ラーメン官僚が激推し! 新橋『麺屋 周郷』の「つけ麺」が旨すぎる

2021年8月29日(日)10時48分 食楽web


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 2010年代以降、着実に店舗数を増やし、今や都内でも屈指のラーメン激戦区として認知されるに至った新橋エリア。新橋は、ご承知のとおり数多くのオフィスビルや商業ビルが建ち並ぶ、巨大ビジネス街。隣接する銀座・有楽町・虎ノ門・内幸町等で働く人たちも含めれば、これらのエリアを平日の生活拠点とするビジネスマン人口は膨大な数に上ります。

 ビジネス街には、主にそこで勤務する人々の「胃袋」としての役割を担う飲食店が多数存在するのが常。とりわけ新橋エリアは、地域の商店会の尽力も相まって、新橋駅を中心に、戦後間もなくから闇市を出発点として安くて美味しい飲食店が建ち並び、一大マーケットを形成。サラリーマンの食の聖地として全国的にも名を馳せる、日本の飲食店街のロールモデル的存在のひとつとなっています。

 2021年6月18日、そんな新橋の地に一軒のラーメン店がオープンしました。それが、今回ご紹介する『麺屋 周郷(めんや すごう)』です。同店は、京成小岩の実力店『麺屋 寿』の移転リニューアル。私も今から約3年前に『寿』を訪問しつけ麺をいただきましたが、その時に感じたスープの甘みと出汁感のバランスの妙や、カエシの風味の質の良さが、いまだに好印象として記憶に焼きついていたところ。

 加えて、私に先んじて『周郷』を訪れた複数のラーメン好きからの感想も、手放しの高評価に近いものばかりで、オープンから日が経つにつれて、期待値が右肩上がりに上昇。店舗のロケーションが、新橋駅烏森口から徒歩2分程度というアクセスの良さにも後押しされ、空き時間を見付けて足を運んできた次第です。


店の目印は黒文字で『麺屋周郷』の店名が刻まれた表札。シンプルで洗練された日本料理店のような外観から、作り手のセンスの良さが漂います

 ちなみに『周郷』の物件は『酒蔵かっぱ』の跡地。固定ファンもいる人気の居酒屋だったようです。コロナ禍以前は、限られたエリア内におびただしい数の飲食店がひしめく都市部に限って言えば、前店舗がラーメン店でない物件に、ラーメン店が新規入店するケースは、減少の一途を辿っていました。

 ラーメン店は、飲食店の中で最も新陳代謝が激しいジャンルのひとつであり、新たにラーメン店を開業すべく物件を探そうとすれば、その物件は、自ずと閉店した(または閉店しようとしている)ラーメン店になってしまうからです。

 が、コロナ禍に伴う緊急事態宣言の発令等によって、夜間営業や店内での酒類の提供が制限されると、状況は一変。ラーメン店は、酒を出さなくても昼夜を問わず安定的に営業可能な業態として、改めて他ジャンルの飲食業からの注目を集め始めました。

 あまり意識はされていませんが、新たにオープンするラーメン店の数が、コロナ禍であるにもかかわらず、当初予想されたほど伸び悩んではいないのは、上記の理由に加え、「客単価は低いが回転は極めて早い」というラーメン店ならではの強みによるものではないかと思います。閑話休題。

和食の趣を感じさせる重厚な「つけ麺」を実食!


表札の隣には、小型券売機が鎮座

 提供するのは、現時点(2021年8月現在)で「つけ麺」とそのバリエーションのみという潔さ。店主である周郷寿克氏にその理由を尋ねてみると、以下のような答えが返ってきました。

「小岩時代は、むしろ今とは逆で、汁そば(醤油、塩、味噌)、つけ麺、餃子など、多種多様な商品を幅広く提供していました。もちろん、1つひとつの商品を、心を込めて丁寧に創っていたつもりですが、全ての商品に100%の力を注ぎ込めていたかと問われれば、自信がありません。なので『周郷』では、メニューをつけ麺のみに絞り込み、メンマの1本、海苔の1枚にまでこだわり抜きたかったんです」(周郷さん・以下同)

 店内を見やると、扉を隔てて店主の姿がチラリ。扉越しからでも伝わってくる緊張感に、暖簾をくぐる私の身も引き締まります。券売機の左上のボタンをプッシュし、『つけ麺』の食券を購入。


木を基調とした、和を感じさせる店内

 おもむろに扉を開けると、眼の前にはカウンター席が広がります。席数は6。移転前の『寿(カウンター15席)』よりも手狭ですが、整理整頓がしっかりと行き届き、居心地は決して悪くありません。周郷店主に食券を手渡してから、数分後。長過ぎず短過ぎず。まさに絶妙なタイミングで、注文の品が供されます。

