だから喫煙者でも100歳まで生きる…医師・和田秀樹が悟った「医学でできること、できないこと」の決定的違い

2024年2月5日(月)15時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Panksvatouny

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医学は何をどこまで変えられるだろうか。医師の和田秀樹さんは「健康的な生活を送っていても早死にする人がいる一方、タバコをスパスパ吸い100歳まで生きる人がいるのは多くの人が知る事実だ。医学というのは多少の助けになっても、残念ながら体質や運命のようなものには勝てない。寿命や病気には宿命のようなものがあるような気がしてならない」という——。

※本稿は、和田秀樹『老いたら好きに生きる』(毎日新聞出版)の一部を再編集したものです。


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■栄養はむしろ多めのほうが健康にも長寿にもつながる


血液検査の結果を気にする人がいますが、注意すべきは血液検査の数値より結果として起こる動脈硬化です。


血液検査が正常でも、ひどい動脈硬化が起こって心筋梗塞で倒れる人もいれば、検査の結果がかなりの異常値でも動脈硬化が軽い人もいます。


心臓ドックなどで冠動脈の狭窄(きょうさく)が見つかれば、そこをステントと呼ばれる管のようなものなどで広げることができます。そのほうが心筋梗塞の予防としては確実です。脳ドックでも脳の動脈瘤の早期発見ができますし、くも膜下出血の予防対策がある程度できます。


私が血液検査の結果にこだわることをすすめないもう一つの理由は、年をとるほど低栄養の害が大きくなり、栄養(サプリメント等で摂る微量元素も含む)はむしろ多めのほうが健康にも長寿にもつながるからです。


実際、低血糖や低血圧、低ナトリウム血症(塩分を控えすぎると起こる)は意識障害の原因になります。


繰り返しになりますが、私はこれが高齢者の逆走運転や暴走運転につながっていると推測しています。事故を起こしたのが普段は危険な運転をしない人ならば、意識が朦朧としている可能性が十分考えられるからです。


■検査結果より気をつけたい臓器別診療の弊害


また、日本の医療は「臓器別診療」が基本です。つまり、各々の臓器を診断して、それに特化して治療をするスタイルです。臓器別診療を一概に悪いとはいえませんが、80歳を過ぎた高齢者にとっては、よくない方向に進むことが多いと私は思っています。


たとえば、心筋梗塞や脳梗塞の予防のため、循環器内科の医師は、コレステロール値を下げるよう指導します。しかし、コレステロール値を下げれば、免疫機能が低下し、感染症にかかったり、がんにかかりやすくなったりします。


つまり、ある臓器だけを治療しても、ほかの面に支障が出てしまうことが起こりやすいのです。年をとれば臓器の機能は全体的に低下しますので、ひとつの臓器だけを治療すればいいというわけではないのです。


ひとつの臓器を治療した結果、トータルでは不健康になったということもあり得るのです。


臓器別診療は、不要な薬を増やしてしまうという弊害もあります。専門科それぞれで薬を処方され、気づいたら10種類以上にもなっていたなどということがよく起こります。多量の薬を飲み続けることが体にいいわけがありません。


写真=iStock.com/ururu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ururu

高齢になるほど多剤併用の害は大きくなります。何に効くかわからないけれど、病院で処方されたから飲み続けているという薬は、一度見直すことが必要です。


頭が痛いなら頭痛薬を飲む、胃がもたれるから消化剤を飲むなど、具合が悪いときに必要なものだけ飲む、こちらのほうが害が少ないし、体調もよくなることでしょう。


■80歳を過ぎたら健診をやめて心臓ドックを


年をとったら動脈硬化は必ず起こるので、むしろ血圧や血糖値、コレステロール値は高いほうがいいと私は考えていますが、それでは動脈硬化がもっと進むのではないかと心配される人もいるかもしれません。


確かに加齢であれ、高血圧であれ動脈硬化を進めます。ただ、動脈硬化がまずいのは、その後の病気につながるからです。


その中でもっとも怖く、命を奪う病気が心筋梗塞です。心臓に栄養を送る冠動脈に動脈硬化が起こり、それが詰まってしまうと、心臓に酸素や栄養がいかない部分が生じます。これが心筋梗塞です。その範囲が広いと死につながります。


ただ、医学の進歩でこの冠動脈の状態がカテーテル(細い管)を入れなくてもCT(コンピュータ断層撮影)などの画像診断で見られるようになりました。


このような心臓の状態を確認する一連の検査が心臓ドックといわれるものです。ここで冠動脈の狭窄を見つければバルーンカテーテルを使って広げたり、ステントを入れたりすることで閉塞(へいそく)を予防し、心筋梗塞による突然死を避けられるのです。


これは突然死の別の理由である大動脈解離も発見できます。検査データが正常でも冠動脈の狭窄は起こり得るので、検査データに一喜一憂するより心臓ドックを受けるほうが賢明だと思います。


また、日本はこの血管内治療では世界のトップレベルなのも福音です。


■脳ドックをするなら事前の情報収集が必須


脳ドックは一般的に認知症の予防のためとされていますが、早期発見しても有効な治療薬はほとんどありませんし、認知症のあるなしにかかわらず、脳を使うのが老化予防になりますので、その観点からはあまり期待できません。


