還暦前に終活を。荷物を減らし住まいを小さく、VIO脱毛も始めた栄子さん。老後は「お金がないなら、身の丈に合った暮らしを」

2024年4月13日(土)12時30分 婦人公論.jp


写真提供◎photoAC

昨年は、モトザワ自身が、老後の家を買えるのか、体当たりの体験ルポを書きました。その連載がこのほど、『老後の家がありません』(中央公論新社)として発売されました!(パチパチ) 57歳(もう58歳になっちゃいましたが)、フリーランス、夫なし、子なし、低収入、という悪条件でも、マンションが買えるのか? ローンはつきそうだ——という話でしたが、では、ほかの同世代の女性たちはどうしているのでしょう。今まで自分で働いて自分の食い扶持を稼いできた独身女性たちは、定年後の住まいをどう考えているのでしょう。それぞれ個別の事情もあるでしょう。「老後の住まい問題」について、1人ずつ聞き取って、ご紹介していきます。

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「元気なうちに終活を。還暦前に中古マンション購入した栄子さん。物を処分し、1DKに荷物を収めた」はこちら

購入は大正解、部屋に大満足


東北の県庁所在地で生まれ育った介護福祉士の栄子さん(仮名、60)は、いま高齢者福祉施設の職員です。両親はすでに他界、実家には兄が住んでいます。栄子さんはアパート暮らしでしたが、職場の先輩に「年を取ったら家を貸してもらえない」と聞いて、数年前から中古マンションを探し始めました。

当初は40平米1LDKを狙っていましたが、なかなか物件が出ません。それに、多くの高齢者を見てきた中で、年を取ると動けなくなり、広い家は不必要だ、ということも分かってきました。広さは30平米弱で我慢して、立地優先で、貯蓄で買える価格帯の物件を探しました。結果、3年前に、いま住んでいるマンションを現金で買えました。交通利便性が良く、日常的な買い物や通院に便利な、駅近のエリアです。栄子さんは引っ越しを機に、積極的に断捨離も始めました。

新居では、栄子さんは予定通り、室内を部分リフォームしました。間取りと、三ツ口コンロ付きのシステムキッチンはいじりませんでした。でも、2点ユニットバスとトイレは200万円近くかけて新品に交換し、水回りの床はこじゃれたヘリンボーン調のクッションフロアに張り替えました。

壁紙と天井のクロスも張り替え、和室の畳はフローリングに。押し入れは襖を外し、洋服掛けのバーを造り付けてクローゼットにしました。結局、購入申し込みから、売買契約、室内リフォームのプラン立案、見積もり、施工・完成まで、半年近くかかりました。

でも、購入とリフォームで予算内の数百万円に収まりました。3年前の春、栄子さんはここに引っ越して来ました。まだ荷物は多いものの、購入は大正解、部屋に大満足、とのことです。

駐車場はマンションの目の前で、月1万円。職場までの通勤のほか、ヨガ教室や近場の温泉にも車を運転して行きます。でも、日常的な食品の買い出しも、友だちと食事に行くのも、歩いて行かれます。ふだんは自炊していて、産直の店でホウレンソウやにんじんなど野菜を買っては、週末に作り置きをします。

荷物を減らした分、部屋は30平米とは思えないほど広々としました。何種類もの観葉植物が、室内に葉を広げています。これからは、ぼけないよう、フレイルで寝たきりにならないよう、体力が大事。なので、ヨガのほか、ウオーキングやストレッチなどで、体は鍛え続けるつもりです。

マンションを購入したことで、栄子さんの月々の住居費は、家賃6万円から、管理費と修繕積立金の約2万円+駐車場代1万円の計3万円に下がりました。駐車場は、いずれ車を手放したら不要になります。月に2万円の住居費なら、年金生活になっても払えると試算します。

それでも、「体調次第だけど、年金の受給開始を65歳か70歳からにして、受給額を増やしたい。それまでは、パートで働いて稼ぐつもり」と、栄子さん。

介護職は給料が高くないので、厚生年金もあまり多くありません。社会保険料や住民税などが引かれると、月の手取りの年金は、国民年金と足しても12〜13万円程度になりそうだからです。

老後の備え


今の職場の定年は60歳。栄子さんは今年で定年です。同業の中では待遇は良い方で、62歳までは今と同じ給与で働き続けられます。ただ、62歳を過ぎたら給与が半額になります。今は月4回の夜勤に手当が付くため、そこそこの手取りですが、今後は夜勤やシフト勤務は体がきつくなるでしょう。

