられない可能性が高くなります。
ここで注意したいのは、1981年竣工だった場合。建物ができるまでには、工事前に建設予定の設計内容(地盤や建物の構造、設備など)が建築基準法などの法規制に則っているか確認を受ける、「建築確認」というプロセスがあります。この建築確認は工事が始まる前になるため、実際に建物が完成する(竣工)までには長ければ一年以上のスパンがあくことになります。そのため、1981年竣工のマンションだと新耐震ではない可能性があるのです。
そのため、竣工した年が微妙なラインだなと思った場合は、必ず不動産仲介担当者に確認しましょう。東京都では、耐震に関する相談窓口として「耐震化総合相談窓口」(公益財団法人 防災・建築まちづくりセンター)が設けられています。建物の種類によらず、耐震診断や耐震改修についてアドバイスを受けたり専門窓口の紹介も可能なので、困った時は相談してみるのも良いでしょう。
【2】耐震診断・耐震補強の有無
また、万が一旧耐震であっても、耐震補強工事を行い新耐震設計基準を満たしていれば現行基準上は大丈夫だと考えてよいでしょう。そのため、【1】マンションの築年数 を確認して、旧耐震だった場合は、耐震診断の結果を確認しましょう。耐震診断をした上で、もし問題がある場合は、耐震補強が予定されているかの確認を。もしも耐震診断を実施していなかったり、問題があるにもかかわらず対策がなされていないのであれば、それは耐震面で懸念があると言わざるを得ませんから、そうしたマンションは避けた方が無難でしょう。
また、繰り返しになりますが、「新耐震であれば必ず倒壊しない」という保証があるものではありません。新耐震はあくまでも「地震に対して強い」物件を選ぶための一つの目安としてお考えください。
【3】マンションの形状、設計
耐震基準以外に、マンションの形状から地震に対する強度を推しはかれる部分もあります。わかりやすいのは、以下の3点。耐震性を考える際に、この要素に当てはまっているか外側からでもチェックできます。
●マンションの形が長方形に近い
マンションは構造的にシンプルな長方形に近いほど、安定し、耐震性が上がります。形状がいびつであったり、凸凹しているようなマンションほど、注意が必要です。
●セットバック部分が大きくない
ここでいう「セットバック」とは、日照などの観点から建物の上層階を下層階よりも後退(セットバック)させている構造のこと。特に旧耐震のマンションなどで、建物全体が階段状になっており開放的なルーフバルコニーなどが設けられているのを見かけたことがないでしょうか。このセットバックの部分が大きいとアンバランスになるため、耐震性の観点では好ましいとはいい難くなります。
●ピロティがない
「ピロティ」とは、壁がなく柱だけで建物を支えている構造のこと。1階部分が吹き抜けになっているマンションやビルを見たことがあると思います。こうした構造は、下の空間を有効活用できたり、デザイン的にも開放的で優雅な印象を与えてくれますが、耐震性には難ありといえます。阪神・淡路大震災や熊本地震でも、被害のあった建物にピロティ構造のものが見受けられたという報告書が上がっています。
いずれも、住宅ローン【フラット35】の融資適用対象となるマンションの耐震評価基準として定められている項目に準じています(正確には、より細かい設定があります)。よって目視ではありますが、耐震性を推しはかる一つの目安にはなるでしょう。
【4】マンションの防災設備や防災意識
マンションにおける防災設備等も確認しましょう。火災報知器や消火設備といった基本の設備はもちろんですが、マンションによっては、被災時の飲料水や救急箱、備蓄品などが用意されている場合があります。まずは自分で用意をすることが大前提とはなりますが、こうしたリスクヘッジがなされていればなお安心です。ただし、何百戸からなる大規模タワーマンションや東日本大震災(2011年)以降のマンションであれば防災意識が高く設計されており、こうした設備仕様も期待できますが、中小規模のマンションであればそうしたサービスはなかなか期待しづらいでしょう。
内覧時にチェックしたいのは、住民としての防災意識、管理組合や管理会社としての防災意識の方です。共有部や非常階段にものが置かれていないか、消化器などの設備がいつでも使える状態になっているか・・。通路は災害時の避難経路になるため、こうした場所が荒れているようだと、入居した後に苦労するかもしれません。マンションの管理状況や住民同士のトラブルにも直結する要素なので、防災面だけでなくマンション内のコミュニティの質を推測するうえでも確認しておきたいところです。
【5】マンション周辺の水害・地震リスク
