いまZ世代が注目する世界は何か? eスポーツイベント「RAGE」から“令和の推し活”を考える

2024年5月20日(月)11時49分 マイナビニュース

今までの“推し活”と何かが違う……。
先日、ぴあアリーナMMで多くのZ世代を集客した「RAGE VALORANT 2024 feat.VSPO!」の取材を通して抱いた感想です。
「RAGE VALORANT 2024 feat.VSPO!」は、2024年4月29日に開催されたバーチャルYouTuber(VTuber)グループ「ぶいすぽっ!」が出演するeスポーツイベント。VTuberとインフルエンサーチームによるタクティカルFPS『VALORANT』のエキシビジョンマッチが行われました。
「ぶいすぽっ!」のメンバー6名が約1カ月間、コーチと練習に取り組み、イベント当日にキャスターチーム、ストリーマーチーム、元プロチームの3組と対戦。結果は、「ぶいすぽっ!」チームが見事キャスターチーム、ストリーマーチームに圧勝して、会場を沸かせました。
ほとんどの観客がVTuberのファンかと思いきや
会場の雰囲気は、VTuber陣営のホーム状態です。「ぶいすぽっ!」メンバーが敵を倒すたびに、観客は狂喜乱舞。一方、相手側チームが活躍した場面には(愛のある)ブーイングが飛び交いました。
物販は、開始1時間前から長蛇の列ができるほどの盛況っぷり。会場限定で販売されていたコラボフードやコラボドリンクは、一時的に完売していました。
しかし、現地で聞き込み調査をしてみると、「普段から『VALORANT』をプレイしている」「以前、参加した『VALORANT』のイベントが楽しかった」といった意見も多く、体感としては5割がVTuberのファン、3割がストリーマー&プロゲーマーのファン、2割がゲーム自体のファンだったのではないでしょうか。
エキシビジョンマッチ中の(VTuberをひいきした)大きな歓声からは、ほとんどがVTuberのファンであるような錯覚を受けましたが、あくまでも(イベントの趣旨に合わせて)「VTuberを応援すること」を楽しんでいたようです。いずれにしても、想定より参加者の目的や動機は多様でした。
『【推しの子】』では描かれない推し活
ここからは本イベントを媒介にして、いまの“推し活”文化について考えてみます。
『週刊ヤングジャンプ』で連載中のマンガ『【推しの子】』の人気もあってか、“推し”という言葉がこの数年でより広く世間に浸透した気がしています。でも、「『【推しの子】』は読んだが、“推し活”が何なのかイマイチわからない」という読者もいるのではないでしょうか。
『【推しの子】』の作中における“推し”とは、アイドルである「星野アイ」が対象です。アイドル(idol)は直訳すると「偶像」。劇中の星野アイも、アイドルグループ「B小町」のセンターであり絶対的エースです。命尽きるその日まで「完璧で究極のアイドル」としてファンを虜にし続けた、まさに偶像として描かれます。
しかし、『【推しの子】』の「特定の偶像を“推す”」ことは、あくまで推し活のひとつの側面でしかありません。課金額やスタンスにはグラデーションがあり、推し活との距離感は人ぞれぞれです。
そこで、推し活を楽しむ人たちを、課金量に応じて3つのに分類してみました。
①参加型(非課金〜微課金)
推しを媒介としてコミュニティに属することを楽しむ状態
②応援型(微課金〜重課金)
推しの成功を祈り、支援をする状態
③ガチ恋型(重課金〜廃課金)
娯楽からは逸脱しており、推しに貢いでいる状態
どの界隈においても、ファンの人数としては①〜②が大多数を占めており、③は総数に対して割合は少ないものの、パレートの法則(2:8の法則)に従って、③の課金額が全体の市場を支えているのが一般的です。
VTuberの界隈も例外ではなく、今回の「RAGE VALORANT 2024 feat.VSPO!」の会場で話を伺ったファンも、①〜②が大多数を占めていた印象です。
加えて、同じ推しを持つことを嫌う「同担拒否」といった主義主張は控えめで、「みんなで応援する」「みんなでこの文化を育てる」の意識があるように見受けられました。
