「資産運用を始めただけですごいことが起こる」との期待は誤り。業界歴30年のプロ「最も大事なのは投資するしないとか、何の投資信託を買うかでなく…」
2024年5月15日(水)6時30分 婦人公論.jp
(写真提供:Photo AC)
2024年1月から新NISAがスタートし、「投資に興味がある」「知識を深めたい」と思っている人も多いはず。しかし、日興アセットマネジメントの今福啓之さんは「運用を始めるだけで何かすごいことが起こるという期待は違う」と話します。そこで今回は、今福さんの2人の娘とそれぞれの夫に向けて書いた、資産形成の大切な考え方を自著『投資信託業界歴30年の父親が娘とその夫に伝える資産形成の本音の話』から、一部引用、再編集してお届けします。
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「以上、終わり!」な本質は?
最初に結論を言っておく。
それは運用を始めるだけで何かすごいことが起こるという期待は違うよ、ということ。
最近NISA(少額投資非課税制度)だ資産運用だと盛り上がっていて、30年この業界にいる僕からするとありがたくはあるんだけど、大事なことはただひとつで、単に「毎月どれだけ大きな金額を天引きできるか」に尽きるんだよね。
つまり、別に運用じゃなく天引きの積立定期預金でいいわけ。
「天引き」とは、給料が振り込まれたらすぐ自動的に引き落として別のところに移動すること。今は「積み立て」と言った方がわかるかな。
もし君たち2人の家計で毎月10万円の天引きを20年続けられたなら、まぁお金のことで不幸になることはないと思う。
だって1人5万円、2人で10万円の天引きってことは、12ヵ月で年120万円だよね。
2人ともボーナスはあるから年15万円ずつ出し合って2人でプラス年30万円を加えたとしたら1年で150万円の貯蓄ってことだよね。それを20年ずっと続けたら?
150万円×20年=3000万円でしょ。
今から20年後ってことはまだ40代半ば。40代半ばの君たちが3000万円持ってたらどうよ?
もし、1人10万円ずつの2人で20万円できるとしたら、年240万円だよね。
そこにボーナスで30万円ずつ2人でプラス60万円オンできたら年300万円だよね。
その20年ってことは6000万円ですよ。40代半ばで6000万円。スッゴイよね。
「以上、終わり!」なの。本質的には。
こんなに投資が一般的に語られるようになったのは初めて
何だか「投資しなきゃ」って焦ったり、すごい勉強が必要だと思ったり、投資すれば何かすごいことが起こるような気がしているかもしれないけど、違うんだよね。
特に最近は、テレビのワイドショーなんかでもNISAの話をするようになったよね。
僕は1990年に証券会社で社会人をスタートして、2000年から運用業界に転じたのでもう30年以上この業界にいるわけだけど、こんなに投資が一般的に語られるようになったのは初めてじゃないかな。
ほんの少し前までは、投資信託であっても、それはお金を持ったシニアの人たちが余裕資金で買う金融商品という感じだった。あるいは、個別株の売買を好きな人が趣味としてやる特殊な世界という感じだった。投信積立なんてメジャーじゃなかった。それを思うと隔世の感があるな。
テレビでNISAの話をやり、YouTubeにもたくさんのキャッチーな動画があって、君たちのような若い人が前向きに投資を考えようとし始めてるんだから。
でも、まず言っておきたいのはこれ。
投資はマストじゃないし、NISAを始めるだけで物事は解決しない。
どれだけのお金を、将来のために取っておけるか
今、「100円から投資できる!」とか「まずはポイントで投資の勉強!」とか「ワンタップで株式が買える!」みたいな話が盛んだけど、それらの情報は今言った本質がわかってないなら全部無意味だと思う。
投資するかしないかとか、何の投資信託をいつ買うかなどではなく、「毎月どれだけの天引きをするか」が一番大事。
(写真提供:Photo AC)
違う言葉を使うなら、「自分たちはどれだけのお金を、今使うことを我慢して将来のために取っておけるか」——。
業界は「100円からでも投資信託を!」と宣伝するし、国はNISAだiDeCo(個人型確定拠出年金)だと君たちの背中を押そうとしてくれるけど、毎月100円ではいくらスゴイ運用をしたって君たちの人生の助けになる金額にはなり得ない。
毎月の金額こそがカギを握る
でも毎月の天引きの金額が大きければ、別に投資をしなくたって君たちの将来は明るくなる。さっき言ったみたいにね。
投資はマストじゃない。運用商品の選択や投資の勉強よりも、毎月の金額こそがカギを握る——これが本質。
その理解がない投資の勉強では、ほぼ間違いなく趣味の「マネー遊び」になっちゃう。
株式市場がいい時は楽しくて有頂天になって、毎日アカウントの残高を見たり、ツイートしてみたり、売り買いしてみたくなったりするんだけど、そんな幸福な時期って実はあんまりないから、基本的にはストレスばかりでいい趣味にはならない。
※本稿は、『投資信託業界歴30年の父親が娘とその夫に伝える資産形成の本音の話』(星海社)の一部を再編集したものです。
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