「俺たちのヒロスエ」不倫騒動によって、この夏なぜか磨かれた40代オジたち

2023年8月29日(火)6時0分 JBpress

(河崎 環:コラムニスト)


ヒロスエ世代の覚醒

 ひさびさに見かけた40代の友人ビジネスマンが、しばらく見ないうちにスッキリ痩せてキレのいい笑顔で歩いてきた。

「あれ、お痩せになりました?」

「そうなんですよ、ヒロスエの件で、もしかして僕にもワンチャンあるんじゃないかって思ってダイエットしちゃって(笑)」

 女優の広末涼子さんと同い年、いわば直撃世代である彼。もちろんそれは賢く外交的な営業マン特有の社交トークで、現実的には仕事のストレスとか猛暑の夏痩せとか、人間ドックで何か引っかかって医者に「体重を落としましょう」と言われたとか、そういう背景だってあるのかもしれない。

 だけど、どうもこの「俺にもワンチャンあるんじゃないか」は、97%の軽口の底に、3%ほどの本気を薄く含むような響きを持っていた。

 なぜって、彼の年齢──ヒロスエの年齢でもある──43歳とは、不惑の40代を迎えた人々が「そっか、不惑だしな」と迷いを捨て、大いなる覚醒を迎えがちな年代だからである。


多感な時代の記憶「ヒロスエ・コンプレックス」が刺激された

 5月の文春砲以来、日本中を席巻した広末涼子さんの不倫・離婚騒動は、偉大な影響を日本にもたらしたように思う。不倫と聞けばすぐ「ケシカラン!」と集団ヒステリーをキイキイ起こしていた日本が、「ケシカラン」一辺倒ではない、これまでとはちょっと異質の反応を見せたのだ。

 広末涼子さんといえば、90年代を代表する、清潔感と爽やかさ、ちょっと甘えたような愛らしさ、そしてもしかすると手の届きそうなカジュアルさをバランスよく備えた国民的アイドル。思わず見入ってしまうほど綺麗なアーモンド型の目、意志を感じさせる眉、他のアイドルとは明らかに違うボーイッシュなショートカット。チェックの制服ミニスカートからスラリと伸びたまっすぐで速そうな脚が印象的なdocomoのポケベルのCMで一世を風靡し、当時は同世代の男子のみならず女子人気も高く、おじさんおばさんたちにも「娘にしたいアイドル」と、360度全方位がすっかり魅了されたものだ。

 国宝級とも称された健康的でまっすぐな美貌と「学校イチ可愛い文武両道の優等生女子」イメージに直撃された男子たちは、いわば「ヒロスエ世代」として一括りにできるほど、その後さまざまな形でコンプレックスを抱えることとなる。

 ショートカット女子に弱い、活発な女の子のタメ口に弱い、ジーンズの似合う女子に弱い、いかにも走れそうな美脚に弱い、ミニスカートの膝上に見える「絶対領域」に弱い・・・など、ヒロスエが出た数々の有名CMに殴られたような衝撃を受け、あの時代を多感な年齢で過ごしてしまったがゆえの、「ヒロスエ・コンプレックス」である。


「ただしヒロスエに限る」

 もう一人、別のヒロスエ同世代男性は、自らも今回の広末涼子さん不倫を追う側のマスコミに属しながら、ビールグラスを握りしめて語ったものだ。

「ヒロスエは本ッ当に可愛かったんですよ・・・。僕、本物のヒロスエに会いたくて、彼女が通ってる高校まで出待ちに行ったこともあったくらいで・・・早大への入学時も見に行きましたし。でもね、いつまでも美しい女優さんやタレントさんというのは、現役で恋愛エキスをドーピングのように打ち続けているから綺麗なんですよ。彼女の婚外恋愛が取り沙汰された今回も前回もずっと、つまりそういうことなんです。ヒロスエは外見も中身も、いつまでもあの頃のヒロスエのままなんです・・・ウゥ」

 40も半ばになって何を情けないこと言ってんだしっかりしろ、とも思うが、彼らなりに青春時代の柔らかくてちょっと湿った記憶がよみがえり、ついついナイーブな気持ちになっちゃうのだ。

 ヒロスエ直撃世代であり、かつ人口ボリュームゾーンである40代前後の彼らは、ヒロスエの不倫を知って「ケシカラン!」と怒り出したりしなかった。「うわーそうかー、あんな熊みたいなおじさんでもヒロスエと恋愛できちゃうんだ。あれがいけるなら俺でもいけるんじゃないだろうか。やっぱりヒロスエみたいな美人って懐が広いなー、外見じゃなくて心で相手を見るんだなー、さすが俺のヒロスエだなーーー」と、むしろヒロスエに同情的だったり、「俺もワンチャンあるかも」的な勇気をもらって元気になった40代おじさんたちが、やや多すぎるくらい多かった気がする。さすがヒロスエ、彼女はファンにずっと夢と希望を与え続ける、「何をやってもスター」な人なのである。

 配偶者への裏切りガーとか、子どもたちの戸惑いを思うと! みたいな道徳的正論ももちろんあった。だが、いわゆる“インターネット老人会”(ネット界に黎明期から生息し、昔を懐かしむ人たち)の定型句である「ただしイケメンに限る」に匹敵する、「ただしヒロスエに限る」的な治外法権みたいな寛容さもまた、しっかりと観察された。

 既婚者女性の中にすら、「だって相手がヒロスエなんだよ? もしウチの夫がそういうことになったとして、私でも『よし、名誉だ! 行ってこい!』って送り出すわ」という声があったほどだ。


コロナが終わって戻ってきたのは“シン・恋愛観”?

 冒頭の営業マンは「もしや俺もワンチャン」という幸せな誤解を経て、まさに「カラダが、夏になる」覚醒をしたわけであるが、それってつまり、同世代を象徴するヒロスエの婚外恋愛を目撃したことで影響を受け、彼の心身もある意味、恋愛モードにスイッチオンしたということだ。

 あの(我々が青春時代を捧げた)ヒロスエだって、40いくつになって妻であり母でありながら、料理人とあんな中高生みたいにみずみずしい(とも言える)恋愛してるんだから、もう、なんかいろいろ仕方なくない?・・・みたいなゆるい感じで、2023年はヒロスエのおかげで、日本にシン・恋愛観みたいなものが爆誕した気がする。

 新型コロナウイルス感染症が5類感染症へと移行した2023年春夏、各所でマスク着用義務が解かれ、あらためて人々の距離が近づき、バーチャルではないフィジカル(物理的)なコミュニケーションが復活し、フィジカル(身体的)ついでに「カラダが、夏に」なっちゃった40代オジが散見されましたよ、という話だ。

 もちろん異論反論もたくさんありますよね、わかります。ともあれ、働き盛りが自己管理に目覚めたのはよき。

◎連載「河崎環の『令和の人』観察日記」記事一覧

筆者:河崎 環

JBpress

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