岡安学の「eスポーツ観戦記」 第147回 演出で“らしさ”が存分に出たeスポーツ大会「東京メトロカップ」、鉄道会社が開催する意味を考える

2024年4月12日(金)12時13分 マイナビニュース

3月30日に「TOKYO METRO CUP STREET FIGHTER 6(東京メトロカップ)」の決勝大会が開催されました。予選は3月3日にオンラインで実施。学生部門から3名、一般部門から8名の予選通過者が、オフライン会場であるJCG豊洲スタジオに集結しました。
学生部門の出場条件は「3月3日時点で学生であること」。それ以外の規定はなく、ある種、盲点を突いた形で、IBUSHIGIN所属のかべ選手(現在cosa選手に改名)が参加していました。かべ選手はプロゲーマーであると同時に、鍼灸師の専門学校に通っている学生でもあります。「ストリートファイターリーグにも参加するプロゲーマーが学生として出場するのはどうなのか?」と思う人もいるかも知れませんが、レギュレーション的には問題ありません。
そのかべ選手はウイナーズファイナルで残っており、JP使いの雄次郎選手と対戦します。かべ選手はJPのアムネジアを完全に封じ込め、危なげなくグランドファイナルに進出しました。
ルーザーズファイナルは、先ほど敗北した雄次郎選手とまるみ選手による一戦です。まるみ選手はキャミィ使いで、JPには相性の良いキャラクター。さらにJPは先日のアップデートで弱体化されたこともあり、キャミィが自信を持って攻撃しているのがわかります。その結果、3-0ストレートでまるみ選手が勝利し、かべ選手との対戦に向かいます。
グランドファイナルでは、ルーザーズファイナルの勢いを持って、先に2セットを先取するまるみ選手。しかし、かべ選手もプロゲーマーの意地を見せます。そこから、2セットを取り返してフルセットにもつれ込みました。そして、5セット2ラウンド目に残り体力がお互いにわずかな状況で、かべ選手がドライブラッシュで間合いを詰めます。
これに対してまるみ選手は、ODキャノンスパイクで反撃しようとするも、コマンドミスでしゃがみ強キックになってしまいます。しかし、これが功を奏し、攻撃がヒット。まるみ選手が勝利しました。ODキャノンスパイクなら立ちガードされていた可能性もあり、流れはまるみ選手にあると言えます。
そして、グランドファイナルリセットに突入。ここで、かべ選手が対応力を発揮します。地上戦での差し替えしや差し合いで相手を追い込み、やれることを減らしていきます。結果、3-0ストレートで勝利し、かべ選手が学生部門での優勝を決めました。
一般部門では、ウイナーズサイドにネモ選手、ひぐち選手、神木C選手、小路KOG選手、ルーザーズサイドにNISHIKIN選手、えびはら選手、翔選手、おわえちゃん選手が決勝トーナメントに進出。いずれも劣らず有名選手ぞろいで、「注目選手は全員」と言いたくなるほどのメンバーです。
そんななか、注目ポイントを挙げるとするならば、キャラ替えをしたネモ選手と日本のブランカプレイヤーの代名詞と呼べるNISHIKIN選手の2人が、CAPCOM CUPで一気に注目を集めたブランカでどこまで勝ち進めるか。さらに『BLAZEBLUE CROSS TAG BATTLE』と『グランブルーファンタジーヴァーサス』の2タイトルでプロライセンスを持つ小路KOG選手や3月中に2度の大会(Fighters CrossoverとBeast Cup)で優勝し、1ヶ月で3度の優勝を狙うひぐち選手、ひびき軍団として、活躍が目覚ましいえびはら選手、昨年は海外大会で大活躍した翔選手など、まさに群雄割拠で誰が優勝してもおかしくない状態です。
ウイナーズサイドは、同じチームのネモ選手を倒したひぐち選手が、ウイナーズファイナルで小路KOG選手も倒し、グランドファイナルに進出します。かたやルーザーズサイドを泳ぎ切ったのは、ルーザーズ1回戦から勝ち上がったNISHIKN選手。小路KOG選手とのルーザーズファイナルもブランカらしいトリッキーな動きで小路KOG選手を翻弄します。とりわけ前ダッシュからサプライズフォワードで裏へ回る攻撃がことごとく決まり、3-1でNISHIKIN選手が勝利しました。
