もはや「素晴らしいニッポン」は建前か。インバウンド急拡大の今、外国人に聞いた「日本の嫌いなところ」

2024年5月13日(月)21時5分 All About

新型コロナ禍以降、日本には外国人が増加している。外国人が好きな日本の文化はよくニュースなどにも取り上げられるが、一方で彼らが日本に感じる「ネガティブな印象」についても知っておく必要がある。実際に、日本に住む外国人などに聞いてみた。

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新型コロナ禍以降、日本で外国人が増加しているのを感じている人は多いだろう。
筆者も関西エリアに出張に行くことが少なくないが、主要駅の新幹線ホームは外国人であふれかえっているのを目の当たりにする。外国人観光客の増加は数字にも出ていて、政府観光局の統計によれば、2024年3月の訪日外客数は、単月として初めて300万人を超えたという。その背景には、円安が進んでいる安い日本への「インバウンド需要」が高まっていることがある。

外国人が感じているのは「日本のポジティブさ」だけではない

メディアでも、安くておいしい日本の食事や日本の独自文化に目を輝かせる外国人を取り上げることが多い。事実、筆者の知人も、何人もが日本を観光で訪れ、皆一様に日本を絶賛している。個人的には外国人が日本のポジティブな面を語る姿はもう見飽きた感もあるが、日本が外国人から好意的に見られることに気分を害する日本人は多くないだろう。
ただメディア報道などでは日本に対するネガティブな見方があまり報じられないので、筆者としてはどこか腑に落ちないところがある。当然だが、日本は決して観光客が表面的に感じるような素晴らしいことばかりではない。
そこであえて、日本のことをよく知る在日外国人に、本音ベースで日本について聞いてみることにした。ある程度、日本と付き合いが長い日本に暮らす外国人らに、客観的に、日本の嫌いなところ、つまりネガティブな要素を聞いてみた。

外国人が感じる「日本のダメなところ」を知っておく必要性

日本の少子高齢化は深刻で、今後も人口減を食い止める術はない。生産年齢人口(15〜64歳)は、2050年には、2021年から29%減となる5275万人になり、日本経済なども縮小していく運命にある。
岸田文雄首相も、そんな日本では移民を受けるのが不可避であり、「外国人と共生する社会を考えていかなければならない」と主張している。そして2024年3月に、人手不足の分野を中心に今後5年で外国人労働者82万人を受け入れると閣議決定している。
つまり、これから中長期的に日本で暮らす外国人が増える。そこで、彼らが感じるであろう日本のダメなところを知っておくのも日本人としては必要なことではないだろうか。
まず、誤解なきよう言っておくが、今回取材に応じてくれた外国人たちは、皆日本の食事や文化が大好きな人たちだ。だからこそ日本に暮らしていて、長く日本人と正面から向き合ってきている。「日本がいやなら帰れ!」と短絡的に言うのではなく、彼らの率直な声を知ってもらいたい。

アメリカ人男性「日本に住むことで、腑抜けた人間になってしまうリスク」

まず30年以上日本に暮らしてきたアメリカ人に単刀直入に聞いた。「あなたは日本の何が嫌いか」と。
この男性はまず、「日本に住むというのは、他の国で感じるような不安や恐怖、心配事とは無縁で暮らせることを意味する。凶悪犯罪もめったにないし、夜中にうっかり行ってはいけない地域に入ってしまう心配をしなくていい。カフェで注文を取りに行くときに、ノートパソコンをテーブルの上に置きっぱなしにもできる」と褒めた一方で、「日本に住むことで起きる問題の1つは、日本での生活に慣れてしまうと、外国に帰国したり訪れるときに、大人しくて世間知らずで異常なほど性善説を信じる人になってしまい、腑抜けた人間になってしまうという大きなリスクを負うということだ」と語る。
別のアメリカ人男性に同じ質問をすると、「日本には痴漢や、パンティー泥棒の国会議員(自民党の高木毅議員など)のような一風変わった性的な犯罪はけっこうあるな。それは明らかにネガティブ要素だろう」と語る。
このアメリカ人はさらにこう言う。「日本の住宅は一般的に質が低い。断熱材をがっつり使うことが一般的でないため、冬にマンションの中で凍えそうなくらい寒い」と言う。またこの男性は、日本の仕事文化にも不満を持ち、「威圧的な労働文化に対する私の忍耐は、年を追うごとに弱まっていくのが分かる」と語っている。
つまり、よく言われることだが、日本の企業文化は形式ばっていて、表面的に折り目正しく見せ、体裁を取り繕うことが重要視されており、このアメリカ人男性は日本のビジネス文化に疲れきっているという。「あとは物事の決定に時間がかかる」とも付け加える。