 和食業界の修業歴が相対的に長く、料理についての考え方も日本食のそれがベースとなっているという周郷店主。そんな店主のラーメン観は、提供される「つけ麺」のビジュアルにも、明確に反映されています。


「特製つけ麺」1200円

 別皿に盛り付けられているのは、3種類のチャーシュー(豚ロース・豚バラ・鶏むね肉)とメンマ。盛り付け方にも、そこはかとなく日本食に通ずる“雅”が感じられます。

 ひと目見た瞬間、各種素材のうま味が凝縮されていることがわかるスープ、適量の水分を蓄え艶やかに輝く黄金色の麺など、つけ麺におけるW主役の姿形は、もちろん一点の不安要素もなし。ラーメンの実食経験が一定以上ある方であれば、箸に手を付ける前から「この1杯は間違いない」ことが判るはずです。


濃度の高いスープ。立ち上る魚介の香りがたまらない!

 スープは、店主が「数あるパーツの中でも特にこだわって創った」という、試行錯誤のたまもの。「有名店に通っては自宅で作り、失敗してはまた店に通い、改善を試みる。今の味に行き着くまで、ひたすらこの作業を地道に繰り返しました」。

 その過程の中で、今使っている圧力寸胴と出逢い、何度も試作を重ねて完成させたスープは、全国各地から選び抜いた豚と鶏、5種類の魚介素材のうま味が、一滴一滴に過不足なく凝縮された絶品。


調理場の中心に鎮座する圧力寸胴

「圧力寸胴を駆使し、素材を超高圧(2.6気圧)・超高温(136℃)で一気に炊き上げることによって、小岩時代に抱えていた『スープが安定しない』という課題を克服することができました」。

 が、それだけではありません。店主は「香りが抜けがちになる」という圧力寸胴が抱える問題点にもしっかりと向き合い、鶏油や魚介系の香りを圧力寸胴を使わずに別に採り、後でスープに加えることで解決。

 手間ひまを惜しまず、膨大な時間を掛けて創り上げたスープは、小岩時代からの持ち味であったカエシの風味の質の良さに、素材の等身大の味わいと香りがプラスオンされた会心の出来映え。一度口にしたら最後、レンゲを持つ手を止めることは至難の業でしょう。


麺とスープが絶妙に絡むことで旨さが何十倍にも引き上がる

 このスープと合わせるのは、名門『菅野製麺所』と共同で開発した、福岡県産小麦100%の太ストレート麺。「複数の製麺所にサンプルを作っていただき、うちのスープに最も良く合う麺はどれなのかをじっくりと見極めました」。箸で摘まみ上げた瞬間から茫洋と立ち上る小麦の芳香。

 自己を明確に主張しながらも、スープの持ち味はしっかりと引き立てる「このスープにして、この麺あり」の傑作です。


店主の思いが込まれたトッピング各種

「家族がもう食べたくないと音を上げるほど試作を重ねました。迷惑をかけたなと反省しています」。そう言って、店主が苦笑するほどブラッシュアップを重ねた3種類のチャーシューは、いずれも用いる香草を変え、まったく異なる味わいを演出。豚ロースと豚バラは、提供前に炙りを加えることで、うま味を極大化。単品の「つまみ」として提供されても、食事として十分機能するほどの逸品に仕上がっています。
 
「より良いものとなるよう毎日味を吟味し、改善点が見つかれば、ためらうことなく改善していきたいと考えています。味の追求にゴールはありませんから」。

 オープンして日が浅いにもかかわらず、すでにその評判を聞きつけ訪れる人が絶えない『麺屋 周郷』。遠からぬ内に、新橋を代表する人気店のひとつに躍り出ることに、間違いはないでしょう。

店主(周郷寿克氏)のプロフィール

・ラーメン職人となったきっかけは、和食職人時代に、ラーメン業界に参入した先輩から、ラーメンの魅力を教わったことによるもの。
・2013年10月、京成小岩の地に、自分の名の一文字を冠した『麺屋 寿』を開業。7年かけて同エリアを代表する人気店に育て上げる。
・2020年4月、小岩の店を畳み、1年余りの空白期間を経て、2021年6月、新橋の地に自らの名字を冠した『麺屋周郷』をオープン。
・自らの経験を活かし、ラーメンに日本食のエッセンスを導入しようと試みる。ラーメンの中でも特に「つけ麺」は、日本食のコース料理の発想が採り入れられるのではないかと考え、『周郷』では、空白の1年間を活用して磨きをかけたつけ麺のみにメニューを絞り込んで提供している。

●SHOP INFO

店名:麺屋 周郷 (めんやすごう)

住:東京都港区新橋4-19-1
TEL:080-7996-0227
営:11:00〜15:00、17:00〜20:00、日曜11:00〜15:00
休:月曜
https://www.mensugo.com/

●著者プロフィール

田中一明
「フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。

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