92歳、シニアチア最年長の滝野さん「父親の死をきっかけに夫と別居、アメリカ留学。未経験からやってみたい!とチアダンスチームを設立して29年」

2024年4月2日(火)12時28分 婦人公論.jp


シニアのチアダンスチーム「ジャパンポンポン」を設立。最年長の92歳となった現在も活躍中の滝野文恵さん(撮影=藤澤靖子)

長い人生、いつも明るい気分でいるのは難しいもの。笑顔が輝く81歳、92歳、101歳の3人の女性は、山あり谷ありの日々をどう歩んできたのでしょうか(撮影=藤澤靖子)

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楽しむことを制限されたくない


軽快なJポップに合わせて、ピンク色のポンポンがきらきらと輝く。素人目に見ても動きはかなり複雑で、皆さんの表情は真剣そのもの。コーチの指示で鏡に向かって自分の動きを確認するメンバーの中に、少々振りを間違えても常にキュートな笑顔で練習を続けている女性の姿があった。

「ジャパンポンポンでは1年に2曲、新しい演目を仕上げます。振付を覚えなきゃ、練習しなきゃとやっているうちに、気がついたらチームは結成29年。私もなんと92歳になっていました」

そう話すのは、滝野文恵さん。「55歳以上」「自称・容姿端麗」という入会規則を持つシニアのチアダンスチーム「ジャパンポンポン」を設立し、最年長となった現在も活躍中だ。

各地のチャリティショーや5年に1度の発表会では、スパンコールが輝くミニスカートの衣装に身を包み、つけまつげもばっちりで華麗にステップを踏んでいるという。

1932年生まれの滝野さんは、実業家だった父の「これからは女も自立すべきだ」という考えのもと、大学卒業後にアメリカへ留学。帰国後に就職するも、25歳で結婚し、男女2人の子どもに恵まれた。

「性格が合わなかったんでしょうね。最終的には顔を見るのも嫌になるくらい、夫との関係は悪化しました。でも、離婚に否定的な時代でしたし、私自身、子どもの受験が終わったら、社会人になったらと時期を見計らっているうちに、時間ばかりが経ってしまって」

現在の弾けるような笑顔と、ハキハキと意見を言う滝野さんの姿からは想像しがたいが、感情を押し殺し、砂をかむような思いで毎日を送っていた時期があったという。だが、滝野さんが50歳のとき、父親が寝たきり生活を経て亡くなったことが転機となった。

「仕事を愛し、音楽や食べることを楽しんでいた父ですら、『自分の人生は無だった』と弱音を吐いて亡くなったことがショックで。ああ、私もこのまま決断しないでいたら、『なんのための人生だったの』と愚痴って死ぬことになる。そんなの絶対イヤ。最期は、『楽しい人生だったわ。ありがとう』って言いたいと思ったの」

子どもたちにも背中を押され、52歳でついに滝野さんは一人で家を出る。以降、別居生活に入った。父親の死をきっかけに「ジェロントロジー(老年学)」に興味を持ち、30年ぶりのアメリカ留学も決行する。

帰国してから5年後のあるとき、「アメリカの知り合いから送られてきた本に『平均年齢74歳のチアダンスチームがある』と書いてあったのを読んで、『何これすごい、やってみたい!』とひらめいちゃった」。

昔から、興味が湧いたら挑戦してみないと気が済まない。

「ハマるかハマらないかは、やってみなければわからないでしょう。やるからには一生懸命。それでダメなら引き下がる。とにかくまずは始めてみないと」

アメリカから資料を取り寄せ、渋谷の喫茶店に友人を10人ほど集めて話をすると、数人が賛同してくれた。始めるなら指導者が必要だと考えた滝野さんたちは、その足でメンバーの一人の母校、青山学院大学のバトン部をアポなしで訪問したという。

「チアダンスもバトンも似たようなものだと思って(笑)、その場にいたキャプテンにコーチをお願いしました。思慮分別はないくせに、行動力だけは人一倍あるんです。考えても仕方のないことに悩んでも、現状はよくならないし。ましてや、相手のあることではね。

それに、ちょうどいい時期、都合のいいタイミングを待っていたら何もできないというのは、結婚生活で身に染みていましたから。貧しかろうが年をとろうが、もう自分が楽しむことを制限されたくないという気持ちだったのね」

チームを結成するにあたっては、グループ内での冠婚葬祭は一切しない、お土産のやり取りも禁止などを会則として明文化した。

「お節介だの義理人情が、私はもともと大の苦手。そんなことで煩わされず、純粋にチアダンスを楽しむグループにしたかったの」

週に1回の練習は、よほどのことがない限り休まない。さすがに90歳を過ぎた頃から厳しいと感じる動きもあるが、「コーチには、『私がついていけないから、この振りはやめましょう』と頼むことはありません。難しかったら、練習をちょっと頑張るのみ!」。

滝野さんの普段のファッションも、鮮やかで若々しい。「日本では年相応のものを着ていないと、白い目で見られがち。でも、年を重ねた人ほど明るい色が似合うと私は思っているし、気持ちも上がるでしょ」。

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人は人、自分は自分。そのときどきでできることを精一杯やって、無理だと思えばすっぱり手放して後悔しない、振り返らない。3人のお話から見えてきたそんな共通点が、人生を輝かせる秘訣なのかもしれない。

※滝野さんは取材後、2024年3月25日に行われた《USAナショナルズ2024》をもって現役を引退。今後は顧問としてチームを見守るという。

ルポ・紆余曲折を乗り越えて
【1】101歳で週6日店に立つ天川さん
【2】81歳、現役心理カウンセラーの内田さん
【3】92歳、シニアチア最年長の滝野さん

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