「暴力団はそういった連中を生かさず殺さずに使おうとしている」闇社会の関係者が明かす…半グレ、トクリュウとヤクザの“知られざる力関係”
2025年3月7日(金)18時0分 文春オンライン
集合離散を繰り返す犯罪集団「トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)」による犯罪が数多く報告されている。闇社会に新たに登場した彼らは、どのようにヤクザからシノギを奪っているのか。
ここでは『 匿名犯罪者 闇バイト、トクリュウ、サイバー攻撃 』(中公新書ラクレ)の一部を抜粋し、関係者の証言を紹介する。(全2回の1回目/ 続き を読む)
◆◆◆
株式市場を荒らす新興仕手筋グループ
離合集散を繰り返しながら、自らの存在を隠し、株式市場で仕手戦や会社乗っ取りを行うグループも、トクリュウの一つの形態と言ってもいいだろう。
仕手戦とは、株式市場で特定の企業の株式を違法に操作して、価格を大きく変動させることで利益を得ようとする手法(仕手)が行われている状態のことで、こうした手法を使う投資集団や個人投資家のことを仕手筋と呼ぶ。株価を意図的に操作することで利益を得るため、株式市場においては「反市場的勢力」として問題視されている。
日本の株式市場における仕手筋の歴史は古く、戦後の証券市場が再開された頃からその存在が確認されているという。特に高度経済成長期からバブル経済の時代にかけて、仕手筋は証券会社や銀行と密接に関わりながら、株式市場に影響を与える存在だった。先述の通り、バブル期には、暴力団が仕手筋の背後にいることも多く、金融機関と反社会的勢力が公然と結び付いていた時代でもあった。

その後、暴対法や暴排条例によって暴力団は金融の世界から締め出され、暴力団が株式の売買に直接関与するケースはほとんどみられなくなった。また、金融商品取引法や証券取引規制が強化され、証券取引等監視委員会による、仕手筋をはじめとする不正取引に対する監視は厳しくなっている。
しかし、株式市場における反社会的勢力の影響が完全に排除されたかと言えば、そうはなっていないというのが実情だ。
バブル期のように暴力団組長が上場企業の株を大量保有することが公になるようなことはなくなったが、背後に暴力団の影のちらつく仕手筋や乗っ取り屋が、情報操作により株価を変動させ利潤を得たり、業績が低迷している時価総額の低い上場企業の株式を買い占めて「ハコ企業」化し、不正な資金調達を行ったりといった事案は現在でも数多くみられる。
ここで言うハコ企業とは、業績が振るわず、株価が低迷したことから経営権の奪取が容易になり、仕手筋などに乗っ取られた上場企業のことを指す言葉だ。仕手筋や乗っ取り屋は、まずハコ企業の株式を買い集め、経営陣に影響を与える地位を確立することを狙う。
そして、企業の経営権を掌握した後、当初からの真の目的に沿った行動を開始する。その目的とは、ハコ企業を利用した株価操作や、不正な第三者割当増資(特定の第三者に対して新株を発行することで資金を調達する方法)などによる資金調達である。当然ながら、その過程において株式市場への悪影響が及ぶことは言うまでもない。
新興仕手筋
現在の株式市場においても、そういった仕手戦や乗っ取りを繰り返す、新興仕手筋とも呼べるグループが複数存在しているのは明らかだ。
ある新興仕手筋グループに株式を買い占められ、不正な株価操縦に巻き込まれたベンチャー経営者が明かす。
「私が経営していた会社は、新しいテクノロジーに対するニーズの増加を受け、会社設立から10年経たずに株式市場に上場することができました。ただ、上場に向けてかなり野心的な事業計画を立てていたことと、海外の大手企業の日本参入が相次いだことで、あっという間に業績が悪化してしまいました。
当然、株価は大きく低迷し、元々いた機関投資家たちは、どんどん株を手放し、さらに株価が下がるという悪循環に陥ります。そんな時、新しく大株主になった投資家から、その投資家が持つ他の企業と事業提携を結ばないかと持ちかけられました。
その企業のビジネスモデルは当時流行し始めていたものでしたし、本業が低迷したことで、なんとか新しい事業を作ろうとしていた時期だったこともあって、私はその提案を受けることにしました。
しかし、提携が正式に締結されると、その企業の経営者の態度は一変します。それまで一緒に進めようと話し合ってきたプランに対して、様々な理由をつけて実行を妨げようとするのです。
そして、提携がIRとして発表されたことで、私の会社の株価は一時的に上昇したのですが、その間に大株主になっていた先の投資家は、全ての株を売り抜けていたのです。私は、その時になって初めて、株価操作のために会社が利用されたことを理解しました。自ら育てた会社をなんとか守ろうと必死になっていたあまり、目の前に現れた話を疑う勇気を持てず、自分に言い聞かせるようにして信じてしまっていたのだと思います」
多額の利益を上げた暴力団
その後、そのベンチャー企業は、IR発表と事業実態に大きな乖離が生じていることや不祥事が次々に明らかになったことで、株価はさらに低迷し、株式市場からの退場を余儀なくされるが、話はそこにとどまらない。その新興仕手グループの裏には、買収のための資金を提供し、最終的に多額の利益を上げた、暴力団の存在も見え隠れしているからだ。
その新興仕手グループに詳しい事情通が言う。
