木下グループはなぜ、注目度の低かった「カップル競技」の支援を始めたのか?

2023年9月13日(水)12時0分 JBpress

文=松原孝臣 

アイスダンスやペアの支援を先駆けて行う

 昨シーズン、フィギュアスケートの世界選手権でペアに日本初の金メダルをもたらしたのをはじめ、出場した大会すべてで優勝。三浦璃来/木原龍一は、日本の、世界のペアの歴史を塗り替える活躍を見せた。国際スケート連盟の主要3大会「グランプリファイナル」「四大陸選手権」「世界選手権」を1シーズンで制覇する「年間グランドスラム」を日本で初めて達成したことも、色を添える。

 2人の活躍とともに、所属先「木下グループ」にも関心が寄せられるようになった。フィギュアスケート界ではなじみの深い企業でもある同社は、三浦と木原のみならず、とりわけ、アイスダンスやペアの支援を先駆けて行ってきたことでも知られる。

 当初、それは異例のこととも受け止められた。なぜなら、日本では大会で華々しい成績を残すことで関心を高めてきた男女シングルに対し、カップル競技——アイスダンスやペアに対しては低い状況が続いてきたからだ。大会で好成績をあげられず注目も集まらない。結果、スポンサーもなかなかつくことはなく、競技活動に必要な資金などの支援も得にくい。そんな悪循環があった。

 その中にあって、木下グループは2009年12月、アイスダンスのキャシー・リード/クリス・リードと所属契約を結ぶと、2010年4月にはペアで活躍していた高橋成美/マーヴィン・トランとも契約。その後もシングルの選手をときに支援しつつ、ペアの高橋成美/木原龍一、村元哉中/クリス・リードなどを支援。今日まで継続している。

 なぜ、カップル競技の支援に力を注いできたのか。そもそも、フィギュアスケ—トとのかかわりはどのように始まったのか。

 工務店をはじめ介護や保育、エンターテインメントなどで事業を展開する総合生活企業である木下グループのフィギュアスケートとのかかわりは、2006年、ジャパンオープンのスポンサーになったことにある。同社の広報いわく、日本スケート連盟とともに主催することになったテレビ東京から話があり、スポンサーになったのだという。いずれにせよ、フィギュアスケートとそこで接点が生まれた。

 それから3年、先に記したように、キャシー/クリス姉弟と所属契約を結ぶ。


「ほんとうに助けを必要としている人を助けたい」

「日本スケート連盟の方から、『カップル競技の支援をお願いしたい』と打診がありました」

 2014年のソチオリンピックで団体種目が採用されることが決定していた。団体でのメダルを目指すにはアイスダンスやペアの強化の必要があった。

 カップル競技は、練習するリンクの環境面が整備されていない、トップレベルの選手を指導できるコーチがいないといったことから、シングルの選手以上に海外を拠点に活動する必要性があり、なおさら資金面の充実が鍵を握る。だが、働きかけても支援しようという企業は現れなかった。そこで木下グループに依頼があった。

 支援する企業が出てこなかった。それもまた、カップル競技の状況を示していたが、ではなぜ、木下グループは支援しようと考えたのか。

「『どこもやらないならうちが』ということで引き受けることになりました。フィギュアスケートに限らず、すでに誰かがサポートしているところではなく、陽の目を見ない、ほんとうに助けを必要としている人を助けたい、そういう考えが弊社にはあります。カップル競技に対しても、同じ理由から始まりました」

 同社が支援している他競技を見渡せば、オリンピックなどでの活躍もあって認知度の高い卓球は別として、馬術やセーリング、サーフィン、そして水泳の中でもオープンウォータースイミングの選手というように、注目度が高くない競技が並ぶ。それも同社の姿勢を示している。

 三浦と木原を巡るエピソードも、それを示唆する。

 フィギュアスケートでは応援する選手の名前などを入れたバナータオルを会場で掲げて応援する文化がある。昨シーズン、三浦と木原のバナータオルが製作され、販売された。

「売り上げはそのまま全部、2人に渡しています。製作費についてはこちらで負担しているので、作れば作った分、売れれば売れた分、会社としては赤字がふくらんでいくことになります」

 そして続ける。

「でも、元々2人を応援するために始めたことなので、チャリティーという思いが強いです。購入した方が買った金額の分、2人を支援することにもなります。2人もバナータオルを持って応援してくれることにとても喜んでいて、特に世界選手権の会場で掲げられているのを見て、『ほんとうに力になりました』と話していました」

 その世界選手権は、同社でフィギュアスケートの支援に携わってきた人々も会場で見守っていた。金メダル獲得に感無量だったという。

「2人にはいろいろなアイデアをもらいながら、『こういうのはどうかな』と話し合いながら、今シーズンのバナータオルも製作中です。2人をはじめ、今後もカップル競技の支援を継続していくつもりです」

 支援は、新たな形をとりつつもある。

 選手を育成する「木下アカデミー」の創設だ。(続く)

筆者:松原 孝臣

JBpress

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