井上尚弥と対戦するルイス・ネリは、なぜ過剰に嫌われるのか? その「本当の理由」─。

2024年3月18日(月)7時30分 マイナビニュース

4団体(WBA、WBC、IBF、WBO)統一世界スーパーバンタム級王者・井上尚弥(大橋)の初防衛戦の舞台が「5・6東京ドーム」に決まった。プロボクシングの東京ドーム興行は1990年2月、世界ヘビー級タイトルマッチのマイク・タイソン(米国)vs.ジェームス・ダグラス(米国)以来、実に34年ぶりのことになる。
対戦相手はWBC世界同級1位のルイス・ネリ(メキシコ)。かつて日本における試合でドーピング検査陽性反応、契約体重オーバーなど問題を起こしたことで多くのファンから厳しい目を向けられている“悪童”だが、彼が過剰に嫌われる理由は、それだけではない─。
○■「2度の裏切り」
「再び日本の地を踏むことができて嬉しい。申し訳なかったと、まずは謝りたい。皆さんを2度裏切ってしまったが、もう繰り返さない。今回はきちんと調整をしてグレートな試合を見せたいと思います」
3月6日、東京ドームホテルでの『Prime Video Presents Live Boxing 8』開催発表記者会見に登壇したネリは神妙な表情で、そう話した。
彼が言う「2度の裏切り」は、山中慎介(帝拳)戦で起こった。
一度目は、2017年8月・京都でのWBC世界バンタム級タイトルマッチ。当時、王者だった山中に挑戦しネリは4ラウンドTKO勝ちを収めベルト奪取を果たした。しかし直後にドーピング検査陽性反応が発覚する。
この時にネリは、故意の違反薬物摂取を否定した。
WBCも「故意に違反薬物(ジルパテロール)を摂取した確証は得られない、食品により摂取した可能性がある」として罰せず。ただ、ネリに対して山中との再戦を義務付けた。
2018年3月、東京・両国国技館で王者と挑戦者が入れ替わっての対峙が決まる。
ここで2度目の裏切り。
前日計量でネリが1.3キロの体重オーバーを犯したのだ。
これを知った山中が、怒りを露にしたシーンは忘れ難い。
契約体重をクリアできなかった時点でネリの王座は剥奪されたわけだが、山中陣営に選択が委ねられた。ウェイトハンディのある状況下で、「山中が勝てばベルト奪回」「ネリ勝利、引き分けの場合は王座空位」の闘いをやるかやらないか─。
○■ネリが山中慎介に直接謝罪
あの時、私は試合をやるべきではないと思った。
なぜならば、ネリは計量ギリギリまで体重を落とすことに努めたわけではなかったからだ。王座剥奪を覚悟し減量を諦め、コンディション調整に専念していた。
もちろんネリも最初は、リミットまで体重を落とすつもりだった。しかし、調整過程でプランが狂う。その時に路線変更を決めたのだ。
(タイトルを失うのは仕方がない、優先するべきは勝利だ。体重オーバーでも勝てば自分の価値が下がることはない)と。
つまりネリは減量に失敗しコンディションを崩していたのではなく、ウェイトオーバーの状態で仕上げていたのである。
帝拳サイドもわかっていただろう。
しかし、山中はリングに上がることを決めた。本当は不平等な条件下で闘いたくはなかったはずだ。
それでも「試合はしません」とは言えなかった。
チケットはすでに売られていて、日本テレビ系列での全国生中継も決まっていた。試合が中止になれば帝拳プロモーションは多額の損失を被ることになる。そうさせるわけにはいかなかった。
ネリ陣営は、そこまで計算していたのだ。
試合はネリが2ラウンドTKO圧勝。山中は、この試合を最後に現役から引退した。
ネリが、なぜ日本のファンから過剰に嫌われるのか?
それは、ドーピング疑惑があったからでも計量オーバーをしたからでもない。競技者として許されぬ狡猾なやり方で、対戦相手の気持ちを踏みにじったからである。
東京ドームホテルでの記者会見後、ネリと山中が6年ぶりに対面した。その場でネリは謝罪し、山中はこれを受け入れた。
それでも「ネリが心底から反省しているとは思えない」との声も根強くある。この真偽は私も分からないが、彼が井上尚弥戦で計量オーバーを犯すことはないだろう。
記者会見後に大橋ジム会長・大橋秀行氏はキッパリと言った。
「(ネリが)1ポンドでも体重オーバーしたら絶対に試合はやらせません」
おそらくは契約条項にこの点も厳しく盛り込んでいる。WBCも巻き込み、ネリに対して長期スパンでの体重チェックを義務付けたようだ。
山中戦の時のような事態は生じないだろう。今回の試合でネリは破格のファイトマネーを得ることになる、それをフイにするとも考え難い。
世界が注目する“世紀のスーパーファイト”が刻一刻と近づく。
勝つのは、どっちだ!?
「井上優位」との声が圧倒的だが、そうだろうか。
ネリは一撃を秘める実力者であり一筋縄ではいかない。これまでの井上の強打を恐れ逃げ回ってきた相手とは違う。神妙な表情で謝罪しながら心の奥底で「世間をアッと言わせてやる!」と叫び続けていることだろう。私は、モンスターが敗れても何の不思議もないと思っている。
GWの最終日、東京ドームは独特の緊張感に包まれる。
▼大橋会長、ネリ体重超過なら「絶対やらない」井上尚弥陣営が断言 試合2ヶ月前の練習についても明かす 『Prime Video Presents Live Boxing 8』記者会見囲み取材
文/近藤隆夫
近藤隆夫 こんどうたかお 1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等でコメンテイターとしても活躍中。『プロレスが死んだ日。〜ヒクソン・グレイシーvs.高田延彦20年目の真実〜』(集英社インターナショナル)『グレイシー一族の真実 〜すべては敬愛するエリオのために〜』(文藝春秋)『情熱のサイドスロー 〜小林繁物語〜』(竹書房)『ジャッキー・ロビンソン 〜人種差別をのりこえたメジャーリーガー〜』『柔道の父、体育の父 嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。
『伝説のオリンピックランナー〝いだてん〟金栗四三』(汐文社)
『プロレスが死んだ日 ヒクソン・グレイシーVS髙田延彦 20年目の真実』(集英社インターナショナル) この著者の記事一覧はこちら

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