日本酒ファンに知られる名酒「花垣」の幻酒、ワイン樽貯蔵にヒントを得て醸造

2023年11月17日(金)12時0分 JBpress

文=加藤恭子 撮影=加藤熊三 写真提供=南部酒造場


穏やかな純米大吟醸の香りと芳醇なうまみ

 美しいシャンパンゴールドの酒色に、思わず見惚れる。グラスからふわりと立ち上るのは、バニラクリームを思わせる甘く複雑なオーク樽の香り。穏やかな純米大吟醸の香りと、とろりとした芳醇なうまみが樽香と溶け合って、ピタリとはまる。

「花垣」といえば、日本酒ファンに知られる福井県大野市の南部酒造場による名酒。享保18(1733)年、城下町として栄えた市内の七間通りに、大野藩御用達の大店である金物商「茶ノ木屋」として創業した。しかし、明治時代、市中で二度の大火が発生し、市中のほぼすべてが焼失してしまう。

 折しもこの時期、田んぼの稲は豊作続き。そこで親戚筋の酒造家に指導をあおぎ、ゼロからの再起をかけて酒を造ったところ、大変な美酒ができあがり、たちまち評判となったという。その酒質が桜の花の垣根を思わせる華やかなものだったことから「花垣」と命名。酒造業に転身し、明治34年、社名を南部酒造とした。

 2023年より杜氏として蔵に立っているのが三十代の若き蔵元、南部拓也さん。山々に囲まれた盆地である越前大野は、酒造りに適した条件がそろうと語る。

「ここ越前大野は、酒米『五百万石』の特A地区といわれ、昼夜の寒暖差の大きい気候のもとで良質な米が育ちます。また、御清水(おしょうず)と呼ばれる名水をはじめ、やわらかな地下水が豊富で、飲用はもちろん生活用水としても使われています」


発売1か月もたたずに完売

「花垣 オーク樽貯蔵 純米大吟醸」がデビューしたのは、2003年。じつは拓也さんの先代に当たる蔵元の南部隆保さんは、大野市の白山ワイナリーの初代醸造長に就任したほどワインの醸造に造詣が深い。海外で見たワインのオーク樽貯蔵にヒントを得て、この商品を生み出したという。これが発売1か月もたたずに完売。以来、欲しくてもなかなか買えない幻の酒として評判となった。

 フランスのスガモロ社製のオーク(ミズナラ)の木樽に詰めるのは、花垣の本丸ともいえる、福井県産の五百万石と兵庫県産の山田錦を使用した精米歩合45%の純米大吟醸。オーク樽のバニラのような香りやほんのりとしたビターさを引き立てるため、落ち着いたバナナのような甘い香りが出るきょうかい酵母1401 (金沢酵母)を使用することにした。

 南部酒造場の造りの特徴は、小さい蔵ゆえに手仕事が多いことだと拓也さんは続ける。

「洗米も麹造りもほぼ手作業です。とくに麹造りは時間をかけて、味わいのある酒を追求しています」

 麹造りは早ければ48時間、一般的には52時間とされるが、南部酒造場では長いときには58時間もかける。時間をかけることで酵素力価(こうそりきか)が強い“老(ひ)ねた麹”になり、味わいの濃い酒になりやすいのだという。しかし、過ぎれば雑味が多くなるため、一線の見極めが重要だ。30度程度のほんのり温かい蒸し米を麹室に引き込んだら、乾湿をつけながら麹の菌糸をしっかりと米に食い込ませてパラパラに乾かしてゆく。

 次に酒母造り。普通速醸酛の場合は2週間ほどかかるが、南部酒造場では最短5日ほどでできる約22度の中温速醸酛を基本としている。元気のよい酵母の最初から最後まで勢いよく活動し、三段仕込みでもろみを発酵させていく。

 もろみを仕込むのは、室内全体を5.5度前後で管理している吟醸蔵。純米大吟醸は2トン程度の解放タンクで小仕込みにし、温度を調整しながら長期低温発酵をさせる。

「サーマルタンクのように自動で温度調節ではないので、これがけっこう大変(笑)。うちではタンクにマットを巻いて、その隙間に手作業で氷を入れて温度を下げたりしています」

 12月に絞りあがったものをいったん瓶詰めして5度で低温管理し、7月に空いたフレンチオーク樽に移し替える。それから約1年かけて、15度の定温庫でゆっくり熟成させることで、美しい色と香り、なめらかな味わいが生まれる。

 こうして完成した美酒は、そこはかとなく洋酒の雰囲気をまとう。フレンチオーク樽の香りと純米大吟醸の落ち着いた酒質が、クリーム感のある料理に驚異的に合う。

「キッシュやチーズフォンデュなど、チーズやクリームを使った料理がとても合うと思います。また、木の香りがスモーキーなものと合わせると相乗効果でより美味しくなります。個人的にはチーズの燻製やビーフジャーキーと合わせるのもおすすめです」

 年末年始の寒さ厳しくなる時節、こく深い旨味系の食材と合わせて、スペシャルな美酒を堪能してみては!

筆者:加藤 恭子

JBpress

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