業界歴30年のプロ「企業を応援」と「投資」の紐づけに強い違和感。「社会にいい企業への投資がいいこと」といったマーケティングワードに惑わされるな

2024年5月17日(金)6時30分 婦人公論.jp


(写真提供:Photo AC)

2024年1月から新NISAがスタートし、「投資に興味がある」「知識を深めたい」と思っている人も多いはず。しかし、日興アセットマネジメントの今福啓之さんは「運用を始めるだけで何かすごいことが起こるという期待は違う」と話します。そこで今回は、今福さんの2人の娘とそれぞれの夫に向けて書いた、資産形成の大切な考え方を自著『投資信託業界歴30年の父親が娘とその夫に伝える資産形成の本音の話』から、一部引用、再編集してお届けします。

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「応援したい会社か」どうかは実は重要でない


君たちもそうかもしれないが、今はエシカル(ethical/倫理的)な消費が若い人を中心に増えているようだよね。

テレビでもやたら「サステナブル!」って騒ぎ立てている。

投資の世界でも、以前から「応援したい企業に投資しましょう」とか「あなたの投資がその企業を良くし、ひいては世の中を良くします」みたいなことを言う人や運用会社はあった。

でも僕はそういうのにとても違和感を覚える。

株式の原理原則として君たちに持ってもらいたいのは、「企業を応援」と「自分の投資のリターン」はまったく関係ないというクールな理解だ。

そもそも僕たちがある企業の株を買ったところで、そのお金はその企業に行かないからね。売った人に行くだけです。直接的な応援にはならない。

「買い」と「売り」がマッチングされる「流通市場」


少し詳しく説明しようか。

まず株式市場には「流通市場」と「発行市場」という2つの市場があるのね。

流通市場っていうのは、日本なら毎日9時から15時まで東京証券取引所で行われている売買の場のことで、僕らの「買い」と誰かの「売り」がマッチングされる市場だ。

さっき言ったように、そこで僕らが払ったお金は企業には届かない。前に言った「セリ」の市場だから。

概念的な「発行市場」


一方の発行市場は、東証みたいな物理的な場所ではない概念的な市場のこと。

ある企業が新たに新株を発行して、それを引き取った証券会社が投資家に「新株買いませんか〜?」と投資を募る一連のプロセスのこと。


(写真提供:Photo AC)

企業は新たに資金が必要になったら、多くの場合まず銀行に借りることを考えるよね。

一部有力な企業は、銀行に借りて利息を払うくらいならと、自ら債券を発行して投資家からお金を集めようとする。「**企業債、10年満期、利率年*%」みたいな感じで募集が行われるの。

さらに一部の企業は、債券でなく「新株」を発行して資金を調達しようとするわけ。

債券を発行すると毎年の利息の支払いと満期時には元本を返済しないといけないけど、新株を発行してそれを買ってもらったら、満期はないから返済義務もないからいいよね。これが発行市場。

もし君たちがこの企業の新株発行に応募して代金を入金したとしたら、そのお金は今度こそ、その企業に届く。

そのお金はきっと有意義に使われるから「応援」したことになるよね。社会にとっていいことをしてる企業の新株を買いたいね。

「企業を応援」に惑わされないためには


でも一般の人にとって、そういうことができる機会は多くない。

「企業を応援」とか、社会にいいことをしている企業に投資するのがいいことだ、みたいなマーケティングワードに惑わされない、確かでクールな理解を持っておきたい。

大事なのは、「残念ながらマーケットはひとつ」だけど、短期投資の有象無象たちを無視して長期視点の「原理原則」を胸にどっしりと構え、その代わり自分の投資がどんな「角度」を期待して行っているものなのかを考えるアタマを持つ——これに尽きるな。

具体的なアクションとしては、NISAのつみたて投資枠は世界の株式などに大きな順に投資するインデックスファンドで押さえ、その時価総額加重方式インデックスのメリットとデメリットを理解した上で、「本気の積立」の金額にするための追加の積立原資については、しっかりと「角度」の観点から投信を選び抜くということだと思う。

後者は口で言うほど簡単じゃない。

※本稿は、『投資信託業界歴30年の父親が娘とその夫に伝える資産形成の本音の話』(星海社)の一部を再編集したものです。

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