認知症の人の不安に寄り添う「5つの会話術」。うなずく、相づち、オウム返し、要約…理学療法士が教える<最重要ポイント>とは

2024年4月9日(火)6時30分 婦人公論.jp


(マンガ:中川いさみ)

厚生労働省によると、認知症の患者は2025年に約700万人まで達するとされています。一方で「認知症の症状は、お天気と同じで晴れたり曇ったり。思うようにいかない日があれば、心が通じ合う<晴れ>の瞬間もある。周囲はそんな<晴れ>を増やす方法を知っておくことが大切だ」と理学療法士の川畑智さんは語ります。その川畑さんいわく、認知症の人とスムーズにコミュニケーションをとるには、5つのポイントがあるそうで——。

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不安に寄り添う気持ちを忘れないで


認知症の方とのコミュニケーションは、簡単ではありません。

同じことを繰り返し聞かれたり、何度言っても話を理解されなかったり、

「もう、どげんすればいいのかわかりません!」

と苦しさを打ち明けてこられるご家族の気持ちは、よくわかります。

でも、同じことを何度も聞いてしまうのは、記憶に障害が起きているためです。

話を理解できないのは、言葉に関する脳の領域が衰え、「失語」の症状が出ているためです。

そして、自分に起きている異変に気づき、失敗を繰り返す自分を、ご本人が一番情けなく、悲しく感じていることが少なくありません。

どうか、その不安に寄り添う気持ちを忘れないでください。

「5つの会話術」


とはいえ、ただ「寄り添う」と言っても、難しいこともありますよね。

じつは、この「寄り添う」という行為は、気持ちの問題であると同時に、ものすごく技術的な問題でもあります。

そこで、私がいつも認知症の方との会話で大切にしているのが、次の「5つの会話術」です。

【1】うなずく
【2】相づちを打つ
【3】オウム返しをする
【4】まとめる・要約する・ゆっくり打ち返す
【5】褒める

【1】うなずくと【2】相づちを打つは、セットで対応するよう習慣づけます。

認知症の方がなにかを話し出したら、正面を向いて、やや大きくうなずきながら、同時に「うんうん」と声に出して反応しましょう。

「話を聞いてもらえている」と思えれば、認知症の方もまずは安心できます。

続いて、会話の中に具体的な内容を表す単語が出てきたら、相づちに必ずその単語を交ぜ、【3】オウム返しをします。

たとえば、「寒い」という単語が出てきた場合は、「あら、寒いんですね!」と、「カーディガンを着たい」と言った場合は「なるほど、カーディガンを着たいんですね!」と、そのまま打ち返すわけです。

相手からの会話がひととおり出切ったところで、【4】内容をまとめ、要約して、ゆっくり打ち返します。

「Aさん、寒いのでカーディガンを着ましょうね」。こんな具合です。


『ボケ、のち晴れ 認知症の人とうまいこと生きるコツ』

私(I)の感謝を伝えるか?あなた(YOU)を褒めるか?


そして、最も重要なポイントが【5】の褒めること。

私は、認知症の人とのコミュニケーションは、「褒(ほ)ミュニケーション」と呼んでもいいと思っています。お互いがポジティブになれ、晴れ間をつくり出す重要な要素だからです。

褒めるメッセージには、大きく2つの出し方があります。

◆私(I)が感謝する…… 「ありがとうございます」「助かりました」「私、びっくりしました」「感心しました」「楽しかったです」「勉強になりました」など、「私」が主語になって、感謝や称賛のメッセージを伝える。

◆相手(YOU)を褒める…… 「すごいですね」「さすがですね」「えらいですね」「立派ですね」「一番ですね」……など、「相手」の能力や行動を褒める。

これらは「Iメッセージ」と「YOUメッセージ」と呼ばれているものですが、相手がどちらを好むかによってメッセージの出し方を決めることが重要です。

これはなにも、認知症に限った話ではありません。

恋愛だって、「かわいいね」と言われたときと、「君といると幸せだ」と言われたときと、どっちがうれしいかは、結局その人次第ですよね。

「この人はどっちのメッセージがハマるんだろう」と普段の会話からつかんでおけば、たくさん《あなた》を褒めてあげるべきなのか、《私》の気持ちをどんどん伝えたほうがいいのか、というふうに分かれていくわけです。

私はいつも、どんな言葉で褒められたときに、最も笑顔が大きくなるのか、声やリアクションが大きくなるかを観察し、心に響く褒め方をメモしています。


『ボケ、のち晴れ 認知症の人とうまいこと生きるコツ』(著:川畑智、監修:内野勝行、イラスト:中川いさみ/アスコム)

いい褒め方と、悪い褒め方


ところが、褒めることは案外難しいことでもあります。

ついクセになってしまい、なんでもかんでも「すごい、すごい」と褒めがちです。

服を着ることができた、トイレをうまく済ませられたというようなことをむやみに褒められると、逆に「これくらいのことを大げさに褒めるなんて、バカにしているの?」と、不快に思われることもあります。

褒めるメッセージの出し方を間違えると、「全然褒められていない」「私のことをわかってくれない」となってしまう。

言われたほうは「私は子どもじゃない!」となってしまうわけです。

想像してみてください。大の大人であるあなたが、小学生にかけるような褒め言葉を浴びせられたら、むしろ腹が立ちますよね。

私たちはつい忘れてしまいがちですが、認知症の人は、できないこと、苦手なことが増えていくだけで、豊かな感情はしっかりと保たれています。

認知症である前に「大人(ひと)」なのです。

本人の口から出てきた「褒め言葉」を使う


単に褒めるだけでなく、普段その人が、どうやって他人を褒めているかを観察することも大事です。人は、自分自身が言われて嬉しいと感じる言葉を、相手に対して無意識的に使うことが多いのです。

ですから、本人の口から出てきた「褒め言葉」を使って褒めてみましょう。

先日、86歳の佐藤さんがきれいな折り鶴を折ったので、私はつい短絡的に「すごいですね!」と言ってしまいました。

すると佐藤さんは、「なにもすごくないわよ」と不機嫌になり、私はすっかり嫌われてしまったのです。

そこで私は、佐藤さんがなにかを気に入ると、いつも「素敵ね」と言っているのに気づき、次に折り鶴を折ったときは、「素敵ですね」と言ってみました。

すると佐藤さんは、にっこりと笑い「あら、ありがとう。あなたにあげるわ」と言って、私に折り鶴をくれました。
※本稿は、『ボケ、のち晴れ 認知症の人とうまいこと生きるコツ』(アスコム)の一部を再編集したものです。

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