グランドファイナルは、ひぐち選手対NISHIKIN選手。ひぐち選手の初戦の対戦相手のネモ選手がブランカ使いだったこともあり、大会前にスパーリングをしていたとのことです。お互いの手の内がわかった状態での対戦となりました。
そのため、試合は読みがまわりまくって、うまく噛み合ったほうが勝利するような展開が続きます。セットカウント2-2から先にラウンドを取り、リセットにリーチがかかりますが、そこからひぐち選手が逆転し、ひぐち選手が優勝を決めました。これでひぐち選手は、3月だけで3回の優勝を成し遂げる快挙を達成しました。
今大会を主催した東京メトロは『PUBG Mobile』で大会を開いた実績があり、赤羽岩淵近くの遊休地でeスポーツジムを展開(2023年閉店、現在はシニア向けのeスポーツ施設として継続)するなど、eスポーツには関わりの深い企業です。今回の『スト6』の大会も満を持しての開催と言えます。
「これまで『PUBG Mobile』の東京メトロカップや『Fortnite』の親子大会『親子Duo大会in東京 DEATURING FORTNITE』など、eスポーツイベントをいくつか開催してきました。1対1の対戦での大会が開催できないかと思い、『スト6』を取り上げました。オフライン無観客での開催でしたが、ゆくゆくは完全オフラインでやっていきたいですね」(東京地下鉄 経営推進本部 新規事業推進担当 山崎士氏)。
今回の大会もこれまでの知見が存分に活かされており、特にデザイン面や演出面では、東京メトロが開催するeスポーツイベントであることがよくわかる出来映えになっていました。
実況解説を務めるハイタニさんとこく兄さんの2人は、東京メトロの制服に身を包み、試合開始時に「出発進行!」のかけ声も。さらに試合前のウェイティングゾーンの背景には、駅名看板のようなデザインで、これから行われる試合の状況の説明もされていました。
電車の乗降ドアや窓ガラスに掲載されるステッカー広告が『スト6』仕様になっていたほか、トーナメント表も路線図のようなデザインで、この大会がどこが主催であるか、一目瞭然。冠スポンサーになるでも、eスポーツ運営会社に丸投げするでもなく、自社開催したからこそ、東京メトロらしさを存分に出せたのでしょう。今後のeスポーツイベントを開催したいと考えている企業にとって、お手本となるような大会でした。
個人的には、大会規模の割にはパートナー企業やスポンサー企業の数が多く、いずれも大手企業であったことが気になりました。これは広告媒体としても存在する鉄道会社だからこそのつながりから協力してもらえた部分があったのではないでしょうか。
これまであまりeスポーツと関わってこなかった企業が、東京メトロを通じて、存在を知り、その魅力を知ってもらうことで、eスポーツがより拡大していく可能性があります。そういう意味でも東京メトロがeスポーツイベントを主催することは大きな意味があったと言えます。
かつて、プロ野球チームの3分の1は、鉄道会社が親会社で、プロ野球の発展を支えてきました。現在、東京メトロ以外に、JR東日本、京王電鉄、京急、南海などがeスポーツ事業を展開しており、今後はプロ野球並に発展するために下支えしてくれるのではないでしょうか。
著者 : 岡安学 おかやすまなぶ eスポーツを精力的に取材するフリーライター。ゲーム情報誌編集部を経て、フリーランスに。様々なゲーム誌に寄稿しながら、攻略本の執筆も行い、関わった書籍数は50冊以上。現在は、Webや雑誌、Mookなどで活動中。近著に『みんなが知りたかった最新eスポーツの教科書』(秀和システム刊)、『INGRESSを一生遊ぶ!』(宝島社刊)。@digiyas この著者の記事一覧はこちら

マイナビニュース

「eスポーツ」をもっと詳しく

「eスポーツ」のニュース

「eスポーツ」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