【教養としての医学】世界中で爆発的に売れた日本発の「画期的な新薬」は「カビ」から生まれた

2024年4月6日(土)6時0分 ダイヤモンドオンライン

【教養としての医学】世界中で爆発的に売れた日本発の「画期的な新薬」は「カビ」から生まれた

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人はなぜ病気になるのか?、ヒポクラテスとがん、奇跡の薬は化学兵器から生まれた、医療ドラマでは描かれない手術のリアル、医学は弱くて儚い人体を支える…。外科医けいゆうとして、ブログ累計1000万PV超、X(twitter)で約10万人のフォロワーを持つ著者(@keiyou30)が、医学の歴史、人が病気になるしくみ、人体の驚異のメカニズム、薬やワクチンの発見をめぐるエピソード、人類を脅かす病との戦い、古代から凄まじい進歩を遂げた手術の歴史などを紹介する『すばらしい医学』が発刊された。池谷裕二氏(東京大学薬学部教授、脳研究者)「気づけば読みふけってしまった。“よく知っていたはずの自分の体について実は何も知らなかった”という番狂わせに快感神経が刺激されまくるから」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。

Photo: Adobe Stock

世界中で爆発的に売れた

 全米発明家殿堂(NIHF:National Inventors Hall of Fame)は、社会的に優れた科学技術や発明を称える目的で設立され、これまで六〇〇人以上の発明家が殿堂入りしてきた。

 その中に、歴史上初めて殿堂入りを果たした日本人がいる。農学博士の遠藤章である。二〇一二年のことだ。

 それ以外にも遠藤は、二〇〇六年に日本国際賞、二〇〇八年にラスカー賞、二〇一七年にガードナー国際賞など、医学や科学技術面で世界的に貢献した人物に与えられる賞を次々と受賞している。

 まさに世界でもっとも著名な日本人科学者の一人といえる。

 遠藤の功績の中で、医学の進歩に凄まじい影響を与えたのがコレステロール降下薬「スタチン」の開発だ。

 スタチンといえば、今や世界一〇〇カ国以上、毎日四〇〇〇万人を超える患者が内服するほどのベストセラーである。読者の中には、健康診断でコレステロール値が高いことを指摘され、クレストールやリバロ、メバロチンなどの商品名で販売されるスタチン系医薬品を内服している人もいることだろう。

 スタチンが世界で初めて発売されたのは一九八七年である。その後、数々のスタチンが生み出され、世界中で爆発的に売れた。

 人類史上初めて年間売り上げ一〇〇億ドルを達成した薬は、スタチン系医薬品のリピトールである(1)。

 スタチンは紛れもなく、医学史を変えた薬なのだ。

カビへの関心が生んだ新薬

 秋田県の農家に生まれた遠藤は、自然豊かな環境に囲まれ、幼少期からカビやキノコに関心を持った。

 また、大学時代にペニシリンの生みの親アレクサンダー・フレミングの伝記を読み、アオカビから画期的な新薬を生み出したフレミングに強い憧れを抱いた。

 創薬によって人の命を救い、社会に貢献したい。そう考えた遠藤は、一九五七年、医薬品メーカー三共株式会社(現・第一三共株式会社)に入社し、創薬の研究を始めた。

 彼が着目したのは、やはりカビであった。抗生物質の他にも、人類に役立つ物質を産生するカビがいるに違いないと考えたからだ。遠藤は、一九七一年から二年間で六〇〇〇株以上に及ぶカビを調べ上げ、一九七三月七月、ついにコレステロール合成を阻害する物質をつくるカビを発見。世界で初めての快挙を成し遂げた(2〜4)。

 スタチンを生み出したのは、奇しくもペニシリンと同じく、アオカビの一種ペニシリウム・シトリナムPenicillium citrinumであった。

 スタチンはのちに「第二のペニシリン」と呼ばれ、その後の医薬品業界を一変させたのである。

【参考文献】(1)“2017年ガードナー国際賞受賞記念特集 世界の基礎医学と臨床医学をかえたスタチン”児玉龍彦.化学と生物.2018;56:156-160.(2)“史上最大の新薬“スタチン”の発見と開発”遠藤章.本田財団レポートNo123.(3)“スタチンの誕生 世の中の役に立つ科学者を目指して70年”遠藤章.日農医誌. 2016;64:958-65.(4) 医学会新聞(二〇一四年六月十六日)「スタチンの発見者、遠藤章氏に聞く」(https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2014/PA03080_01)

(本原稿は、山本健人著『すばらしい医学』を抜粋、編集したものです)

山本健人(やまもと・たけひと)

2010年、京都大学医学部卒業。博士(医学)外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医、感染症専門医、がん治療認定医など。運営する医療情報サイト「外科医の視点」は1000万超のページビューを記録。時事メディカル、ダイヤモンド・オンラインなどのウェブメディアで連載。Twitter(外科医けいゆう)アカウント、フォロワー約10万人。著書に19万部のベストセラー『すばらしい人体』(ダイヤモンド社)、『医者が教える正しい病院のかかり方』(幻冬舎)、『もったいない患者対応』(じほう)、新刊に『すばらしい医学』(ダイヤモンド社)ほか多数。Twitterアカウント https://twitter.com/keiyou30公式サイト https://keiyouwhite.com

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