試験前日「寝る前にスマホでちょっとネット記事でも」が悲劇を…眠っている間に<学習>はどう進むのか

2024年4月5日(金)12時30分 婦人公論.jp


(写真提供:写真AC)

「メタ認知」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。「メタ」とは「高次の」という意味で、つまり認知(記憶、学習、思考など)を、高い視点からさらに認知することを指します。三宮真智子大阪大学・鳴門教育大学名誉教授によれば「メタ認知は自分の頭の中にいて、冷静で客観的な判断をしてくれる<もうひとりの自分>。活用次第で頭の使い方がグッとよくなる」だそう。先生の著書『メタ認知』をもとにした本連載で、あなたの脳のパフォーマンスを最大限に発揮させる方法を伝授します!

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自分を被験者に


眠ることが大好きな著者は、中学の頃から自分を被験者にして「眠り」にまつわる実験もいろいろと行いました。

そして、実験の末に得た自分なりの大発見に、「就寝前記憶効果」(注:当時の私が勝手に名づけたもので、心理学用語ではありません)があります。これは、眠りにつく前の時間帯に入力系の勉強をしておくと効率がよいというものです。

わずかな手間で、頭が勝手に覚えてくれるといった感じです。ちなみに入力系の勉強とは、覚える(記憶する)勉強のことです。問題を解く、あれこれ考えるなどの思考系の勉強は、これに当てはまりません。

当時、就寝中の脳の働きについての知識などまったくなかった著者には、この就寝前記憶効果が不思議でなりませんでした。眠っている間に、頭の中でいったい何が起こっているのだろうと、よく考え込んだものです。

原理はわからないものの、効果が歴然としていたので、就寝前は記憶の時間にすることにしました。すると、副次効果として、何かを真剣に覚えようとしてから眠りにつくと寝つきもよくなるという「おまけ」までついてきました。

たぶん、単純な記憶作業が少々退屈だったのと、脳が疲労したことも原因だったのではないかと思います。

脳は睡眠中にも活動している


眠っている間は意識がないため、著者たちは、脳が完全に休んでいると思いがちですが、実は、脳は睡眠中にも活動しているのです。その根拠として、レム睡眠を挙げることができます。

レム睡眠とは、急速眼球運動(Rapid Eye Movement:REM)を伴う睡眠のことです。

眠りに落ちてから次第に睡眠は深くなりますが、その後浅い眠りであるレム睡眠に入ります。一晩の眠りの中では、約90分のサイクルでレム睡眠とノンレム睡眠が交互に起こります。

レム睡眠においては、眠っているにもかかわらず、起きている時と同様に大脳が活発に活動しており、また、心拍数が増加しています*1。

眠っている間にも学習は進む


レムを伴わない睡眠はノンレム睡眠と呼ばれる深い睡眠です。

一晩の睡眠中に、レム期とノンレム期が交互に生じ、およそ4〜5回程度のレム期があるとされています。レム期の脳は、覚醒寸前のところまで行き、再び深い眠りを伴うノンレム期へと移行します。

実は、このレム期には、新しく学んだことを、すでに知っていることと関連づけたり記憶を整理したりする活動が生じ、記憶の定着が生じます*2。

その結果として、必要な時に思い出しやすくなります。また、眠る前には気づかなかった、ある情報と別の情報との関連性に気づきやすくなります。

つまり、眠っている間にも学習は進むのです。

記憶学習の後は、さっさと寝てしまう方がよい


このことから、(私が昔考えたような)寝る直前でなくとも、その日に得た情報は就寝中に整理されて定着すると言えそうですが、もう一つ大きな就寝前効果を挙げることができます。それは、記憶に逆向抑制がかからないという点です。

逆向抑制とは、あることを学んだ直後に別のことを学ぶと、先の学習が妨害を受けてしまうという現象です。眠ってしまえば、その後何も情報が入力されないため、眠りにつく前に入力した情報が守られるというわけです。

これは、注意すべき点でもあります。

というのは、せっかく就寝前に記憶したとしても、その後、「寝る前にちょっと一息入れよう」と、ネットの記事を見たりすると、今度はその情報が鮮明に残ってしまい、先ほど一生懸命に覚えたことが逆向抑制を受けて水の泡となりかねないためです。

油断は禁物です。メタ認知を働かせて、記憶学習の後は、さっさと寝てしまう方がよいでしょう。

ーーー

*1. Aserinsky, E., & Kleitman, N. (1953) Regularly occurring periods of eye motility, and concomitant phenomena, during sleep. Science, 118, 273-274.

*2. Boyce, R., Glasgow, S.D., Williams, S., & Adamantidis, A. (2016) Causal evidence for the role of REM sleep theta rhythm in contextual memory consolidation. Science, 352, 6287, 812-816.

※本稿は、『メタ認知』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

婦人公論.jp

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