深刻な少子化に苦しむ「中国」と対照的に、今こそ「一人っ子政策を導入すべき」といわれる2つの国とは

2024年4月16日(火)21時5分 All About

日本と同様に、少子化が止まらない中国。「一人っ子政策」とは、一体何のために行われたのか。また、「一人っ子政策を導入すべき」といわれる国はどこなのか。(サムネイル画像出典:Deep Rajendran Nair / Shutterstock.com)

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2023年4月、国連人口基金(UNFPA)が発表した世界人口白書によれば、世界人口は史上最大の80億人を超えた。これを受けて同基金は「世界人口に関する報道や話題に接した人々は、人口が多すぎると考える傾向がより顕著でした」と分析している。
なぜ世界の人口が多すぎると考える人の傾向が強いのか。同基金によれば、その理由は、政治家や評論家、学者の一部が、人口が多いことによって需要過多になって供給不足の状況になるため、それが不安定な経済や気候変動、資源争奪争いの原因になっていると主張しているからだ。

子どもを「減らそう」としてきた中国の歴史を振り返る

ただ同基金はそれに疑問を呈し、「問うべきは、望む数の子どもを希望する間隔で産むことができるという基本的人権を、すべての人が行使できているかどうかです」と主張している。
この子どもを産むことが基本的人権だという考え方は興味深い。しかし世界には、この権利を真っ向から制限してきた国がある。そう、学校の教科書などでも習った「一人っ子政策」を取り入れてきた中国である。
少子化が問題になっている日本も、最近、子育て支援金の徴収額が上がることで大きな話題になっているが、これはそもそも子どもを増やすための政策である。これとは逆に、子どもを減らそうとしてきた中国は、いったい当初何を考えていて、その結果どうなったのか。今回は、この一人っ子政策について掘り下げてみたいと思う。

一人っ子政策を守る夫婦には「奨励金」「医療費支給」

この制度をひも解くには、中国の歴史を少しさかのぼる必要がある。現在の中華人民共和国が建設されたのは1949年のことだ。中国共産党の毛沢東主席が、北京市にある天安門広場で建国を宣言したのはよく知られている。
もともと過去の戦争などで人口がそれほど増加することがなかった中国は、1949年の建国以降は、国民が多くなればそれだけ国家を成長させるという考え方の下、人口増加を歓迎していた。ところが1953年に初めて人口調査が行われると、人口が予想された数を1億人も超えていることが判明した。
食糧不足が懸念されていた当時、人口が増えることで国が行き詰まると考えた中国政府は、計画的に出産をするよう国民に指導を始めた。要は、たくさん子どもを産まないよう仕向ける政策に動いたのである。だがそれでも人口は増え続け、1979年に「一人っ子政策」に乗り出した。
「一人っ子政策」では、「1組の夫婦に子どもは1人だけ」とされ、2人以上の出産を厳しく規制するようになった。晩婚を奨励したり、一人っ子政策を守る夫婦に奨励金を払ったり、医療費が支給されたり、就職が有利になったりするなどの優遇措置もあった。

2016年に廃止されるも、少子化は止まらず

この計画生育制度はうまく機能したが、機能しすぎたために逆に中国は少子化傾向になっていった。そこで2002年から、中国は段階的に一人っ子政策を緩和するようになる。各自治体などが地域の実態を見ながら条件によって2人目を許す「二人っ子政策」を許可するようになり、2016年には「一人っ子政策」を廃止して「二人っ子政策」に移行した。
2016年以降も出産規制を緩和させ、2021年には3人子どもを作ってもオーケーになった。だが時すでに遅し。長年行われてきた「一人っ子政策」の影響で、そんな環境で育ってきた現在の若者が子どもを多く産んで育てようとは考えなくなってしまっているという。
そして最新の中国の人口調査の結果に衝撃が走った。
中国国家家計局が2024年1月に発表したところでは、2023年末時点の人口は、14億967万人となった。この数字を見てもピンとこないかもしれないが、実は前年比で、208万人も人口が減少している。出生数も建国以来最低となる902万人で、前年比で54万人減っているという。
ただ現時点で、この傾向を覆せる要素は見当たらず、長年にわたって教え込まれてきた一人っ子政策による国民の意識をすぐに変えるのも難しいと考えられている。

子育て支援金の「増額」にも話題が集まる日本の今

少子化や高齢化は人口減少を引き起こすため、世界で各国の経済社会に対して深刻な影響を与えると考えられているが、日本にとっても中国の状況は決して他人事ではない。
総務省が2024年4月に発表した最新の人口推計によれば、2023年の日本の総人口は推計で1億2435万2000人と前の年より60万人近く減り、13年連続で減少したという。これも深刻な数字であり、だからこそ冒頭で触れたような、「子育て支援金の増額」など対策が検討されているわけだ。
さらに2028年までに、外国人労働者を82万人まで増やす計画も発表している。そうしないと、経済も回らない可能性があるからだ。
日本のみならず、韓国や中国、イタリア、ポルトガル、東欧諸国なども人口を増やすために苦心している。

「一人っ子政策を導入すべき」といわれる2つの国

ただ世界人口が全体的に増加していることを考えれば、地球規模では人口が増えて困っている国も、アフリカやアジアを中心とした途上国には多い。その1つは、人口ランキングで中国を抜いたインドだ。インドも莫大(ばくだい)な人口を抱えている国ではあり、これまでも中国のような一人っ子政策を導入するべきではないかという意見も一部で聞かれた。
ただインドは民主主義国家であり、多種多様な民族が暮らし、いろいろな宗教を信仰している人たちがいる。そのために、国民全てに一方的に政策を押し付ける中国的な計画生育制度を課すのは難しいので、実際にこれまで一人っ子政策のような制度ができたことはない。
そのほか、一家族で平均6人の子どもがいるといわれ、これからも人口増が続くと見られているアフリカの経済大国ナイジェリアでも、一人っ子政策を導入すべきだとの声が上がっている。6人の子どもを4人にしようとする政府の動きはあるが、「一人っ子政策」を導入するのには賛否がある。ただ爆発的な人口増を止めたり、少なくとも出生率をコントロールするためには避妊具などへのアクセスといったインフラ的な対策が必要になるのは間違いない。
こう見ると、中国が行ってきた厳しい一人っ子政策は結局、中国のような強権的な国でなければ導入が難しく、その効果も予想しづらいものであることが分かる。このまま中国の歴史の一部として忘れ去られていく可能性が高いということだろう。
この記事の筆者:山田 敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチン習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。
X(旧Twitter): @yamadajour、公式YouTube「スパイチャンネル」
(文:山田 敏弘)

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