約2900haが焼失した大船渡の山火事…被害を拡大させた原因は炎の竜巻「火炎旋風」!?

2025年3月27日(木)6時0分 JBpress


大阪環状線の内側と同じ面積を焼き尽くす

 2025年2月26日に岩手県大船渡市で発生した山火事は、消防士らの決死の努力にもかかわらず火の手はみるみるうちに勢いを増し、瞬く間に広範囲に広がりました。そして、最終的に市が延焼のおそれがなくなったと判断して鎮圧宣言を出したのは、出火から12日目を迎えた3月9日でした。

 その間に大船渡市全体のおよそ9%にあたる約2900ha(ヘクタール)が焼失しました。それがどれくらいの広さかというと、100ha=1km2なので、焼けた面積は29km2。これは大阪環状線内(約30km2)とほぼ同じ、東京山手線内(約63km2)のおよそ半分に匹敵します。建物被害は210棟にのぼり、このうち住宅は102棟でした。

 能登半島もそうですが、大災害に見舞われた地域が、復興途上に再び災害被害を受けることには筆舌に尽くしがたいものがあります。

 なお、山火事は山林火災、林野火災とも呼ばれますが、消防法では後者の用語を使っているので、以下では「林野火災」と表記します。同様に、火災で焼けた面積は焼失面積ではなく「焼損面積」といいます。


林野火災の発生条件が揃っていた大船渡林野火災の規模

 林野火災が発生し延焼する原因は、一般的には周知のとおり空気の乾燥と強い風にあります。事実、大規模な林野火災は冬〜春にかけて、太平洋側と瀬戸内地方で多く発生する傾向にあります。大陸から吹く強い北風が日本列島の山地にぶつかって日本海側に雪を降らせ、乾燥して太平洋側や瀬戸内地方に吹き下ろすからです。

 今冬はとくに日本海側が大雪に見舞われ、太平洋側では極度に乾燥した日が続きました。大船渡市では2月の月間降水量は観測史上最少を記録しており、2月3日から3月4日までの30日間の合計降水量は平年比5%(2.5mm)という少なさでした。林野火災が発生した2月26日も乾燥注意報が発表されていました。

 また、北風も強く吹いていました。当時大船渡市を含む岩手県南部沿岸には強風注意報が発表されており、最大瞬間風速は18.1mを記録していました。

 このように、大船渡市では乾燥と強風という林野火災の発生条件が揃っていたのです。

 日本全国で発生する林野火災は、2014年から2023年までの10年間で1万2699件、平均すると1年間で約1267件(図表2)になります。単純に日割りすると、1日に約3.5件の林野火災が日本のどこかで起こっていることになります。小規模な林野火災では死亡者がほとんどいないのでニュースになりにくいのでしょうが、じつはこんなに多くの林野火災が起こっているのです。

 そして、焼損面積を見ると、大船渡市の火災規模がいかに尋常ではなかったかを改めて思い知らされます。大阪と東京の中心部の面積との比較は前述のとおりですが、2900haという面積は、全国で1年間に焼ける林野面積の平均値の4倍以上なのです。言い換えれば、日本全国で4年間に発生するすべての林野火災で焼けた面積を足し合わせたのより広い範囲が、わずか12日間で焼き尽くされたのです。

 ちなみに、消防防災博物館によると、過去最大面積の林野が焼損したのは1961年5月に同じく岩手県で発生した「三陸大火」の際で、4万366haもの山林が焼けました。じつに大船渡市の火災の約14倍もの規模でした。


被害拡大の原因と考えられる火災旋風とは

 林野火災発生当時の大船渡市では、火災の発生と延焼の条件が揃っていたわけですが、非常に重大な現象が起こっていた可能性があり、それが被害を大幅に拡大させたと考えられます。重大な現象とは炎の竜巻とも称される「火災旋風」です。

 旋風とはいわゆる「つむじ風」で、小型の竜巻のようなものです。火災が起こると、炎に温められた空気が上昇するために、周囲から空気が吹き込みます。大規模な火災になると上昇気流が強くなるため、空気の流入も激しくなり、渦を巻き始めることがあります。この渦が火災の熱で成長し、炎の竜巻となるのです。

 火災旋風が生じると、火の粉が高く舞い上げられ、それが遠くにまでまき散らされるので、延焼が広範囲に進んでしまいます。また火災旋風の温度は通常の火災より高温になるために、消防士も近づきにくくなり、それでなくても困難な消火作業により支障を来します。

 火災旋風の発生条件はまだよくわかっていませんが、今回「火柱が高く上がるのを見た」との目撃者証言もあり、大船渡で火災旋風が発生したことは確実と見られます。


林野火災の99%は人為的な要因

 ところで、この原稿を書いている3月15日の時点では、大船渡市の林野火災の直接原因は調査中でまだわかっていません。しかし、何らかの人為的不注意やミス、危険行為が火災を引き起こしたことはほぼ確実です。

 林野火災というと、雷が落ちたり、乾燥した木々がこすれたりして自然に発火すると思われるかもしれません。しかし、日本では落雷による林野火災はおよそ1.2%程度であり、それ以外の自然現象による出火はまず考えられません。ただし、火山が噴火すれば大規模な林野火災が発生することがあります。

 つまり、林野火災のおよそ98.8%は人為的な要因によって発生しているのです。落雷が林野火災の原因になりにくいのは、落雷は積乱雲で発生することが多く、日本ではしばしば激しい雨を伴うからです。

 いずれにしろ、キャンプや野外でのバーベキューでの火の始末には十分に気をつけましょう。

(編集協力:春燈社 小西眞由美)

筆者:白石 拓

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