寿司を通じて子供たちに海の今とこれからを伝える―くら寿司の小学校出張授業をレポート

2022年12月16日(金)11時45分 ソトコト




「安心・おいしい・リーズナブルな価格・そして楽しい」をコンセプトとし、快適に食事が楽しめる回転寿司チェーンとして老若男女問わず人気の「くら寿司」。
このくら寿司を展開するくら寿司株式会社が、2022年4月より、全国の小学生の児童を対象に出張授業を展開しています。授業のテーマは“お寿司で学ぶSDGs”。回転寿司という身近な題材から、水産業や食についての課題と、その解決に向けたアプローチをともに考えるというものです。
この出張授業を発足した背景として、2020 年度に改定された学習指導要領に「持続可能な開発のための教育(ESD)」の理念が組み込まれ、各学校でSDGs教育が推進されたことがあります。くら寿司では、2010年から「天然魚プロジェクト」を開始し、現在では、全国115か所の漁港、漁協から直接買い付け、独自のルートで配送することで、新鮮な国産天然魚をより安く、より美味しい寿司ネタとして提供するとともに、子や孫の代まで日本の魚が食べられる未来のため、漁業者との共存共栄を目指す漁業創生の取り組みを行なっています。
これらの取り組みを知った学校の先生から授業の題材にしたいとの問い合わせが急増したことを機に、本格的な出張授業プログラムの開発に乗り出しました。本授業を通じて、水産業やSDGsについて身近に考えてもらうきっかけになるのはもちろん、くら寿司のファンになってもらうことを目的としています。
ここでは10月に愛知県で開催された出張授業のレポートをするとともに、講師を務めるくら寿司株式会社・広報部の戸木田さんと岡本さんにお話をうかがいます。


キーワードは“低利用魚”と“食品ロス”。簡単ではない内容をさまざまな工夫を介して児童たちに伝えていく


10月、愛知県名古屋市の小学校で、5年生51名を対象にくら寿司の出張授業が開かれました。くら寿司がこの取り組みを始めてから、愛知県では初の開催で、放課後などのエクストラのものではなく、通常の授業時間内の社会科の一環として実施されました。
授業は、
・スライドや魚の模型を使いながらの座学・質疑応答
・店舗で使用されているものを模したレーンを使って、ゲーム形式で食品ロスについて学ぶ体験型授業
・本日の授業で学習した課題の解決方法を考えて発表
という3つのパートにわかれています。
はじめの座学では、海に棲む魚の種類やそのうち食用に使われているものはどの程度なのかといった基本的なことから、“低利用魚”と呼ばれるおいしいのに鮮度維持や流通等で課題があるために広く知られていない魚の話、水産資源の減少や漁業従事者の減少、そしてそこから引き起こされる未来の食卓の変化について語られました。





この“低利用魚”という言葉がひとつのキーワードとなっており、くら寿司では低利用魚も含めて漁師からすべての魚を買い取り、漁師の収入還元にも繋げる「一船買い」という取り組みをしていて、食性(採餌の内容)により磯臭さが強かったニザダイを、海藻の代わりにキャベツを与えることで身の臭いを消してメニューに取り入れたエピソードなどが話されました。一通りの講義が終わったあとは、精緻な模型を使って「どの魚が食用として流通しているのか、または低利用魚なのか」をグループごとに話し合って考え、発表する時間が設けられていました。








続いて、食品ロスについて学ぶ授業に移ります。子供たちのグループ一つ一つを「作る側」と「食べる側」にわけ、人気の寿司ネタランキングを基に、いかに食品ロスを減らせるかを競うゲームですが、単なるレクリエーションではありません。作る側は、人気ランキングをもとに、よく売れるお寿司を多く流すなどの戦略を立てる一方、食べる側は、人気の高さに比例して枚数が多く入っている寿司ネタのカードをランダムで引き、出た絵柄のネタが流れてくれば、そのお寿司を取ることができるという設定で、実際に店舗で取り入れられている、データを活用した食品ロス削減の仕組みの一端を体験することで、立体的な学びができる内容になっていました。











授業の最後には、それぞれが今日学習した課題についての解決方法を考えて発表する時間となりました。子供たちからは、低利用魚について「どんな魚も工夫して食べる」、「低利用魚のことをたくさんの人に知ってもらって、よく食べられる魚にする」といった意見が、食品ロスについては「作る側は作る量を、食べる側は食べる量を意識して食事をする」といった、授業内容を反映した答えが続々と出されました。


また、くら寿司ではロボットを使ってシャリを握ったり、軍艦海苔を巻いたりといった作業を行なっていることや、使い終わった皿を各テーブルに備え付けられた投入口に入れ、洗い場まで運ばれた皿の洗浄もオートメーション化することで、清潔で、かつ従業員の労働負荷も減らせる取り組みを行なっていることなども説明され、色々な課題を見つけて解決していく姿勢の大切さを子どもたちに伝えていました。