ただ、MRI(磁気共鳴画像)で脳の血管の状態を調べられますので、脳動脈瘤を見つけることはできます。これも多くの場合、破裂の予防措置ができるので、くも膜下出血を避けられます。


突然死を避けたいなら、一緒に受ける価値があるでしょう。ただし、これは上手(うま)い下手の差が大きいので、事前の情報収集は必須です。


それ以外の健康診断は、高齢者に害があることが多いように思います。


ひとつは、いろいろな数値に異常があると薬が出されることが多いのですが、高齢者は異常値がいくつも出ることが少なくないので、薬の種類が多くなってしまうことです。


各種調査で、薬の種類が5〜6種類以上になると副作用が現れやすくなり、転倒のリスクが増えるとされています。


■正常値に戻すことによる弊害


また、各種数値を正常値に下げることが、体調の悪さにつながり、意識障害につながりかねないということがあります。


年をとれば誰でも動脈硬化が起こるのですが、血液の通るところが狭くなり、血管の壁が厚くなるので、血圧や血糖値がある程度高くならないと、脳に十分な酸素やブドウ糖が行き渡らなくなります。


そうすると、体がだるくなったり、頭がボンヤリしたりします。とくに運転をする際には危険な事故を招きかねません。


写真=iStock.com/banabana-san
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また、前述のコレステロールのように、循環器には悪い働きをするけれど、免疫機能やホルモン医学的には良い働きをするものもあります。


薬を使わなくても、正常値に戻すためにお酒や甘いもの、塩分などを制限することになると残りの人生が味気ないものとなり、結果的に免疫機能が下がってがんになりやすくなるということも、知っておいていいでしょう。


■エビデンスがないのに医者が患者に薬を強制する日本


医学の世界で30年以上(日本では1990年代後半以降)トレンドになっているものにEBMというものがあります。


これは「Evidence-Based Medicine」の頭文字をとったもので、「(科学的)根拠に基づいた医療」とよく訳されています。


たとえば、血圧の薬を飲んで血圧を下げることは可能ですが、その結果、実際に脳卒中や心筋梗塞を防ぎ、どの程度、死亡率を下げたかを知ることが大切ですし、その根拠を求めたうえでの医療を行うべきだという考え方です。


血圧については、アメリカにかなりよく知られる大規模調査のデータがあります。70歳で最高血圧が160mmHgの人についてのものですが、降圧剤を飲まなかった群は6年後に10%の人が脳卒中になりましたが、降圧剤を飲めばそれが6%に減ったというものです。


これが降圧剤は有効だというエビデンスになります。ちなみに日本では血圧の薬を飲んだり、血糖値を下げる薬を飲んだりした際、何年後にどの病気がどのくらい減ったかという大規模比較調査がほとんどありません。


アメリカでは、エビデンスがない薬には保険会社が金を出してくれません。だから製薬会社が必死になってエビデンスを作る。


ところが、日本ではエビデンスがないのに医者が患者に薬を強制して、大規模比較調査をやっていない状態が放置されているので、膨大な公的医療費の無駄遣いになるのに薬の使用が続けられています。


写真=iStock.com/laymul
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/laymul

■薬を飲まなくても90%の人が脳卒中にならない


日本人とアメリカ人では食生活も疾病構造(アメリカでは死因のトップは心疾患)も違うのに、アメリカのエビデンスがそのまま流用されたりもします。


70歳の人は降圧剤を飲んだほうがいいというエビデンスがある、それが通常の解釈ですが、別の見方もできます。薬を飲まなくても90%の人が(6年間に限ってかもしれませんが)脳卒中にならないのです。


薬を飲んでも飲まなくてもほとんどの人は脳卒中にならないのだとしたら、なってしまったときは運が悪かったと思うことにして、薬を飲まないという選択もあります。薬を飲んで体調が悪くなる人は、元気に過ごすために薬を飲まないと決めてもいいのではないでしょうか。


さらに問題なのは、薬を律義に飲んでいても、その中の6%の人が6年以内に脳卒中になるということです。


要するにいくら医学が進歩しても、自分の運命や体質には勝てないのです。


だから私は日本でもエビデンス、とくに死亡率が下がったかどうかのエビデンスを取るべきだということを主張していますが、それにこだわりすぎる必要もないと思っています。


■医学は体質や運命には勝てない


私が長年、とくに高齢者の臨床を行ってきた経験からひとつ言えることがあるとすれば、医学というのは多少の助けになっても、残念ながら、体質や運命のようなものには勝てないということです。



和田秀樹『老いたら好きに生きる』(毎日新聞出版)

減塩やコレステロールの少ない食事を心がけ、医者の言いつけを守り薬もきちんと飲んでいる人が70代で亡くなることがある一方、タバコをスパスパ吸い、放埓(ほうらつ)な生活をしていても大した病気もせず、100歳まで生きる人がいるのは、多くの人が知る事実です。


また、検査数値もすべて正常で、健康的な生活を送っていても、がんなどで若死にする人が意外に多いのも、医者なら多くの人間が知っていることです。


あるいは、長寿の家系の人はかなり不摂生な生活をしていても長寿なのに、短命の家系の人は相当健康に気を遣っていても短命なことが多い気がします。


遺伝子のようなものを前に、意外に医学は無力なのではないかと痛感させられます。信じたくないことではありますが、寿命や病気には宿命のようなものがあるような気がしてならないのです。


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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)

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