アンカー決戦を制した國學院大が優勝した出雲駅伝、駒大と青学大、両監督が語る敗れた理由
2024年10月18日(金)6時0分 JBpress
(スポーツライター:酒井 政人)
平林にトップで渡せると読んでいた前田監督
10月14日に開催された出雲駅伝。勝者となったのは國學院大だった。前田康弘監督はレース前日から自信に満ちていた。
記者会見が終わり、開会式に向かう途中、わずかな時間だったが単独取材したときの言葉が鮮烈だったのだ。
「3区の辻原は練習でも強いので、メンタル的にやられなければ平林にトップで渡せるんじゃないですか。平林の状態はいいですし、遅れたとしても篠原君が相手じゃなければ30秒差なら逆転できるかなと思います」
そして前田監督の予言通りにレースが進む。
1区青木瑠郁(3年)がトップの青学大と8秒差の3位と好発進。2区山本歩夢(4年)が5位に転落するも、V候補の青学大とは3秒差、連覇中の駒大には4秒先行した。3区辻原輝(2年)は青学大、駒大とトップ集団を形成するかたちになり、1位の青学大と20秒差でタスキを渡す。
そして「どの大学にも負けない」と前田監督が自信を持っていた4区野中恒亨(2年)と5区上原琉翔(3年)が連続区間賞を獲得。狙い通り、トップで平林清澄(4年)にタスキをつなげると、5年ぶりの優勝ゴールへ突き進んだ。
一方、敗者となった2位の駒大、3位の青学大は指揮官たちが“同じ敗因”を挙げていた。
アンカー勝負に敗れた駒大
最終6区は10.2km。4秒先にスタートした國學院大・平林清澄(4年)に駒大・篠原倖太朗(4年)が1.2kmで追いつく。「マラソン日本学生記録保持者」vs.「屋外5000m日本人学生最高記録記録保持者」。両エースのプライドをかけた戦いが始まった。
ふたりは並走するかたちでレースを進めると、4km過ぎに平林がペースアップ。「30秒差ならひっくり返す」と息巻いていた篠原はついていけない。駒大はアンカー決戦に持ち込みながら、3連覇の野望を打ち砕かれた。
6区篠原は区間3位タイ。区間賞を獲得した平林に36秒差をつけられた走りは本人も納得できるものではなかった。主将同士のアンカー対決を駒大・藤田敦史監督は冷静に見ていた。
「平林君はクレバーな選手なので、相手の状態を見て仕掛けたりするんですよ。篠原はプライドがあって横に並んだと思うんですけど、それで表情が見えやすい状況になりました。仮に後ろにいたら表情はわからなかったですし、最後にスパートをかけるかたちになれば、篠原の方がスピードはあるので勝てる可能性はあったかなと思います」
篠原は9月28日に行われたYogibo Athletics Challenge Cup 2024の5000mで13分15秒70をマークしており、そのダメージがパフォーマンスに影響したかもしれない。
ただ、今回の敗因はエースが本調子ではなかっただけではない。5区までの選手の“ラストの走り”が不十分だったと藤田監督は分析している。
「篠原の『30秒差なら』という言葉に甘えず、1〜5区の選手たちは頑張ってくれました。でも最後のひと伸びが各区間なかったんですよ。5区島子も最後は國學院大に離されました。篠原に渡ったときにビハインドというかたちになった時点で私たちの勝てるレースではなくなってしまったんじゃないかなと思います」
駒大は1区桑田駿介(1年)がトップと15秒差の6位でスタートして、2〜6区も区間4位以内と悪くなかった。三大駅伝初出場の5区島子公佑(2年)も区間2位と好走したが、駒大の区間賞はゼロ。前回、前々回でライバル校を突き放した佐藤圭汰(3年)の不在をカバーできなかった。
レース終盤で力負けした青学大
青学大は狙い通りに1区鶴川正也(4年)が区間賞で飛び出すも、2区野村昭夢(4年)で3位に転落する。3区黒田朝日(3年)でトップを奪い返したが、独走態勢を築くことはできなかった。4区で首位から陥落。5区若林宏樹(4年)がトップ争いに加わるも、終盤に引き離されて、「ジ・エンド」(原晋監督)となった。
今大会は「かっとばせ大作戦!」をテーマに掲げて、5000mで青学大記録の13分18秒51(日本人学生歴代3位)を持つ鶴川正也(4年)を1区に起用。箱根駅伝2区で区間賞に輝いた黒田朝日(3年)を3区に置いて、前半からぶっちぎる戦略を立てていた。しかし、原監督の思惑通りにはならなかった。
「1区がスローペースになり、思いのほか引き離すことができず、歯車が少しずつ狂いました。できれば1区で20秒くらい引き離したかった。2、4、5区はタスキ(渡し)間際で詰められるなど、爪の甘さが出た感がある。今回は『勝てる』と思うタイミングがなかったですね」
青学大の敗因も駒大と同じで、各区間におけるレース終盤での踏ん張りが利かなかったことだ。出雲は各区間の距離が短い「スピード駅伝」だが、選手たちは夏合宿で走り込んでおり、調整が最も難しい駅伝だ。次なる戦いは11月3日の全日本大学駅伝。出雲と異なり、選手たちの調子は格段に上がっている。そして来年正月の箱根駅伝で最終決戦を迎えることになる。
「この秋以降の駅伝となると、國學院、駒澤。それと予選会組からの中央。ここらがライバルチームなってくるでしょうね」と原監督。初戦の出雲を終えて、学生ランナーたちの戦いはますますヒートアップしていく。
筆者:酒井 政人