『虎に翼』も絶好調、NHK連続テレビ小説「朝ドラ」がヒットする6つの法則

2024年4月29日(月)6時0分 JBpress

(小林偉:放送作家・大学教授)


当初は主演は男女を交互に起用していた?

 放送中のNHKの朝ドラ『虎に翼』の勢いが止まりません。

 ヒロインの伊藤沙莉をはじめ、兄の直道役の上川周作や、その嫁=花江役の森田望智などなどが人気を集め、開始3週目にして視聴率が最高記録を更新するなど、ネットでは連日、絶賛するレビューが展開されています。

 さて筆者は、この『虎に翼』スタートに先立って放送された『夜だけど朝ドラ名場面スペシャル』という番組の構成を担当させていただきました。そこで今回は、番組制作の過程でリサーチした資料を基に、放送開始から63年を経ても支持され続けている“朝ドラ”を掘り下げてみようと思います。

 “朝ドラ”こと、NHK連続テレビ小説がスタートしたのは、1961(昭和36)年4月3日。当時は翌年3月末までの1年間放送されていました。その記念すべき第1作は『娘と私』という作品。原作は獅子文六、主演は劇団現代座の創立者である舞台俳優=北沢彪です。

 以降、第2作『あしたの風』(原作・壷井栄、主演・渡辺富美子)、第3作『あかつき』(原作・武者小路実篤、主演・佐分利信)。ちなみに、ここまでの3作の脚本は全て、山下与志一という方が担当されています。続く第4作は『うず潮』(原作・林芙美子、主演・林美智子)、第5作は『たまゆら』(原作・川端康成、主演・笠智衆)という具合に制作されていきました。

 こうして振り返ってみると、初期は文豪と呼ぶに相応しい方々の原作ばかり。やはり“連続テレビ小説”という枠だけに、有名小説家の作品を映像化するという趣旨だったようですね。

 この頃までの作品は映像が僅かしか現存しておらず(当時はビデオテープが非常に高額で、放送された作品のテープを上書きして使用されていたそう)、今ではごく一部しか視聴できないのですが、それを観る限り、主人公の俳優による独白ナレーションが多用されていたりと、“テレビ小説”感をとても強く感じましたね。

 また、主演俳優に男女を交互に起用しているのも特徴。現在では女性主人公(ヒロイン)による一代記が主流というイメージが定着している“朝ドラ”ですが、当初はそういうコンセプトではなかったようです。

 そんな“NHK連続テレビ小説”の流れを変え、現代に至る“朝ドラ”像を確立したと言われるのが、1966(昭和41)年4月スタートの第6作『おはなはん』(主演・樫山文枝)です。この作品が作り出したのが、以後定番化する6つの法則。早速ご説明していきましょう。


①“女の一代記”化

 放送中の『虎に翼』は、日本初の女性弁護士であり、後に裁判官となり、女性として初めての裁判所長も務めた三淵嘉子という実在の人物がモデル。その一代記が描かれているわけですが、『おはなはん』のモデルも、林ハナという実在の人物。

 この方は、明治時代に徳島第八九銀行頭取・深尾一次郎の次女として生まれ、18歳で同郷の陸軍中尉・林三郎と結婚して上京。8年後夫と死別し、幼い子供2人を抱えて苦労を重ねますが、助産師となり、明るく強く人生を生き抜いた女性。原作も林ハナさんの長男である林謙一と、原作者が有名小説家でないのも初めて。

 そう、“苦難に遭いながらも、強く人生を生き抜いた女性の一代記”という、現在の“朝ドラ”の流れを形作ったのが、この『おはなはん』なのです。


②モデル=実在の人物

 前項でも触れた通り、『おはなはん』は実在の人物をモデルにした作品で、それまでの小説家が創作した人物を主人公にしていたものから大きく方向転換されています。当時のスタッフの述懐によると、よりリアルで親しみやすい人物を据えた方が、朝の番組として観ていただく方が増えるのでは、という狙いがあったようですね。この作戦は大きくモノを言って、以後、いくつかの例外を除き、ほとんどの作品が実在の人物をモデルとしたものになっていきました。


