がんにも「県民性」がある。胃がんが多い県は?赤くなる人がお酒を飲むと…大切なのは自分のがんリスクを知って防ぐこと
2024年3月9日(土)10時0分 婦人公論.jp
セミナーに登壇した中川恵一氏
2024年2月14日、がん対策の普及促進を目指す「がん対策推進企業アクション」(厚生労働省委託事業)により、「日本人の起源とがん」および「子宮頸がんとHPVワクチン」をテーマにしたメディア向けセミナーが開催されました。登壇者の中川恵一氏(東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授)による講演の内容をお伝えします。
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がんの県民性
日本では、地域によって多いがんと少ないがんがあります。
<胃がんは秋田県などに多い>
秋田県などでは、練ウニやいくらのような濃い塩分を含んだ塩蔵品がよく食べられるため、胃がんの人が多く見られます。
また、胃がんにはピロリ菌も関係しており、「ピロリ菌感染+過剰な塩分摂取」により発症しやすくなるとされています。動物実験でも、ピロリ菌に感染したネズミに塩分の高い餌をあげると胃がん発生率がどんどん上がっていく結果が出ています。
そのため、胃がんのリスクを減らすには減塩やピロリ菌の検査、陽性者への除菌などが有効となります。
<肝臓がんは佐賀県などに多い>
佐賀県は全国でも特に肝臓がんの死亡率が高い県です。その理由は、肝臓がんの原因の7〜8割を占めるC型・B型の肝炎ウイルスのうち、佐賀県一帯の東シナ海周辺にC型肝炎ウイルスが多いためだと考えられています。
ただ、C型肝炎ウイルスに感染しても、飲み薬で95%以上の人が排除できるとされています。またB型肝炎ウイルスも、飲み薬によるコントロールが可能です。
ピロリ菌同様に、肝炎ウイルスも感染の有無を検査することが重要となります。
<乳がんは東京など(都会)に多い>
乳がんは、女性特有のがんの中で最も罹患率が高いがんで、東京などで多く見られます。
原因は少子化です。女性は妊娠・出産により生理が止まり、その間は女性ホルモンによる刺激がぐんと減りますが、子沢山だった昔とは異なり、今は1人も子どもを産まない人が多くなりました。
さらに、昔よりも栄養状態が良くなったことで、初潮が早く、閉経が遅くなったこともあって、長い間ずっと女性ホルモンの影響を受け続けるという状況になっています。
これが乳がんのリスクを非常に高めており、出生率が低い東京で特に乳がんが多い理由と考えられています。
縄文系・弥生系のがんリスク
がんの県民性には、日本人の起源も関係しています。
もともと日本には縄文人がいましたが、そこに弥生人が渡来して大和朝廷をつくりました。渡来人のゲノム(遺伝情報)は大和朝廷があった近畿を中心として中国地方・中部地方に残っています。結果的に先住民族である縄文人は北と南の辺境に追いやられました。縄文人のゲノム比率を見てみると、鹿児島・沖縄や東北の岩手・青森が多くなっています。
<白血病は沖縄県などに多い(縄文系のがんリスク)>
ヒトT細胞白血病は主に母乳で感染するウイルス(HTLV-1)が原因の白血病です。一般的に、白血病は小児に多いのですが、このヒトT細胞白血病は30〜50年の潜伏期を経て大人だけが発症します。
このウイルスは特に南九州・沖縄・東北に多いことがわかっています。この地域は縄文人のゲノムが色濃く反映されていて、結果的に白血病が多いという結果になっています。
<お酒によるがんリスクは近畿・東海・中国地方で高い(弥生系のがんリスク)>
弥生人はお酒による発がんリスクが非常に高いとされています。
お酒を飲んで赤くなる現象を「エイジアンフラッシュ」といいますが、これは中国の東北地方の一部、朝鮮半島、日本列島くらいでしか見られず、同じアジアでもインドネシアやフィリピンには赤くなる人がいません。赤くなる原因はアセトアルデヒド脱水素酵素2型(ALDH2)というもので、日本人の45%はこのALDH2の遺伝子変異をもっているといわれています。
縄文人はこの遺伝子変異をもっていないため、縄文人が多い北と南の辺境の人たちはお酒に強く、飲んでも顔が赤くなりません。逆に、弥生人が多い日本列島の中央部、近畿・東海・中国地方の人たちは、お酒に弱く、顔が赤くなります。
赤くなっているということは、発がん物質が体の中に蓄積しているということ。赤くなる人が3合のお酒を飲むと食道がんになるリスクが50倍になります。
このように、同じ日本人でもさまざまなリスクがあります。大切なのは、自分のリスクを知ることです。
子宮頸がんとHPVの関連性
<子宮頸がんとは>
子宮は子宮体部と子宮頚部からできていて、それぞれ別の臓器です。子宮体がんは乳がんに近いもので、女性ホルモンによって増えるがんです。一方子宮頸がんは性交渉にともなうHPV(ヒトパピローマウイルス)感染によるものです。子宮頸がんの罹患率は先進国の中で日本だけが上がっており、大きな問題です。
HPVは、性経験のある女性の7〜8割が経験するありふれたウイルスでほとんどは排除されますが、一部残り、わずかな確率ですが、がんになります。子宮頸がんの発症にはこのウイルスの存在が欠かせないので、性経験をもたない女性は基本的には罹りません。
<HPVワクチンについて>
子宮頸がんのHPVには非常に多くのタイプがあり、がんをつくる「高リスク型」もあれば、がんをつくらない「低リスク型」もあります。
高リスク型のなかでも、特に「16型」と「18型」は子宮頸がんの発症原因の3分の2を占めます。さらに、その他の高リスク型のものも合わせると子宮頸がんの発症原因の88.2%にもなりますが、それらのウイルスはワクチンによってブロックすることができます。
HPVワクチンというのは、発がん性を含まないHPVの殻です。この殻を事前に注射しておくと抗体ができ、本物のウイルスがやってきてもこの抗体が攻撃してくれます。
HPVワクチンは、含まれるウイルスの型によって、2価、4価、9価となっており、2価、4価のワクチンで子宮頸がんの65%、9価なら9割を予防できます。接種年齢ごとの発症比率では、接種なしを100とすると、10〜17歳の接種で88%減少しますが、17〜30歳になると 53%の減少にとどまります。
ワクチンには、感染したウイルスを排除する力はなく感染を予防するものなので、性交渉をする前にワクチンを打たなければなりません。
<HPVワクチンのキャッチアップ接種>
日本は、国際的にみるとHPVワクチンの接種率が低くなっており、結果的に罹患率が高くなっています。そこで国は、HPVワクチンの接種を逃した人たちのために、公費でワクチンを接種できる「キャッチアップ接種」を行っています。
対象となるのは、1997年度生まれ〜2006年度生まれ(1997年4月2日〜2007年4月1日生まれ)の女性です。
このキャッチアップ接種は2025年3月までとなっていますが、HPVワクチンは決められた間隔をあけて合計3回接種する必要があり、3回分の接種を終えるのに6ヵ月かかります。そのため接種を希望する場合は、今年の9月までに1回目を打っておく必要があります。
<登壇者>
東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授 中川恵一
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