「日本は素晴らしい!」と言うことを日本人から期待されているのに気が付く

ビジネス文化については、10年近く日本に住んでいるシンガポール人女性も同様のことを言っている。「3時間も4時間も会議が続いて、みんな黙ってしまって、結論が出ないのは耐えられない」と言い、逆に、「日本人の多くは、自分がどう感じているかを述べたり、理屈を説明したり、意見がどう違うかを議論したりしたがらず、そういう状況を作らないように取り繕う傾向がある。だけど、そういう状況がいつも誤解を招いてトラブルの原因になっている」と指摘する。
日本在住3年のフランス出身の女性は、「日本人の若い女性が着ている、アニメのような、いかにもかわいい服装はほほ笑ましいし、日本らしいところではあるけど……」と言って、こう続ける。「最近、外国人のオタクっぽい男性がたくさん日本を訪れていて、彼らがかわいい服装の日本人女性らを電車などで気持ち悪くじろじろ見ているのに気付く。女性たちは大人しそうに見えるので『気をつけて!』と言いたくなる」と説明する。
日本のビジネス文化については、「行間を読む必要があって、それが面倒だ。空気を読む相手が率直に語らないせいで、私としては、自分が間違ったことを言ったのか、やったのか、相手を怒らせたのか、よく分からないことがある」と困惑しているようだ。
さらに、別のアメリカ人男性に「日本の嫌いなところは?」と聞くとこう答えた。
「一番嫌いなことは、日本では、ただ暮らしているだけではいけないということだと思う。実際、日本に住んでいる間は、常に日本での生活についてポジティブに語らなければいけなくて、『日本は素晴らしい!』と言うことを日本人から期待されているのに気が付く。まるでカルト宗教にとらわれているのと似ているな」と。

警察による対応や扱いで、多くの外国人が感じる「差別意識」

また多くの外国人の間で共通している日本のネガティブな側面は、警察などによる外国人に対する扱いだ。話を聞いた外国人のほとんどが、街で見た目が外国人であるということで頻繁に職務質問されたり、ホテルでは在留カードを見せるよう要求され、しかもコピーまで取られることに辟易していた。
外国人の間で、警察の評判はあまり良くない。あるイギリス人は、「例えば、外国人が警察から定期的に嫌がらせを受けていることを、ほとんどの日本人は知らないだろうね。警察のやり方は100%ひどい! 私は警官に、一緒に歩いていた娘が手に持っていたディズニーの傘の中にナイフでも隠し持っているのではないかと質問された経験がある」と主張する。日本に暮らす外国人の多くは、こうした職質エピソードの1つや2つは持っている。
ホテルでも、何年日本に住んでいても、日本語でチェックインしても、見た目が日本人と違うというだけで「在留カードを出してください」と言われることにうんざりしている外国人は少なくない。
確かに、筆者は海外に暮らしていたし、取材で海外に行くことは多いが、明らかにアジア人の見た目であっても、街を歩いていて職務質問をされたことは一度もないし、ホテルでパスポートのコピーを取られたこともない。もっとも、日本人の間では、そういう警察やホテルの行動が日本の安全な治安に寄与しているのだという声もあるのだが……。
警察もホテルマンも、おそらく差別の意識はないだろう。外国人なら職質しやすいのだろうし、ホテルマンも何も考えずに会社から指示されているから身分証の代わりとして在留カードの提示を求めているだけだろう。だが外国人がそこに差別を感じていることは事実。それを分かった上で、それなりの対応の仕方もあるだろう。

「日本人は、外国人の人種や肌の色によって差別をする傾向がある」

前出のシンガポール人は、「日本は外国人を歓迎していないように見える。外交政策はかなり保守的。入国管理規則は外国人には不透明。でも触れ合ってみると、多くの日本人は外国人と交流するのが好きだと感じる。日本人は寛容で、時には文化的あるいは言語的な制約があることを理解し、助けてくれる傾向がある」とも言う。今回の取材では、日本人のネガティブな側面を聞いても、ポジティブな面も一緒に出てきてしまうという現象が何度もあった。
欧州のある国の大使館に属していた在日外国人は、こんな経験を語ってくれた。この人は日系人なので外国人に見られないことも多いが、アジア出身の外国人に対する差別にランクがあると感じている。「日本人は、外国人の人種や肌の色によって差別をする傾向がある。一般的に、白人の欧米人には最も好意的で、肌の色が黒いとそうでもない。外国人がアジア人の場合は、さらに複雑になり、外国人に『序列』をつけている」と話す。そして、「中国人や東南アジア系を下に見ている傾向がある」と指摘する。
1990年代から日本に暮らしているオーストラリア人男性も日本人に差別的なところがあるのは間違いないが、まるでその自覚もないようだと言う。「1990年代に大学院生として初めて日本に来たが、当時の大学での歓迎会を思い出す。ビュッフェやビールが置かれたテーブルがいくつかある歓迎会だったが、乾杯が始まると、日本人の参加者の大半が、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ドイツなどの欧米人大学院生がいるテーブルの周りに集まっていた。東南アジアやアフリカから来た大学院生(1人は民族衣装を着ていた)がいるテーブルには日本人はほぼ集まらなかったので驚いた」
前出の在日歴30年の男性は日本のメディアにも責任の一端があるとして、こう述べる。「日本では、外国人は外国人であることを理由に簡単に住居を拒否される。また、日本のメディアは常に外国人を犯罪の元凶として不当に描いていると感じている。もちろんアメリカなんかも、多くのアジア人をいろいろな意味で差別しているけどね」
これからも日本に暮らす外国人は増え続けるだろう。そろそろポジティブな面だけでなく、ネガティブな面も含め、彼らの話にも耳を傾けて付き合い方も真剣に考えなければいけない次元に来ているのかもしれない。
この記事の筆者:山田 敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチン習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。
X(旧Twitter): @yamadajour、公式YouTube「スパイチャンネル」
(文:山田 敏弘)

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