101歳で週6日店に立つ天川さん「気づいたら60年。夫と二人三脚で始めた中華食堂《銀華亭》。今は子どもの助けを借りて」

2024年4月2日(火)12時30分 婦人公論.jp


群馬県藤岡市で中華食堂「銀華亭」を営む、101歳の天川ふくさん(撮影:藤澤靖子)

長い人生、いつも明るい気分でいるのは難しいもの。笑顔が輝く81歳、92歳、101歳の3人の女性は、山あり谷ありの日々をどう歩んできたのでしょうか(撮影=藤澤靖子)

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考えるだけ考えたら、切り替えて次に行く


群馬県藤岡市にある、中華食堂「銀華亭」。11時半の開店と同時に次々と埋まっていくテーブルの間を、小さな体で注文を取ってまわるのは天川ふくさん、101歳だ。しゃんと伸びた背筋やきびきびとした動きを見ると、「年齢を知って本当に驚いた」という常連さんの言葉もむべなるかな。

「自分でも、よくまあ今までやってきたもんだと思います。気づいたら60年ほど経っちゃったわね」と語る。父親は養蚕の知識を伝える分教場(小規模な学校)を開き、母親もその手伝いをしていたため、天川さんは幼い頃から弟妹の世話や家事で忙しく働いてきたという。

女学校を出たら花嫁修業をして家庭に入るものと思っていたが、「戦争が始まって、若い男性はみんな戦場に行っちゃったでしょう。相手も見つからないし、家でぶらぶらしていても仕方ないから、地元のバス会社で事務員になったんです」。

戦後、26歳でお見合い結婚。夫の実家は映画館を経営していた。「この人と結婚すれば好きなだけ映画が観られると喜んでいたのだけど、実際には上映の準備や接客で忙しくて、そんな暇はなかったわ。人生は思うようにいかないわね(笑)」。

神経質で、いろいろなことを考え込む気性だという天川さん。「だけど考えるだけ考えて、『もう、なるようにしかならない』とわかったら、スパッと切り替えて次に行く。そのへんはあっけらかんとしています」

テレビに押されて映画の人気が低迷したときも、映画館の隣で食べ物屋さんを開こうと思い立ち、夫に映画館を任せて、高崎市の料理店へ見習いに行くことを決めた。

「その店のチーフが、『一番手っとり早く習得できるのは中華料理だ』と言うので、じゃあ、中華にしますって。要するに、お店を開けるなら何でもよかったの」と笑う。

味にうるさく、もともと料理も得意だった夫と二人三脚で始めた店は、ランチは近くの役場や商店で働く人で、夜は映画帰りに餃子や野菜炒めをつまみに飲む人たちで繁盛した。

21年前に夫が亡くなり、店を畳もうかと考えたこともあったそうだが、長女と次男の助けを借りて続けていくことに。

「家族といっても、不満はお互いありますよ。でも、それをいちいち口にしていたら、爆発して収拾がつかなくなっちゃう。道に外れたことだけは絶対に許さないけれど、そうじゃないことならば目をつぶる。あえて争う必要なんてないんだから」

最近は腕の筋力が落ちたため、重い中華鍋は振らなくなったというが、接客のほかに調理や盛り付け、片付けのために週に6日は店に立つ。
「お客さんによく元気の秘訣を聞かれるけれど、特別なことは何もしていないんです。趣味といったら庭の草むしりくらい。仕事、仕事で明け暮れていますから。子どもたちに働かされてるってよく言うんだけど(笑)、でもね、体力的にできないことが増えても、必要とされていることが嬉しいし、毎日が楽しいですよ」

コロナ禍でお客さんが激減したときも、「食べるものは売るほどあるんだから、しばらく生きていけるでしょ」と割り切って店を続けたという天川さん。

何が起きても、どんなときも、できることをできる限りやる。そのいさぎよさ、前向きなパワーが、シャキッと伸びた背中を支え続けているのかもしれない。

ルポ・紆余曲折を乗り越えて
【1】101歳で週6日店に立つ天川さん
【2】81歳、現役心理カウンセラーの内田さん
【3】92歳、シニアチア最年長の滝野さん

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