「テストで満点取ったの偉いね」は言ってはいけない!? 小児脳科学者が教える【子どもの脳をダメにする一言】

2021年10月5日(火)19時10分 マイナビ子育て

「賢い子に育ってほしい」「情緒が安定した人になってほしい」……親なら誰しもが思うことですが、子どもの脳を上手に育てるにはどうすればいいのでしょうか。

脳科学、心理学、教育学のエビデンスに基づいた独自の理論「ペアレンティング・トレーニング」(よりよい脳育てのための生活環境づくり)を確立した小児脳科学者の成田奈緒子さんと公認心理士の上岡勇二さん。「子育て科学アクシス」を立ち上げて親や家族の悩みを聞き、この理論に沿ってアドバイスしています。さらに、具体的な会話例を基に同理論を解説した書籍『その「一言」が子どもの脳をダメにする』(SBクリエイティブ)を執筆されました。そんなお二人に、特に気をつけたい脳育てのポイントをうかがいました。

子育ての悩み、脳育てがうまくできていないことが原因かも

Q. お二人が立ち上げた「子育て科学アクシス」を訪れる保護者には、どんな悩みが多いのでしょうか?

「自分の思ったように育たない」と感じる親御さんが多く見られます。小さいころは何も問題がないように見えた子が、大きくなるにつれて情緒や行動が「年相応ではない」と思うようになり、違和感を持たれるのです。親が「学力・学習行動が獲得できていない」と思うあまり、過干渉になり過ぎて、結果的に子どもの学習意欲がなくなっていることに悩んでいる場合もあります。

子ども自身の集団に入ることへの恐怖や、集団でのちょっとしたトラブルに対する打たれ弱さ、またこれらからくる自律神経機能障害に起因する心身不調、たとえば起床困難や頭痛・嘔気・腹痛・下痢や、そのほかには強迫行動・摂食障害などに悩むケースもありますね。

Q. さまざまな悩みがあるのですね。脳育ての理論で解決できることはあるのでしょうか?

最初にあげた年相応でないと違和感を持つような場合は、脳育てを無視した家庭生活が原因のひとつと考えられます。

子どもの脳育てには、変えることのできない順番があります。本来、子どもの脳は3つのステップを経て大人の脳へ育ちます。

最初に育つのは「からだの脳」。脳のなかで呼吸や自律神経、寝る、食べるなど、生きるために必要不可欠な機能をつかさどる部分です。

次に「おりこうさんの脳」。言語機能、手足の細かい動きなどをつかさどる部分です。

最後に「こころの脳」。論理的思考、問題解決能力、想像力や集中力など、最も高度な脳の機能をつかさどる部分が育ちます。

この順番は守るべきもので、家を建てるように、1階にからだの脳、2階におりこうさんの脳、3階にこころの脳をつくっていきます。この順番を無視して先におりこうさんの脳を育てようとすると、1階が2階の重さに耐えられず、崩れてしまうことに。その結果、不登校や起立性調節障害などにつながることがあります。

大人の目に見えるのは「おりこうさんの脳」、または「こころの脳」の問題です。でもその原因は、そもそも「からだの脳」が育ってないことに起因するものがほとんど。ここから育てなおせば、多くの問題は解決する可能性があります。

脳育てはまず「からだの脳」を育てることから

Q. 「からだの脳」が育っていることを確認するポイントはありますか?

・「自分で」目覚める朝・「自分で」お腹がすく朝・「自分で」排便する朝・「自分で」活動的になる朝・「自分で」眠くなる夜以上が確立されていたらOKです。

「起こされて」起きるのではなく、「食べさせられて」食べるのではなく、「寝かされて」寝るのではありません。

朝は自然に目覚めてお腹が空き、排便があって、活動的になる状態がいいのですね。

Q. 著書にも「朝ごはんを食べたくないは脳からの危険信号」とありました。このほかにも、親から見てわかりやすい危険信号はありますか?

あくまで“その子のふだん”と比べて、以下のようなことに気づくことです。・寝ているはずなのに目の下にクマ・昼間の眠気多い・活気がない・顔色が悪い・だらだらしている・イライラしやすい

