カップル競技の選手を日本で育てるー木下アカデミー創設の理由と未来への思い

2023年9月14日(木)12時0分 JBpress

文=松原孝臣 

アカデミーの創設とアイスリンクの建設

 フィギュアスケートの支援活動に取り組む木下グループは、ときにシングルの選手も交えながら、カップル競技の選手たちの支援を他に先駆けて始め、今日まで続けてきた。

 並行するようにジャパンオープンやカーニバルオンアイス、アイスショーなどのスポンサーとしてもフィギュアスケートに携わってきた同社が、新たな形での取り組みを始めたのが2020年4月1日の「木下アカデミー」創設と、2019年12月15日に京都府宇治市にオープンした「木下アカデミー京都アイスアリーナ」建設への参画だ。

 同社の広報担当者が語る。

「順番としては、アカデミー構想があってから、リンクをつくる、という流れですね。アカデミーは、濱田美栄先生から、ロシアのように小さい頃から育てたいという相談があり、民間版エリートアカデミ—みたいなことをやりましょう、とお話させていただきました」

「濱田美栄先生」とは、長年スケーターの育成・指導に携わる指導者で、これまでに宮原知子紀平梨花など多数の選手を育てた。現在は木下アカデミーのゼネラルマネ—ジャーとして、昨シーズンの世界ジュニア選手権で優勝した島田麻央らの指導にあたっている。

「アイスアリーナについては、京都府さんの方で京都にリンクをつくりたいという思いがあって、ただ協力していただける企業がない。探していらっしゃったときに濱田先生経由で京都府スケート連盟の方をご紹介いただいたのがきっかけです」

 その後、土地を所有する京都府、運営にあたることになっていたリンクの運営・施工・管理などを担う「パティネレジャー」などと調整し、木下グループがアリーナ建設に加わることになった。アカデミーはアリーナを練習拠点とする。

 練習生は、もともと濱田コーチが指導してきた選手に加え、濱田コーチに、あるいは木下アカデミーに連絡をとってきた選手の中から選考しているという。

 練習生には、スケートにかかわる費用の面でサポートするほか、学習面では通信制の星槎学園と提携し、週3回、アリーナの施設内で直接勉強を見てもらえる環境を整えている。

 氷上や陸上トレーニングに加え、俳優を招いての演技指導、バレエレッスン、K-POPダンサーによるレッスン、選手時代から契約し引退後もアンバサダーを務める卓球の水谷隼氏にアドバイスしてもらう機会を設けるなどさまざまな形でサポートを図っている。

 アカデミーには島田や、今シーズンにシニアのグランプリシリーズデビューを飾る吉田陽菜、千葉百音らシングルの選手たちがいる。


カップル競技の選手を日本で育てたい

 その一方で、アカデミーにはカップル競技の選手も目立つ。アイスダンスでは今年6月に結成した吉田唄菜/森田真沙也。ペアは、ともに今年5月に結成した長岡柚奈/森口澄士、清水咲衣/本田ルーカス剛史がいる。これまでもカップル競技に取り組んできた選手、新たに挑戦する選手と背景は異なるが、それぞれに躍進を誓い、スタートを切った。

「木下アカデミーには、カップル競技の選手を、ゆくゆくは日本で育てたいという思いがあります。今は環境が日本にないから、みんな海外に行くじゃないですか。日本で練習環境を整えたいのでリンクの建設に協力したということもあります」

 三浦璃来と木原龍一がカナダで生活をおくりながら練習しているように、ペアやアイスダンスは、練習する環境やキャリアのある指導者に教わるため、トップレベルで活動しようとすると海外に拠点を求めざるを得ない。その現状を打破しようというのだ。

「アイスダンスに関しては、キャシー・リード先生がメインのコーチとして指導にあたっています。世界を目指すとなると、今は足りない部分があるかと思うので、年に何度か海外に合宿するという形をとっています。今もフィンランドに行っていますが、そこで経験を積んで戻ってきて、キャッシー先生に教えていただくという流れです。また、先日も宇治に来ていただいたんですけれども、秋にもケイトリン・ウィーバー(カナダ。ソチ、平昌オリンピックに出場するなど活躍したアイスダンサー)に来ていただく予定です」

 ペアのふた組も8月から9月にかけてカナダのトロントで練習に打ち込んでいる。

 カップル競技の選手を育てるための課題は感じ取っている。

「指導者ですね。招へいすることができなければ、どうしても海外に移って練習する、ということになってしまいます」

 課題を突破していく鍵として、あるスケーターの名前をあげた。

「木原龍一選手がいつか現役を引退されたら、宇治で教えていただきたいですね」

 長年、木原を支援する中で人柄を含め見てきて、指導者としての適性を見出す。


より多くの方にスケートを見ていただけるように

 カップル競技への支援を継続しつつ、シングルの選手も育成する環境を整え、さらに幅を広げようとしている。

 ひとつは木下アカデミーとして行ってきたアイスショー「ブルーム・オン・アイス」の拡充だ。

「練習生のお披露目会的なものとし始まりました。お客様に見てもらうのは大切な機会であるということ、ゲストスケーターを招いて先輩方と一緒に滑ることでいろいろ吸収してもらうことが目的です。ゆくゆくはもう少し大きくしていければと思っています」

 あるいは、さまざま支援してきた中で、今回から主催となった10月7日の「ジャパンオープン」と「カーニバルオンアイス」についてこう語る。

「今回は時間がなかったのでやりたいことが100%できる環境ではないですが、より多くの方にスケートを見ていただけるような企画をしたり、これまで親しみのなかった方にもスケートを知っていただく機会にしていきたいと考えています」

 手始めとして、埼玉県在住および埼玉県の学校に通学している小中学生、東京都在住および東京都の学校へ通学している小中学生を対象に、ジャパンオープン、カーニバルオンアイスのチケットをそれぞれ2000枚無料で、また日本スケート連盟に登録している全国のスケーターに各500円(あるいはあわせて1000円)で販売するという。いずれも当日先着順の方式をとり、ジャパンオープンは9時30分から12時45分、カーニバルオンアイスは17時から18時30分を受付時間とし、スケーターはバッジテストの証明書の提示が必要となる。

 そこには、フィギュアスケートの未来への思いがある。

「フィギュアスケートに限らず、自分を追い込んで頑張る姿には心打たれるものがありますが、中でもフィギュアスケートの芸術面、表現面を含んだ魅力は他のスポーツにはないところだと思います。ただ、多くのスター選手がいらっしゃって、それこそアイスショーをやればお客さんが入るという状況はいつまでも続きません。みんなで協力して選手を育てていくことが、これからのフィギュアスケートのために大事なのかなと思っています」

 その一翼を担うべく、カップル競技を支援し、育成組織を築き、アイスショーなどでも貢献したい。そう考えている。

筆者:松原 孝臣

JBpress

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