マンションの周辺環境も防災対策に影響を与えます。近隣に消防署や医療機関、避難所などがあるかどうかを確認しましょう。また、洪水や地盤沈下のリスクも考慮し、適切な場所に建っているかをチェックします。
1.水害リスクを確認する
まずは「ハザードマップ(被害予測地図)」を確認しましょう。ハザードマップとは、簡単にいえば災害発生時の被害状況を予測し、マップ上に落としたもの。洪水・土砂災害・高潮・津波・・・と複数種類が各自治体によって作成され、公開されています。自治体のホームページで確認できます。なのですが、それぞれデザインや提供フォーマット(ある自治体ではPDF、ある自治体ではマップ、ある自治体では紙、など)が異なるため、区や市など自治体を跨いで家探しをしている場合は、非常に苦労することに・・。
そこでおすすめなのが、国土交通省による「重ねるハザードマップ」です。洪水・土砂災害・高潮・津波のリスク情報に加えて、地形まで、さまざまな種類のハザードマップを一度に地図上に重ねて確認することができます。もし希望のマンション、物件が決まっている方は、マンションの立地を検索して、震災時に予想される浸水範囲とその程度を見ておきましょう。例えば浸水レベルが3.0m(1階天井まで浸水する程度)までであれば、2階の住戸はちょっと不安だな・・など判断基準とすることができます。
2.地震(液状化)リスクを確認する
次に、地震発生時の「液状化リスク」をまた別のハザードマップで調べます。液状化現象とは、地震発生時に地盤が液体状になる現象のこと。比重が重い建物が沈んだり傾いたりするほか、下水道のマンホールなどが浮き上がったりします。
東京都であれば、「東京被害想定マップ」を参照しましょう。都心南部直下地震など、各種地震レベルごとに想定された液状化リスクを確認できます。他自治体であれば、「市町村名 × 液状化マップ」でネット検索をかければすぐに見つかるはずです。
【6】マンション周辺・市区町村の都市計画マスタープラン
地震による被害というのは、倒壊ばかりではありません。派生的に引き起こされる火災も大きなリスクです。こうした火災リスクは、希望するエリアやマンション周辺の街並みを見ることで推し測ることができます。細い路地などで構成された昔ながらの街並みは、風情があって良い風景ではありますが、災害に対する脆弱さも持ち合わせています。木造の建物が多く密集度も高い日本の市街地、いわゆる「木造住宅密集地域」は、一度火災が発生すると延焼によって被害が拡大しやすい地域です。東京都は近い将来に来るであろう大地震に対して被害を最小限に食い止めるため、防災都市づくり推進計画を掲げてこうした「木密地域」の整備を推進していきました。もしも木密地域が検討エリアにある場合は、今後の対策がとられているか、市区町村の都市計画マスタープランを確認してみましょう。市区町村の都市計画マスタープランは、各自治体ホームページで確認することができます。
再開発によって、区画が整理されたエリアは、最新の防災観点の規制に即して街並みや個々の建物、建物同士の離隔が設計されています。震災時の逃げ道や救急隊等も通過・作業しやすい道幅が確保されており、こうしたエリアを選ぶことは「もしも」に備えたリスクヘッジの手段の一つともいえるでしょう。
■防災観点で確認をしつつ、自ら備えを行うことが大事
ここまでいくつかのポイントを紹介してきましたが、これらは一般的なものであり、個々のケースによって異なる場合があります。残念ながら全部当てはまれば絶対安心、といえるわけでもありません。地盤が強いと言われるエリアの中でも、強弱や高低差がありますし、建物の構造を含めた複数要素の兼ね合いで決定するものでもあります。防災への不安をできる限り無くしたいという方や、ピンポイントで買うべきか否か迷っているマンションがあるという方は、コンサルタントやインスペクターなどの専門家に一度ご相談してみてください。
今回ご紹介したポイントを一つの基準として、より不安のない住まい選びに役立てていただければ嬉しいです。そして、まずは部屋の家具の転倒対策をする、防災バッグ(セット)を自宅に備える、非常時の避難場所と経路を確認しておく・・など、自分自身や家族で日頃から準備しておくこと。それが何よりの安心材料になることを、ぜひ忘れずに。
針山 昌幸 はりやま まさゆき 株式会社Housmart 代表取締役。相場を確認しながらかしこく中古マンションが売買できるアプリ「カウル」やメディア『マンションジャーナル』、不動産仲介会社向けの営業支援システム「プロポクラウド」など、住まい選びをより自由にすべく幅広く事業を展開。著書に『中古マンション本当にかしこい買い方・選び方』(日本実業出版社)。 この著者の記事一覧はこちら

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