なぜ? 発売から49年、日本の大定番「キャンパスノート」が書き心地、丈夫さ、低価格を守り続ける理由

2024年4月21日(日)21時15分 All About

発売から49年たった今でも、多くの人にとって標準的なノートとして愛用され続けているのが、コクヨのキャンパスノートです。その歴史についてはよく語られていますが、では、そのキャンパスノートとはどういうノートなのか。コクヨが考えるノートについて担当者に聞きました。

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1975年に発売されたコクヨの「キャンパスノート」は、49年が経過した今でも、学生を中心に多くのユーザーに愛用されている日本のノートの大定番製品です。発売当初から今まで、4回の大きなモデルチェンジが行われており、現在流通しているものは5代目。
キャンパスノートの歴史や表紙、ロゴの変遷については筆者も以前に取材して、何本かの記事を書きました。しかし、「キャンパスノート」はコクヨにとってどのような存在なのか、コクヨが考えるノートとはどういうもので、「キャンパスノート」が「キャンパスノート」であるためにコクヨが守っていることは何かという部分は、あまり語られていません。
今や、「大人キャンパス」や「スマートキャンパス」「キャンパス フラットが気持ちいいノート」などバリエーションも増え、さらには「限定 キャンパス肉球ソフトリング」のような、思い切った表紙デザインの製品も登場しています。
それらが、なぜ「キャンパスノート」のブランドで発売されているのか、他のコクヨのノートと、「キャンパスノート」との境界はどこにあるのか、そういったことを、コクヨでキャンパスノートの企画を担当されている絵馬多美子さんと、開発を担当されている中村ちえ子さんに伺いました。

筆記具を選ばず、快適に書ける「紙」がキャンパスノートの基本


「例えば、『ノー3A』というキャンパスノートを代表する品番がありますが、このノートはどんな筆記具で書いても、どんなシーンで書いても、多くの方に使いやすい、書きやすい、心地いいと感じていただけるような製品を目指しています。
例えば、高校生であればメインの筆記具はシャープペンですし、大人はボールペンですよね、そのどちらかに特化した紙というのも作れるのですが、『ノー3A』に関しては、どのような筆記具で書いても書きやすいし、ボールペンや万年筆でも裏うつりしにくい、扱いやすいというような紙を目指して作っています」と絵馬さん。

例えば「キャンパスノート(用途別)」の小学生向けの製品では、鉛筆で書きやすく、消しゴムで消しやすいといった機能に特化した紙を使うなど、製品コンセプトによっては、使われている紙も違ってくるのですが、多くの製品は「ノー3A」で使われている、筆記具を選ばない紙が採用されています。
その方針はキャンパスノート初代から同じだそうです。つまり、「誰でも心地よく使えるノート」というのは、キャンパスノートという製品を代表する特長と言えそうです。
「キャンパスノートがキャンパスノートであるために最も重要で、変えられない部分は、“紙の書き心地”ですね。長年使っていらっしゃる方は特に、そこが変わるのは嫌だと思うんです。また、キャンパスノートとして誇れるのは、“耐久性”と“丈夫さ”です。これらは、初代から現在の5代目までずっと向上させています」と絵馬さん。

安心して使ってもらうための「耐久性と丈夫さ」


耐久性と丈夫さを決めるのは、製本と背クロスと呼ばれる背のテープの部分。背割れしたり、中紙がばらけたり、はがれたり、ハードに使っても、そういったことが起こらないように、製本方法と背クロスについては細かく進化させているそうです。
元々、それまで主流だった「糸とじ」ではなく、ノートの表紙と中紙を糊だけで固定する「無線とじ」を積極的に採用したのが、キャンパスノートでした。糊だけで固定しつつ、見開きやすく、ページがばらけにくい製品を作る技術力が、初代キャンパスノートを支えていました。
「コクヨ全体としては、別のブランドでざらざらした書き応えのある紙を使ったノートや、用途別の小学生向きのような、ツルツルした、筆圧が弱い人でも書きやすく消しやすいところを狙ったノートも作っているのですが、キャンパスノートに関しては、多くの人が書きやすいと思う、中庸であるようなゾーンを狙っています」と絵馬さん。
「表紙デザインにしても、商品化前の消費者アンケートで、“何が好き”ではなくて、多くの人が“嫌いと言わない”デザインを選んできたという歴史があります。そういう点でも書き味と同じく、中庸を選んでいるのかなと思います」と開発担当の中村さん。

キャンパスノートが考える表紙デザインとは


とはいえ、キャンパスノートには「ノー3A」のような、スタンダードな製品もありますが、各年に発売される限定のパックノートの中には、かなり攻めたデザインのものもあります。
また、小学生向きの製品には、動物柄やキャラクターが入ったものなどもあって、さらには、先にもふれた「限定 キャンパス肉球ソフトリング」のような、全面に猫の毛並みのアップが使われている思い切ったデザインの製品も登場しています。