「そのグループは暴力団系の資金だけでなく、金融ゴロや半グレなどにも声を掛け、大きな資金を動かすことで、株式市場の小型株を使った株価操縦や、怪しい資金調達によってかなりの利益を得ているとみられています。ただし、常に同じグループ構成というわけではなく、案件によってメンバーは流動的に組み変わっています」
株式市場に目を光らせる金融庁関係者は、「スタンダード市場やグロース市場において、株価が低迷している企業や、経営陣が何らかの問題を抱えている企業をターゲットに、経営に影響を及ぼすことを狙っているグループがいることには警戒を強めています。
ただ、一方でそういったグループには、金融ルールに詳しい証券会社の出身者や、素行の悪い弁護士なども加わっているため、そう簡単に尻尾を出さないという実態があります。監視側としても、そういった勢力に対するより一層の情報収集が求められていると実感しています」と危機感を表す。
本来、株式市場は企業の実績や将来性に基づいて価格が形成されるべきであり、仕手筋等の存在により不自然な株価変動が生じることは、株式市場の健全性を大きく損なう問題である。新興仕手筋グループやハコ企業の存在は、投資家保護の観点からも無視できない話であり、トクリュウの収益源になっているという面においても、早期の実態解明が求められる。
ケツモチはヤクザという闇社会の暗黙知
「それでもケツモチを担えるのはヤクザだけです」
暴力団関係者の男は、半グレ集団やトクリュウがどれだけ台頭してきても、最後の最後には暴力団による力の裁定が物を言うと力説する。「たしかに暴排条例の制定が進んで以降、ヤクザに代わって半グレ集団やトクリュウと呼ばれる連中が上手にシノギを行っているのは事実です。そういった連中が最新のテクノロジーを熟知しているのも、カネを持っているのも、また事実でしょう。
でも、だからこそ、暴力団はそういった連中を生かさず殺さずに使おうとしている。ヤクザが最も恐れているのは実のところ警察に捕まることだからです。
賢いヤクザの行動原理とは?
暴力団に対する警察の締付けが強くなったことや、裁判による判決が厳しくなったことで、ヤクザは捕まることを極端に避けるようになりました。鉄砲玉として敵対組織にカチコミを掛けて、出所後に幹部として迎えられるといった武勇伝は、今は昔のこと。
現在においては、どれだけ自らが直接的な関与をせず、多くの収益を得られるかが賢いヤクザの行動原理になっています。
そのため、ヤクザにとっては金稼ぎの上手い半グレやトクリュウたちは、自分たちの得意分野である暴力装置を使って守るに値する存在とも言えるのです。盃事といった明確な関係性を持たない、半グレやトクリュウを資金源としても、捜査対象として結び付きにくいという考えもあります。
とはいえ、自らが資金源としている半グレやトクリュウが他の犯罪組織から狙われ、潰されるような事態になっては困るため、うっすらとケツモチとしてヤクザが存在していることを匂わせる必要もある。
ヤクザとしては、半グレやトクリュウとの関係性を表立って示すことには捜査上のデメリットしかありませんが、闇社会においてはある程度知らしめておく必要があるという、微妙なバランスがあるのです。
一方で、半グレやトクリュウの中核にいる連中にしてみれば、暴力団にがっちり組み込まれたくはないし、巨大な犯罪組織である暴力団と対峙できるだけの実力が自分たちにないとも理解している。それならば、一層のことカネを払って守ってもらうほうが得策だという考えが働くのです。
もちろん、そういった関係性が保たれている背景には、暴力団員と半グレやトクリュウの首謀者らの間に、地元の先輩後輩といった関係があるからでもあります。この持ちつ持たれつの関係はこの先も変わらないでしょう」
この点については、警察関係者の見解にも近いものがある。
「暴力団構成員の数は相当減ってきているし、高齢化も進んでいるが、中長期的に組織を維持していくための論理と体力を持っているという意味において、やはりヤクザが組織犯罪における最大の勢力であることには変わりない。
実際、若い頃に半グレとして活動していた連中の中にも、歳を重ねるうちに組に入るものが少なくない。つまり、いつまでも自分たちだけで闇社会を生きていくのは難しいということだろう。今トクリュウと呼ばれている連中も、ヤクザが裏にいるから活動できている面も多分にあるはずだ」
つまるところ、組織犯罪の頂点にいるのは、今も昔もヤクザ組織である暴力団であることに変わりはないとの見方は根強い。そのため、トクリュウ捜査において、警察が最大の使命としているのも、背後にいる暴力団まで辿り着くことなのである。
〈 盗んだビットコインはどう現金化されている…? 専門家が暴露する“サイバー裏社会のリアル” 〉へ続く
(櫻井 裕一)
関連記事(外部サイト)
- 【あわせて読む】盗んだビットコインはどう現金化されている…? 専門家が暴露する“サイバー裏社会のリアル”
- 「キモいやつおるねん」“東大阪バラバラ遺体事件”28歳容疑者の幾多の奇行と近隣住民の恐怖体験「僕もアイツに狙われたのか?」「真夜中にこちらをじっと見て…」
- 暴力団が闇バイト強盗に「当家は断固たる処置を取ります」と宣戦布告した“納得の理由”「一昔前は半グレでも今よりずっと…」
- 「阪神・淡路大震災のときは山口組のテキヤに長蛇の列ができた」元ヤクザ組長が指摘→現代ヤクザと昔のヤクザの“致命的な違い”「弱い者を助ける侠客になれ」
- なぜヤクザに「指がない理由」を絶対に聞いてはいけないのか…? 元山口組系組長が教える「納得の理由」