学生には無料で「プリーツ加工」 埼玉の縫製工場の太っ腹な取り組みに反響→代表に思いを聞いた

2021年5月22日(土)20時0分 Jタウンネット

学校制服をはじめ、スカートなどに使われている「プリーツ」。

その「プリーツ」に特に力を入れている、とある縫製工場が今、ツイッターで注目されている。

これは、埼玉県吉川市にある縫製工場「生田プリーツ」の公式アカウントが、2021年5月11日に投稿したもの。

コロナ禍の影響でアルバイトのシフトが減り、経済的に苦しい学生などを対象に、無料でプリーツ加工のサービスを提供するという。

ツイートには布地にプリーツ加工を施していく様子を捉えた動画が添えられ、同社の取り組みとともに、この美しい手さばきも大きな反響を呼んでいる。

Jタウンネット記者は15日、生田プリーツを取材した。

他社を超えるプリーツ加工の経験とノウハウ

取材に応じた、生田プリーツの代表・生田貴之さんは、プリーツ加工の手順について、次のように説明する。

「基本的に紙と紙に布を挟んで折り畳み、それを加熱・冷却することによって布に線やヒダを定着させます」

また、「折り畳む」工程については、今回の動画のように手で折る方法の他、機械によって折る方法もあるそうだ。

生田プリーツは、公式ツイッターのプロフィール欄に「日本で一番プリーツが得意な縫製工場を目指します」と、掲げている。プリーツ加工にあたり、こだわっている点はどこだろう。

「プリーツ加工と洋服の縫製を1箇所(同じ工場内)で完結できる会社というのは全国的にも多くなく、プリーツを製品化するという点において経験とノウハウが他社よりも蓄積できていると思っています。
『日本一の縫製工場』や『日本一のプリーツ工場』を目指す、となるとどんな姿なのかうまく想像ができませんが、『日本でいちばんプリーツが得意な縫製工場を目指す』だったら自分も社員さんたちもイメージができる、現実味を感じて目標とすることができるんじゃないかと思い掲げました」

現在も、この言葉を体現できるように技術やサービスを磨いているという。今後は、自社製品販売などの新事業も視野に入れているそうだ。

プリーツの製品化に関して、豊富な経験とノウハウを蓄積している生田プリーツ。

同社でアパレル商品のサンプルを1着作る場合、通常は3000円〜1万円程度かかるそう(プリーツの形状や型紙在庫の有無、生地の量などによって価格は前後する)。

そのプロの技を、学生に無料で提供。なぜこのような取り組みを始めたのだろう。

「プロの技術を無料で提供」に迷い

同社が始めた取り組みでは、学生自身が持参した生地に、同社がプリーツ加工を施す。さらに、関東圏など来社が可能な人には、工場見学や、型紙を自分で作るプリーツ体験も勧めているとのこと。

ここまで太っ腹なサービスを始めたきっかけを、生田代表は次のように語った。

「ある学生さんからプリーツ加工の依頼を受け、見積もりを提出し、加工をお受けすることになっていました。
その後しばらく連絡がなかったのですが、たまたまその方の『コロナの影響でアルバイトのシフトに入れず生活が苦しい』といった内容のツイートを見かけました。
大きなお世話だったかもしれませんが、応援の気持ちで『今回は無料でも大丈夫です』とメッセージをさせてもらったのがきっかけです」

生田代表はその後、服飾専門学校で講師をしている知人にヒヤリングを実施。

そこで、卒業制作には材料費だけでもたくさんお金がかかること、プリーツ加工は設備が必要なため学校で実技ができず、学生も興味はあってもなかなか手を出しづらいことを知った。

そうして、今回の取り組みに踏み切ったのである。

「プロの技術を無料で提供することについては、同業他社への影響を考えると果たして正しいことなのかどうか、今でも正直わかりません。
ただ、未来のファッション業界を担う学生たちにプリーツに親しんでもらうことがプリーツの可能性を広げることにつながると信じています。
『無料』であることが注目されてしまうのは仕方がないかも知れませんが、自分の本意としてはプリーツに興味を持ってもらうことが一番の目的です」

普段、生田プリーツに制作を依頼するのはほとんどがアパレルメーカーや商社だが、今回のSNS投稿の後は、15日時点で7人の学生からプリーツ加工や工場見学の問い合わせが来たそうだ。

最後に、プリーツの魅力とは何か、生田代表に聞いてみた。

「・着る人の動作に合わせて形を変える動きの美しさ。
・見た目以上に広がるため動きやすいという機能性。
美しさと機能性を兼ね揃えている技法だからこそ、何千年も前から人類に愛されてきたんだと思います。
日本人にとってもプリーツは身近です。袴や裃(編注:かみしも。和服における男子の正装の一種)のヒダはまさにプリーツですし、女子の学生服のほとんどがプリーツスカートです。
使い方によってエレガントにもフェミニンにもアバンギャルドにもなります。フォーマルからカジュアルまで広い用途で使える万能性も魅力だと思います」

プリーツ加工の無償提供は、経済的に厳しい学生の支援に留まらず、ファッション業界の未来を見据え、プリーツの可能性を広げることを願っての取り組みだった。

普段、何気なく身に着けたり目にしたりしているプリーツスカートも、作られる過程を知ると特別な一着に見えてくるかもしれない。

Jタウンネット

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