プログラム終了後、何名か児童の方にこの日の授業についての感想を聞くことができたので、以下にそれを紹介します。
友澤郁人さん
SDGsのことは授業で習っていましたが、今日は新しく食品ロスについて色々知られただけでなく、実際に自分で考えてみる時間になりました。お寿司を作るゲームは楽しかったけど、しっかり考えて作らないと食品ロスにつながるんだということもわかりました。帰ったら、今日教えてもらったことを家族にも伝えたいです。
金子理人さん
SDGsという言葉は授業で聞いていたけれど、くら寿司がやっている取り組みについては知らなくて、身近なお店がそういう取り組みをやっていることがわかってよかったです。授業では、お寿司を作るゲームが楽しかった。作る側も食べる側も食品ロスについて考えなくてはいけないと思いました。
中川凛花さん
漁師さんの仕事の大変さと、それがどうすればよくなるのかの取り組みについて知ることができました。授業でSDGsについて勉強しましたが、お魚のことだけでなく、漁師さんの生活にもSDGsが関係していることを今日は学べました。





きっかけは一本の問い合わせから。水産業と資源の保護に動いていたくら寿司が小学校で出張授業を始めるまで


続いて、この出張授業のプログラムを担当する講師であり、くら寿司の広報部に所属する戸木田彩香さん、岡本愛理さんにお話しをうかがいました。
ソトコト 今日の授業を拝見して、まず子供たちのSDGsに関するリテラシーの高さに驚かされました。今回このプログラムを実施するにあたってのきっかけなどについてお話しいただけますか。
戸木田彩香さん(以下、戸木田)文科省の定める指導要領が改訂され、小学校4〜6年生の社会の授業でSDGsについて学ぶようになりました。また、5年生でICT(情報通信技術)と水産業について取り上げるため、くら寿司に問い合わせがあったんですね。それを契機に、くら寿司の広報部を中心に2021年からプログラムの企画開発をスタートし、2022年4月から全国の小学校でこの取り組みを始めました。
ソトコト なるほど、ICTについても子供たちが学んでいることを受けて、くら寿司の寿司づくりのシステムなどについても授業中に説明があったのですね。
岡本愛理さん(以下、岡本) 低利用魚については割とすぐに授業内容を考えることができたのですが、食品ロスについてどう説明をしようかと思ったときに、実際に当社が導入しているICTを活用した「製造管理システム」を、子どもたちが好きなゲームなら、分かりやすく、かつ、楽しく伝えられるのではないかと思い、「お寿司屋さん体験ゲーム」を授業に取り入れることにしました。
ソトコト 今年の4月から始められた取り組みですが、これまでのところ手ごたえはいかがでしょうか。
戸木田 授業後にアンケートを取っているのですが、やはり授業の中心テーマとしている低利用魚と食品ロスの問題について、とても強い関心を持ってくれています。
岡本 まだ始めたばかりのことなので、私どもにとってもフィードバックをいただけることはとてもありがたく、次の授業に活かすようにしています。
ソトコト 今回は小学校での出張授業というかたちでしたが、くら寿司さんがほかにSDGsの分野で推進されていることはあるのでしょうか。
戸木田 “さかな100%プロジェクト”という、漁業創生への取り組みを2018年から続けています。これまで4割ほどが廃棄されてきた骨やアラの部分を魚粉にして、これを養殖魚の餌の一部として利用するというものです。また、本日の授業のなかでも少し取り上げましたが、漁業創生の一環としては2015年から低利用魚も含めた“一船買い”の取り組みを行なってきました。
ソトコト 2015年というと、世間にSDGsという言葉が浸透するよりも前になりますが、その時点からさまざまな取り組みを始められていたのですね。では最後に、今回の出張授業を含めたSDGsな取り組みの今後の展望について、お聞かせいただけますか。
戸木田 出張授業についてはおかげさまで大変好評をいただき、今年度はスケジュールがいっぱいという状況になっています。初年度は50校での授業を目標にやってきましたが、来年度は、これを倍の100校に増やして、より多くの子どもたちに水産業の今とこれからについてお伝えしていきたいと思っています。
岡本 このような取り組みは、今日やって明日成果が出るものではないと思っています。今回は5年生の皆さんに授業を行ないましたが、子どもたちが成人するころにSDGsのゴールが定められる2030年を迎えます。それまでに子供たちだけでなくご家族の方も含めてくら寿司のファン、そして将来をともに作っていく仲間を増やしていきたいと考えています。
ソトコト ありがとうございました。




ソトコト

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