「肉球シリーズは、ちょっとイレギュラーな製品なんです。これは、私たちのチームとは別のチームが担当しているのですが、ソフトリングノートの魅力を伝えたいというところから生まれた製品です。ソフトリングの柔らかさを肉球に見立てられないかな?というアイデアですね」と絵馬さん。
この「限定 キャンパス肉球ソフトリング」には、なんと猫耳型のふせんもオマケに付いているという徹底ぶり。第1弾では犬猫の手を模したアタッチメントも付いていたのだそうです。
実際、リングノートのリング部分が柔らかくて、手が当たっても痛くない「ソフトリングノート」は、使ってみると想像を超えて柔らかくて、本当に手が痛くならないどころか、リングを邪魔に感じない製品です。
ただ、それは使ってみて気が付く部分でもあるので、このような思い切ったプロモーションも必要という判断だったのでしょう。

デザインを決めるポイントは「子どもと親の意思のバランス」


「デザインに関しては、どこまでを『キャンパスノート』として出すかというのは、結構感覚的な部分が大きいですね。それでも線引きをするという視点は確かにあります。特に、小中学生にとってノートは親が購入する学用品であるという部分は意識しています。雑貨的になり過ぎないように、勉強を意識したデザインを考えています。
ただ、デザインのヒアリングをすると親と子でかなり評価が違ったりなど、最終的にどちらの意思を尊重するかといったあたりを踏まえながらデザインしていますね」と中村さん。
その場合、女の子は小学校3、4年生くらいから子どもの意思が反映されるけれど、男の子は親の意見を聞いて購入している傾向があるのだそう。実際、男子向けの限定柄はあまり売れないことがほとんどで、何度かのチャレンジのあと、今はやめているのだそうです。
一方、「女の子は早い時期から感性にグッと来るものにお金を払うという傾向を強く感じます」と絵馬さんは言います。

現時点での最新商品のキャンパスノートである「キャンパス フラットが気持ちいいノート」は、その機能を強調する意味もあって、かなり攻めたデザインになっています。
まず、何よりも、「Campus」のロゴを変形させているのはとても珍しいのです。さらに、全体のデザインも、台形のイメージになっていて、少しパースが付いたような感じです。

最新型キャンパスノート「キャンパス フラットが気持ちいいノート」開発秘話


「フラットに開くということを、表紙からでも分かってもらえるように、今回はデザイン面でもチャレンジしました。奥行き感が出るようにパースがかかったようにロゴを変形させています。ロゴのデザインを変えるのは長年やっていなかったので、かなり大きな挑戦となりました。ロゴだけでなく、デザイン全体を、平たく開いたノートを使っている人の側から見たというイメージでまとめています」と中村さん。
この「キャンパス フラットが気持ちいいノート」というのが、実は何気なくもすごい製品だと筆者は感じています。
平たくフラットに開くノートというだけなら、かなり前からコデックス装(背中の綴じ糸をそのまま見せる製本の方法)や糸かがり製本などの製本方法もありますし、無線とじのスタイルでも、いくつもの製品があります。
ただ、それらは、どれも、「特別なノート」として作られていて、それぞれに特長が違っていたりもします。
「キャンパス フラットが気持ちいいノート」は、そういった特別なノートではなく、「キャンパスノート」のブランドから出た、“普段使い用”のノートなのです。だから、キャンパスノートのポイントである、筆記具を選ばない紙と、丈夫さや耐久性を重視した製本、買いやすい価格で手に入れやすいという部分を、しっかり守って作られています。
初めて、このノートを使ったときに何より驚いたのは、その「普通のノートなのに、水平に開く」という点でした。
「耐久性を保ちつつ、フラットに開くというのが一番苦労したポイントでした。社内でも、耐久性について最後まで悩んで議論しました。最終的には、技術担当メンバーのあきらめない努力によって、使っていて紙が外れたり、ページがばらけたり、破れてしまったりということはなく、基準は満たしつつも最大限フラットに開く、というところが実現できました。
このノートもキャンパスノートとして販売する以上、書きやすい紙、耐久性、低価格の3つは崩さないように気を付けています」と絵馬さん。