反面、VTuberの経済活動の主戦場でもある、生配信においては、投げ銭文化が過熱化しており、若年層が多額の金額を注ぎ込む不健全な状態があるのもの事実です。
オンラインでの、露骨に可視化された(課金額やフォロワー数などの)「過激な“推し活”」に対する、反作用的な文化として、オフラインでの(課金額や熱量を競わない)「ヘルシーな推し活」が文化として醸成されているのかもしれません。
“対決”と“調和”の推し活
課金による距離感の次は、推し活の参加スタンスを考えてみましょう。
「最近の小学校では、運動会の徒競走で順位をつけない」
近年の“脱競争”の流れが象徴するように、Z世代やα世代にとっては「比べられること」が身近ではなくなっています。そういった世代の感覚が反映されているのか、いまの推し活市場は“対決型”に加えて“調和型”が盛り上がりを見せているように思えます。
“対決型”の推し活が最も過激化していたのは、秋元康氏がプロデュースした2010年代のAKBグループでしょう。昭和から平成初期の従来型の推し活に「競技性」「人気の可視化」を加えてゲーム化させたのがAKB総選挙でした。
一方、今回の取材では「みんなで観るのが楽しい」「会場の雰囲気が楽しい」といった意見が多く、どちらかというと周囲との調和を重んじているように感じました。
仮にアイドルのライブ会場で同じような取材をした場合、ファンからの回答は主に「推しへの熱意」が大多数となり、「周辺情報」や「環境そのもの」に言及するファンは稀のような気がします。
少なくとも「RAGE VALORANT 2024 feat.VSPO!」に訪れていたファンたちは、VTuberやインフルエンサーを目当てにしつつも、『VALORANT』自体や『VALORANT』コミュニティ自体を楽しんでいる様子でした。
VTuberの「消えやすさ」が推し活のスタンスに影響?
VTuberの大手事務所である「ホロライブ」を運営するカバーの2024年3月期の営業利益は、前年比+62%の大幅増益であり、所属VTuber1人当たり年間収益は3.5億円に及びます。このようにVTuberの“推し活”はグローバル展開も視野に入れられるぐらい、強力な産業になってきています。
とはいえファンとしては心配な要素もあります。VTuberの始祖とも言える「キズナアイ」は、2016年12月に活動を開始し、2022年2月に活動休止。キズナアイと共に“VTuber四天王”として黎明期を支えたミライアカリは、2017年10月にデビュー後、2023年3月に活動終了しています。そのため、VTuberを推す活動には、実在のアイドルや声優を推すよりも、儚さやリスクが伴うのかもしれません。
この「いつ消えてしまうか分からない」リスクがVTuber文化そのものに波及する可能性を、ファンたちが無意識のうちに察しており、その結果として、「少しでも文化の発展に寄与する」という利他的な推し活スタンスを身に付けたのではないでしょうか。
“偶像”ではなく“現象”を推している?
VTuberは、見た目こそ2次元のキャラクターですが、“魂”などと表現される「中の人」が存在します。アイドルや声優のような3次元の人間でもなく、2次元のアニメキャラクターでもない「第3の存在」とも言えます。人間離れした完璧なビジュアルでありながら、中の人が「自分たちと同じ趣味を持つ」ことから親近感を覚えるのでしょう。このほどよい塩梅が、新たな”推し”市場を開拓したのかもしれません。
従来型の推し活のような、偶像や憧れの対象を応援するのではなく、仲の良い知人を応援する感覚に近い令和の推し活の1つの「VTuber」。推しを取り巻く環境や文化、コミュニティにも魅力を感じており、VTuberという“現象”そのものを推しているとも取れます。
VTuberの“推し活”市場は、熱狂的な課金勢および、“調和型”のファンたちによって「市場の拡大」「文化の醸成」が行われ、従来のコンテンツとは異なった形での発展を遂げていると言えるのではないでしょうか。
取材・文 / 合同会社KijiLife(小川翔太 / 松永華佳)

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