古き良きアメ車の顔も? テスラ「サイバートラック」のデザインを斬る!

2024年3月7日(木)11時30分 マイナビニュース

2019年に米国で発表となり、独創的なフォルムで一躍注目の的となったテスラ初のピックアップ「サイバートラック」。日本に初上陸を果たした実物と対面し、デザインの細部まで観察してきた。一見すると全てが規格外だが、どうしてこんな形になった?
EVだからできた鮮烈なフォルム
テスラ初のピックアップトラック「サイバートラック」は本国で2023年秋にデリバリーが始まったばかり。日本のナンバーを取れるかどうかは現時点で不明だ。しかしながら、我が国でも話題になっているということもあり、テスラは日本での展示ツアーを企画したようだ。
デザインに興味がある人間としては、絶対に実物を見ておかねばならないと思い、2024年2月下旬の夜、東京の豊洲にあるメディア向け発表会場に足を運んだ。
闇夜の中から現れたサイバートラックは、写真で見たとおり鮮烈だった。とにかくエッジが立っていて、多くのクルマが備える曲線や曲面はほとんど存在しない。プロポーションも既存のピックアップとはまるで違う。
でもしばらくすると、これはEV(電気自動車)ならではのパッケージングをいかしたデザインだと思うようになった。
現状、サイバートラックを除くテスラの市販モデルは全て、プラットフォームに駆動用バッテリーを薄く敷き詰めて、リアあるいは前後にモーターを置くというパッケージングを採用している。そのためリアだけでなく、フロントにも荷室を用意している。エンジンがないのでノーズが低く短いのも特徴だ。
でも、既存の4車種は、それを強調するような大胆なパッケージングではない。むしろ、エンジン車のセダンやクーペに近いフォルムを取り入れている。
EVというだけでも新しいのに、デザインまで斬新にしてしまうと、多くのユーザーが逃げてしまう恐れがある。実際にそういう車種はいくつかあった。それを考えて、あえて既存のクルマの延長線上にある形にしたのだと思っている。
一方のピックアップは、セダン以上にトラディショナルなカテゴリーである。エンジンルームとキャビン、荷台がはっきりと分かれ、大排気量エンジンをフロントに縦置きして後輪を駆動するという、古き良き「アメ車」らしさを思わせる成り立ちの車種が多い。テスラも、この方向性でピックアップを作ろうと思えば作れたはずだ。
ただ、テスラのプラットフォームを使えば、まったく違うフォルムが実現できる。しかもモデルSを発表した頃と違って、今や多くの人がテスラのブランドイメージを理解している。伝統的なスタイルを守るジャンルだからこそ、革新的なデザインがウリになると思い、この形にしたのではないかと思っている。
サイバートラックはノーズが短い。エンジンに比べてモーターがはるかに小さいからこそできることだ。そこでノーズとフロントウインドーを一直線につないでしまった。となると、荷台が箱型のままではバランスが悪い。そこでこちらも、ルーフからリアエンドまでを直線でつないでしまったというのが筆者の推論だ。
多くのピックアップが巨大なグリルを据えるフロントマスクは、EVなので必要ない。ヘッドランプはLEDで細くできる。普通のカーデザイナーなら、この面をどうしようか悩むところかもしれないが、テスラはあっさりパネルだけにしてしまった。
でも微妙な曲面をつけ、両端に折れ線を入れたこともあり、平板ではなく、これはこれで表情になっている。大胆な手法だ。
独特な姿は「エルカミーノ」と共通性あり?
ただしアメリカではかつて、これに近いフォルムのピックアップはあった。シボレー「エルカミーノ」やフォード「ランチェロ」など、背の低いセダンをベースとして、キャビンから荷台にかけてをなだらかにつないでいた。個人的にはこれらの「セダンピックアップ」と呼ばれる車種の流れを受け継いでいるとも感じた。
ちなみに、荷台にはシャッタータイプのトノカバーがあり、電動で開閉できる。後アオリが下ヒンジで開閉するところは多くのピックアップと同じだが、サイバートラックでは上端にランプを埋め込んでいるところが斬新だ。
エッジの効いたカタチには素材も関係
エッジを効かせ、曲線や曲面がほとんどない造形も、サイバートラックの特徴だ。こちらは、材質がステンレススティールであることと関係があると思っている。
ステンレスは鉄をベースとした合金で、錆びにくいという特徴がある。そもそもステンレスという呼び名は、錆びにくいという意味の英単語だ。
ただし、素材の配合比率などによって、いろいろな種類がある。スプーンや鍋などに使われるステンレスは加工がしやすいのに対し、鉄道車両に用いられているステンレスは強靭という性質を持つ。
テスラではサイバートラックの素材に「ウルトラハードステンレススチールエクソスケルトン」を使ったと説明している。ステンレスの中でもかなりハードな素材であり、エクソスケルトン=外骨格という言葉を加えているように、パネル自体が骨格の機能も果たすほど強靭であるようだ。
ゆえに、プレスなどの曲面加工がしにくい。よって、ほとんどが直線と平面で構成されているようだ。かつて、ステンレスを外板に使ったデロリアン「DMC-12」も、違う種類のステンレスかもしれないが、直線と平面主体でデザインされていたことを思い出す。
ボディサイズは巨大! でも惹かれる
注意したいのは、全長5,682.9mm、全幅2,413.3mm、全高1,790.8mmとボディサイズがかなり大きいこと。キャビンだけでなく荷台も十分な広さが必要なピックアップは長くなりがちで、トヨタ自動車「ハイラックス」も全長は5,320mmあるが、全幅は1,900mmに留まっている。サイバートラックに日本で乗るとすれば、取り回しにはそれなりに苦労するだろう。
発表会ではインテリアも覗くことができた。こちらはモデル3やモデルY同様、インパネ中央の大きなディスプレイに速度計を含めてすべての情報を表示する手法で、エアコンのルーバーもインパネの段差に埋め込んであり、シンプルさが際立っている。
一方で、ドアトリムを含めて曲線や曲面をほとんど使わず、直線基調でまとめているところは他のテスラとの違いで、エクステリアとの統一感を持たせてあることが確認できた。
既存の多くのピックアップと違うのは、トランスミッションやトランスファー、プロペラシャフトのためのセンタートンネルがないこと。そのためフロアは前後ともフラットだ。他のテスラと違うのは、インパネとセンターコンソールがつながっていないこと。おかげで前席フロアのフラット感が強調されている。
ボディサイズが大きいこともあって、キャビンの広さは充分。気になる後席のヘッドクリアランスも問題なさそうに見えた。荷台はホイールハウスの出っ張りがなく、全体をパネルで覆っているので幅は限られているが奥行きは広大。テスラでお約束のフロントトランクもある。
サイズもデザインもマテリアルも、すべてが常識はずれと言いたくなるサイバートラック。日本での展示ツアーは継続中なので、気になる人は実物を見に行ってみてはいかがだろうか。
森口将之 1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。 この著者の記事一覧はこちら

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