「ふだんと比べて」の違いに敏感に気づくために、日ごろから親はお子さんを観察しておくことが肝要になります。もしからだの脳が育っているか不安があったら、睡眠など基本的な生活習慣から見直してみてください。

脳育てのための声かけのコツ

Q. 次のステップとして「おりこうさんの脳」「こころの脳」を育てる声かけについておうかがいます。著書では子どもの「自立」を奪う言葉の例として、「100点取るなんて偉いね!本当にうれしいよ」があげられていました。成果を褒める言葉や「あなたのためを思って」など、親は良かれと思って言葉を発しがちです。こうした言葉のリスクを教えてください。

成果ばかり褒めていると、・「失敗」を恐れる子供にしてしまう・自分の意見を言えない子供にしてしまう・親にすべての決定をゆだねる子供になってしまうといったリスクがあります。

特に小学校高学年以上では、「正論は言わない」が一番大事です。まずは、共感できなくても子どもの言葉をおうむ返しします。何か言葉をかけるなら、できるだけ「少し年上の友達」がかける言葉を考えてみてください。もし、NGな声かけをしてしまったら「次に同じことがあったらどうするか」をシミュレーションしておくといいですね。

Q. ありがちな「NGな声かけ」にはどんなものがありますか?

お稽古事や塾などにお金をかけている親は、どうしても子供の「やめたい」に「もっとがんばれ」という声掛けをしがちです。お金をかけるのは親なので、「元を取れ」と思ってしまうんですね。親は最初から「続かないかも」とあきらめておくことが大事です。根性論などはもってのほか。こどもは飽きっぽいもの、と最初から心得ておきましょう。

他にも、軽い子ども同士のいさかいのときに、「いじめられてかわいそう」ということを言ってはいけません。その瞬間に子供は「かわいそうな子」になって不安を増大させてしまいます。そういうときこそ、「へえ、〇君と仲いいんだね」などポジティブ転換してください。

軽いケンカやいさかいは、仲がいいからこそ起こることでもありますね。親は被害者意識をもたせるのではなく、ポジティブに考える習慣を持たせたいですね。

親子でストレス解消法を共有することも◎

Q. 脳育てのポイントである「怒りやストレスの適切な対処法を共有する」ことについて、普段どのようにアドバイスされているのか、またおすすめの例など教えてください。

まず、親が自分のストレスに気づく → 対処する → それを子供に話をするということ。例えば、「今日はお客さん対応で大変だったから、帰りにマッサージに行って楽になったわ」と子供に話をする、といった具合です。

次に、親が子供のストレスに気づく → 言葉に出して子供に対処をアドバイスするということ。「今日はなんか顔色悪いし、食欲なさそうだから、大事を取って学校休んだら? そしたら明日は元気になるよ」と声をかける、などですね。

最後に、子供自身が自分のストレスに気づいて対処を自分で行うこと。「今日は部活の途中でめまいがしそうになった。疲れたみたいだから早く寝るね」、などです。このステップを薦めています。

子育て中の保護者の方々へ

家庭生活は子どもの脳育てに大変重要です。そして、親の役目は子どもをしっかり観察することです。外注の習い事・塾を否定するわけではありませんが、ぜひ子供をしっかり観察して役割を与え、「この子はどこまでできるようになっているのか」を見極める作業を継続していきましょう。それを言語化することで親は子を信頼でき、子は自信と安心を与えられ、自律と自立ができるようになります。

そして何より一番大切なのは、親自身がストレスを適宜解消し、笑顔で楽しく生活している姿を家庭で見せることです。ストレスがかかっているのにそれを押し隠して「家族のため、子供のため」に無理をし続けることは逆効果だと思ってください。

(解説:成田奈緒子、上岡勇二 文・構成:佐藤華奈子)

※画像はイメージです

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