なので、あと2年働いて、給与が下がるタイミングで退職し、その後は日勤のパートに変わりたいと、栄子さんは企図しています。高齢化社会ゆえ幸い、介護士の需要は高く、自宅近くの病院でもパートで介護福祉士を募集していました。

フルタイムではなく、無理のない範囲で。週に数日のパートで、細々と現役で働いて、なるべく無駄遣いをせず、いまの部屋で、小さく満ち足りて老後を暮らしていきたいと、栄子さんは考えています。


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「お金がないなら、ないなりの生活をすればいいのよ。死なない程度に、その時々で生きて行かれればいいわ」

話は逸れますが、「老後の備え」でいうと、栄子さんはすでに「VIOライン」の永久脱毛を始めたそうです。ええー? 脱毛ですか? 介護の現場で下の世話をしていると、脱毛の必要性を痛感するとか。高齢者のおむつ交換で何が大変かといえば、陰毛についた汚物の処理だそうです。

「きったなくて。毛についちゃうと、取れないから」。取り切れないと匂いも残るし不衛生です。体毛の濃さは人により、年を取るとみな薄くなるのでなく、高齢でも濃い人もいるそう。そういう人は拭くのが大変なので、介護現場の人たちの間では、「要介護になる前の、VIOラインの永久脱毛」が流行っている、と栄子さんは言います。

「みんな脱毛してる。あたしも、もうやった」。5万円ほど払って施術を受けました。完全に脱毛するには、あと5万円分くらいかかりそうで、栄子さんは近々、再度、クリニックに行く予定だそうです。

「遺贈しようと思ってます」


母亡き後も、実家には兄が住んでいます。「ほんとはマンションを買わなくても、実家に住めば良かったんでしょうけど……」。でも栄子さんの一人暮らし歴はすでに40年近く。「たとえ兄でも、今更、ひとと一緒には住めない!」。実家の処分はいずれ兄がするでしょうが、お墓は、栄子さんが墓じまいをするつもりです。

本家の墓は車で2時間以上かかる場所にあるため、父が、自分たち4人家族用の墓を近くに作りました。いまは父と母が眠っています。いずれ兄も入るでしょう。栄子さんは兄を見送った後で墓じまいをして、自分は散骨してもらいたい、と考えています。

お墓の始末まで考えている栄子さんですから、もしかしたら、「老後の家」、最期まで住める「終の住処」の、自分が死んだ後の処分についても、考えてますか? 「遺贈しようと思ってます」と栄子さんは即答しました。びっくり! なんと、遺贈とは!!


『老後の家がありません』(著:元沢賀南子/中央公論新社)

遺贈は、死後に財産を寄付することです。「NGOが遺贈を受け付けてくれるようになったので」と、栄子さん。惜しげもなく、他人さまに差しあげてしまうのですね! なんて人間が出来ているのでしょう!

もう自分は結婚もしないし、子どもも持つこともないだろう、と悟った40歳の頃、栄子さんは国際NGOへの寄付を始めました。以来、この20年ほど、毎月3000円の寄付をずっと続けて来ました。寄付先は「プラン・インターナショナル・ジャパン」。紛争や貧困などで厳しい状況にある海外の子どもを支援するNGOです。

栄子さんは、アフリカや紛争地帯の子どもたちの「里親(フォスターペアレント)」になってきました。「フォスターチルドレン」から手紙が来るなどの交流もあります。残念ながら、途中で生死不明になったり、病気で亡くなったりした子もいましたが、栄子さんは止めませんでした。

そのNGOが最近、遺贈を受け付け始めたと聞いたのです。もしもの時は、自宅マンションはこのNGOに遺贈するように手続きをしたい、と栄子さんは言います。

身の丈に合った暮らし



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「身の丈に合った生活でいいの。あたしは、贅沢はしなくていいから」

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栄子さんは何度も「身の丈に合った暮らし」という表現を使いました。稼げる範囲で、体を壊さない程度に働いて、その収入に見合うような、「身の丈にあった」生活をする。贅沢は要らない、満ち足りた生活ができれば、それでいい、と。栄子さんの潔い生き方は、まるでシングル女子の鑑ですね。

自分で自分の身始末をして、多くを望まず、贅沢を好まず、人様に奉仕する。——煩悩まみれのモトザワにはハードルが高くて、とうてい真似できそうもありません。それどころか、真似できないダメな自分が責められているような気すらして、妙に落ち着きません、苦笑。

せめて私も、「実家の墓じまい」「年金受給年齢の後ろ倒しの検討」「身の丈に合った暮らしの確認」と「支出の削減」くらいは、今一度、真剣に考えてみます。でもまずは、里親のNGOですかね。さっそく調べます!(免罪符じゃないですよ)

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