量産可能で、かつ1ページ目からフラットに開くことへのこだわり


さらに、このノートで驚くのは、表紙を開いた最初のページから平たく開くということ。無線とじに限らず、表紙があるタイプの製本の場合、表紙と最初のページは、他のページよりも糊を深く入れて、しっかりとくっつけることが耐久性に直接影響します。その1ページ目の糊が浅いのに十分な耐久性があるというのは、かなりの驚きでした。
1ページ目は右から始まるし、書きにくいこともあって、ノートは2ページ目から使い始めるという人も多いので、案外、このすごさは見過ごされているかもしれませんね。
「1ページ目は本当にこだわりのポイントなんです。耐久性を考えたら1ページ目はしっかり糊を入れて接着したいのですが、“フラット”と言っているのに1ページ目はふわっと膨らんでいたら、それはなんだかだまされたような気持ちになるのではないかと思って。
これを量産品で実現するのがとにかく大変でした。キャンパス以前に、フラットで開く『ペルパネプ』もありましたが、あちらは作業工程に手作業部分も含まれる製品なので、同じ方法では量産品にはできません」と絵馬さん。
「キャンパス フラットが気持ちいいノート」は通常のキャンパスノートよりも20円高いです。しかし、従来のキャンパスノートの使い勝手はそのままに、1ページ目からフラットに開く機能を追加して、20円に収めたというのは、コクヨが大企業だからといった理由で片付けられるものではないと思うのです。
それは、表紙デザインやロゴを変えるなどして、苦労してでもユーザーに機能を伝えたい、という想いがあったということでしょう。

「スマートキャンパス」と「ドット罫線」について


筆者は、最近のキャンパスノートでは、同じページ数なのに従来品より薄くて軽い「スマートキャンパス」が気に入っています。荷物は少しでも軽い方が良いと思っているので、このノートの登場はとてもありがたいと思ったものです。
また、今やキャンパスノートの定番罫線になっている「ドット入り罫線」が採用されているのもうれしいポイント。個人的に「ドット入り罫線」は、完成度の高いノート用の罫線だと思っています。
方眼や無地は、それぞれにファンがいるのも分かるのですが、ドット入り横罫は、そこに小さなドットが打たれているだけというシンプルさでありながら、横罫としての機能を損なわないので、ノートの横罫はドット入り罫線に統一してもいいのではないかと思ったりします。
「『スマートキャンパス』は学生をターゲットに作りました。学生の荷物量に増加に向けてノートだけでも軽くしてあげたいという思いから開発された商品です。
通常軽くする場合は、嵩高紙(かさだかし)といった『軽いけれど表現がガサガサする』紙を使う傾向にあるのですが、この紙はプレスをかけながら薄くすることで軽さをだし、配合を工夫することで裏抜け、裏うつりはなく、表面もなめらかで書き心地のいい紙に仕上げています。薄いけれどゲルインクで書いても裏うつりしにくい紙を作るのに苦労しました」と絵馬さん。

つまり、「スマートキャンパス」は学習環境の変化に特化したノートで、紙も標準のキャンパスノートとは違う、キャンパスノートの様々なラインアップの中のバリエーションのひとつということなのでした。
同様に、ドット入り罫線も、かなり多くのシェアを取りながらも、普通の横罫が好きだというユーザーも根強く、そういうユーザーの声も大事にするからこそ、幅広く使ってもらえるブランドになっているということなのでしょう。

開発担当者、デザイン担当者が愛しているノートについて


最後に、おふたりに「最も好きなノート」をお聞きしました。すると、中村さんは、つい最近、廃番になってしまった「ミスター・シリーズ」を、絵馬さんは「大人キャンパス B5 40枚綴り」を挙げられました。
「『ミスター・シリーズ』は、かなり前から販売していたノートで、表紙の加工や表紙デザインなど装丁が上質で、ちょっと幅広のクラシックな感じも気に入っていました。今回、ノートの話をするにあたり、改めて、個人的にすごく好きだったノートだなと思ったんです」

また、ペルパネプの『ドイツ装ノート』というのがあって、上製本(硬い表紙がついている製本方法で装丁されている本)のような見た目ですが、表紙が背から離れていて、360度ぐるっと巻き返して使えます。これが何かもう気持ちがたかぶるノートなんです。方眼ドットというキャンパスにはない罫なのも、自分にとって使いやすいのです」と中村さん。

「私は、とにかく『大人キャンパス』のB5サイズを、それこそ湯水のように使っています(笑)。A5だと紙面が小さくて、書きたいことが書ききれないし、A4だと持ち歩くには大きくて、ちょうどいいのがB5なんです。
また、重いのがとにかく嫌なので、大人キャンパスの40枚綴じというのもちょうどいいんです。さらにノートを何冊も平行して使うのは苦手なので、1冊に何でも、どんどん書いて、メモ的にも使って、大量にノートを消費しています。
あと、最近は、自分が担当したこともあって、『キャンパス フラットが気持ちいいノート』を発売以来ずっと使っていて、すでに4冊目に入りました。たくさん書くのに向いているんですよ。広々と書けます」と絵馬さん。
好きなノートの話になると、さらに饒舌になるおふたり。このような方が、キャンパスノートを作っているわけです。それも、「キャンパスノート」が、スタンダードだけれど個性的でもあるノートになっている要因なのかも知れません。

納富 廉邦プロフィール

文房具やガジェット、革小物など小物系を中心に、さまざまな取材・執筆をこなす。『日経トレンディ』『夕刊フジ』『ITmedia NEWS』などで連載中。グッズの使いこなしや新しい視点でのモノの遊び方、選び方を伝える。All About 男のこだわりグッズガイド。
(文:納富 廉邦(ライター))

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