③職業モノの確立

 『おはなはん』の前半は、林三郎中尉(劇中では速水謙太郎中尉)の奥さんとしての人生が描かれていましたが、後半からハナは助産師になるという、当時の言葉でいう“職業婦人”としての人生になっていきます。こうした、職を持った女性にスポットを当てたのも、この作品が最初。

 以後、“朝ドラ”では、パイロット=『雲のじゅうたん』、パン職人=『風見鶏』、カメラマン=『なっちゃんの写真館』、新聞記者=『はね駒』、プロ棋士=『ふたりっ子』、大工=『天うらら』、宇宙飛行士=『まんてん』、雑誌編集者=『とと姉ちゃん』、アニメーター=『なつぞら』、気象予報士=『おかえりモネ』などなど、様々な職業に就く女性たちを取り上げていくようになりました。


④お転婆ヒロインの誕生

『おはなはん』序盤では、お見合い相手である速水中尉のことを、ハナが木に登って眺めるという有名なシーンがあります。明治時代、女性が木に登るなんていうのは、とんでもないことだったわけで、この1シーンで、主人公の“お転婆”ぶりが表現されています。

 これが好評だったためか、以後、朝ドラヒロイン=お転婆というイメージが確立。この“木に登るヒロイン”は、筆者と先述の特番スタッフが手分けして確認しただけでも、実に11作品ほどで登場していました。その他にも、池に落ちたり、派手に自転車で転んだりと、とにかくヒロインのお転婆ぶりが随所に描かれるようになっていくキッカケともなったのです。


⑤“ロス現象”のはじまり

 2015年放送の第93作『あさが来た』に登場した五代友厚(ディーン・フジオカ)がドラマ中盤で病死してしまった際には“五代様ロス”という言葉が生まれ、ちょっとした社会現象にまでなったのをご記憶の方も多いのでは。

 実は、ああした“ロス現象”のはじまりとなったのも『おはなはん』なんです。ハナの夫となった速水謙太郎中尉(高橋幸治)が早くに亡くなってしまうという噂が視聴者の間で広まり、NHKには大量の“助命嘆願書”が届き、それを受け、何と脚本が書き換えられ、速水中尉を“延命”するということが起きたとか。正に“ロス”を回避したいという願いですよね。

 その後も『あぐり』のヒロインの夫(野村萬斎)や、『カーネーション』の周防龍一(綾野剛)、『半分、青い』の秋風先生(豊川悦司)などなど、“朝ドラ”の途中で退場してしまう人物に対して、しばしば起きる“ロス現象”の草分けともなったワケです。


⑥元祖“聖地巡礼”

 “朝ドラ”に限ったことではありませんが、物語の舞台となったロケ地をファンたちが訪れる、いわゆる“聖地巡礼”。2013年の第88作『あまちゃん』のロケ地などは、今でも多くのファンが訪れることで知られていて、ガイドブックまで出版されています。

 そんな“朝ドラ聖地巡礼”の元祖となったのも『おはなはん』。実在した林ハナが生まれ育ったのは徳島県でしたが、番組のロケは愛媛県大洲市で主に行われました。

『おはなはん』が大人気となった後、大洲市には当時からドラマファンが殺到。その模様を伝えるニュース映像も残されています。今でも『おはなはん』人気は続いていて、“おはなはん通り”が現存し、大洲市の防災無線のBGMも『おはなはん』の番組テーマ曲になっているとか。

 番組のプロデューサーが大洲市を訪れた際には地元の人から「あれが、おはなが登った木です」と案内されたとか。実は木に登るシーンは東京のNHKのスタジオで撮影されたものだったため、ロケ地にあるわけがなく、苦笑いするしかなかったというエピソードもあるそうです。

 ・・・という具合に、第6作『おはなはん』は朝ドラにとって、エポックメイキングな作品だったことは、お分かりいただけたでしょうか?

『夜だけど朝ドラ名場面スペシャル』では、主人公ハナを演じた樫山文枝にも取材させていただきましたが、“朝ドラ”の原点と呼ばれることに戸惑っておられながらも、当時のことをとても楽し気にお話しされていたのが印象的でした。

 58年前に確立されたものが、今も受け継がれている・・・“朝ドラ”が長く愛されている理由の一つは、こうした“変わらぬ老舗の味”のようなものなのでは・・・筆者はそんな風にも感じました。※文中敬称略

筆者:小林 偉

JBpress

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