人生の問いについて考える道筋を、灯台の光にも似た強く優しい光で示す『光であることば』

2024年4月11日(木)11時0分 ソトコト


再生の季節。


今年の元日も、普段と変わらず家族と自宅で過ごしていた。4歳の息子にせがまれてプラモデルを組み立てていると、突然、警告音が鳴り響き、正月気分は一蹴された。激しい揺れが収まり、割れた器を片付け、TVに映し出される映像を沈痛の思いで見続けた。友人の顔が脳裏に浮かぶ。車で2時間と離れていない場所で暮らす彼らに、慰めの言葉もないことが、いたたまれなくて仕方なかった。


『光である言葉』は、随筆家の若松英輔が、自身の苦楽を支えた名著を通して、喜びや希望、悲しみや別れなど、心の片隅にいつもあるけれど、日常に引き寄せて考えることが難しい、多くの人生の問いについて考える道筋を、灯台の光にも似た、強く優しい光で示した一冊だ。


本の中で若松は、自身が悲しみの渦中にいた際、励ましの言葉は胸に響かなかったと吐露し、「悲しさは共に悲しむ者がある時、ぬくもりを覚える」という柳宗悦の言葉を引いている。「慈悲」という言葉があるように、悲しみには慈しみが伴う。一人で抱えている時は冷たい悲しみが、共に悲しむ時にはぬくもりを持っているという真理は、励ましの言葉の無力感に苛まれた気持ちに、寄り添ってくれた。穏やかな日差しが、土の下に眠る生命を呼び覚ます頃、新たな芽吹きと共に、再生の季節は訪れる。冷たい悲しみの果てには、暖かな再生が待っている。そのことをいつまでも忘れずにいたい。


『光であることば』


若松英輔著、小学館刊

text by Keiichi Asakura


朝倉圭一|あさくら・けいいち●1984年生まれ、岐阜県高山市出身。民藝の器と私設図書館『やわい屋』店主。移築した古民家で器を売りながら本を読んで暮らしている。「Podcast」にて「ちぐはぐ学入門」を配信。


記事は雑誌ソトコト2024年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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