多くの犠牲者を出した梨泰院「雑踏事故」から2年、現地は今どうなっている…? 韓国専門家がリポート
2024年10月28日(月)20時45分 All About
2022年10月29日、梨泰院のある路地裏に人が集中し過密状態になった結果、 次々と人が折り重なるように転倒した。この事故で159人の死亡と195人の負傷が確認された。まもなく2周忌を迎えるが、その後梨泰院、そして韓国はどう変化したのだろうか。
事故当日は、梨泰院駅周辺の大混雑に危機感を抱いた市民たちが警察に通報していたが、実際にはそのほとんどに対して適切な対応が取られていなかったことが後に発覚している。龍山区幹部や職員、警察関係者らが業務上過失、証拠隠滅などの容疑で書類送検、逮捕された。
2024年5月には被害者の権利保障、真相究明、再発防止の特別法案がようやく可決されたが、遺族や被害者たちはここまでの道のりをどれほど長く感じたことだろう。
9月には独立調査機関が発足し、真相究明への一歩を踏み出すことになったが、活動期限が1年以内(3カ月以内で延長可)と短いことなどが憂慮されている。
同じく9月、当時の龍山警察署長が禁固3年の判決を言い渡された。しかし、複数の罪に問われていた中、業務上過失致死傷だけが有罪とされ、その他は無罪とされた。
また10月17日には、業務上過失致傷罪に問われていた元ソウル警察庁長官、および当直勤務責任者ら2人に無罪判決が下りたことで、処罰の在り方に疑問の声が多く上がっている。23日検察は控訴している。
梨泰院から弘大へ
事故が起こるまで、韓国でハロウィーンを楽しむ場所といえば梨泰院だった。さまざまな国籍の人が集まり、それゆえに異国的な雰囲気が漂う。外国からもたらされる文化が最もしっくりくるエリアだったからだ。
しかし梨泰院という街、そしてハロウィーンという日は、多くの人にとって惨事を風化させないよう記憶し、追悼する存在に変化した。
2023年の10月最後の休日、梨泰院は2022年とは打って変わり静かだった。一方、学生街として知られる弘大がハロウィーンの舞台に取って代わり、多くの若者が集まった。まもなく惨事から2年を迎える今年も、弘大をはじめ、聖水洞や狎鴎亭などには人が集まることが予想されている。
事故後、主催者のいないイベントの安全管理は、管轄の自治体の長に義務付けられた。ソウル市は 今月25日〜11月3日までを「ハロウィーン重点安全管理期間」と定め、人込みが予想される15の場所を中心に、警察、消防で安全点検などを行うこと、必要に応じて通行規制などを行うことを発表。
行政安全部も11月1日まで全国27の地域を集中的に管理する計画を発表している。
行事としてのハロウィーンは自粛傾向に
惨事直後、各種コンサート、百貨店のセール、季節の行事など、あらゆるイベントが中止された。2023年に入り、少しずつ日常の光景に戻りはしたが、自粛の風潮が全くなくなったわけではない。社会的な追悼の雰囲気をくみ、「ハロウィーン」という言葉を前面に出して行うイベントやコンテンツは随分と減った。
幼稚園や学習塾は年間行事の中に必ずハロウィーンがあり、子どもや先生が仮装をしてお菓子を配るというスタイルがほぼ定着していたのだが、それも規模の縮小、あるいは開催しないことを決めた施設が多い。
ハロウィーンを最も商業活用してきたテーマパークの場合、 実際にはそれを連想させる内容ではあるものの、イベントやパーティー名に「ハロウィーン」が入らなくなった。 また、主要百貨店なども関連マーケティングを控える傾向にある。
2022年10月29日、「あの日政府は存在しなかった」、そう感じた国民は多い。尹大統領は「安全な韓国をつくる」ことを約束しながらも、梨泰院の惨事から1年の遺族追悼式を訪れなかった。
この追悼式を「政治集会」と見なしたのがその理由とされているが、セウォル号事件の1周忌追悼式に朴槿恵元大統領が出席しなかったことをほうふつとさせる。「国民の傍らに常に国家が存在する韓国を目指す」と発言していた政府高官もいるが、国民が望む在り方でそれが実現するのはいつになるだろうか。
梨泰院で起こった群衆事故は、韓国社会全体に深い傷痕を残したままだ。そして今年もまた10月29日を迎える。
松田 カノンプロフィール
翻訳家・カルチャーライター。在韓16年目、現地のリアルな情報をもとに韓国文化や観光に関する取材・執筆、コンテンツ監修など幅広くこなす。著書に『ソウルまるごとお土産ガイド(産業編集センター)』などがある。All About 韓国ガイド。(文:松田 カノン(翻訳家・韓国専門カルチャーライター))