フランスを追い抜き輸入額で第1位に…日本の若者が安くてかわいい「韓国コスメ」に夢中になっている理由

2024年2月9日(金)11時15分 プレジデント社

韓国・ソウル 化粧品売り場(2017年6月ごろ) - 写真=Alamy/アフロ

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日本で韓国コスメが売れている。2022年には韓国からの化粧品の輸入額がフランスを上回って1位になった。なぜそれほど人気なのか。ジャーナリストの金敬哲さんは「韓国コスメは日本製品に比べて値段が安く、トレンドを取り入れる企画力も高い」という——。
写真=Alamy/アフロ
韓国・ソウル 化粧品売り場(2017年6月ごろ) - 写真=Alamy/アフロ

■韓国の化粧品輸出総額は76億ドルに達し世界4位に


韓流コンテンツの世界進出が、韓国製品に「韓流マーケティング」という翼を与えている。映画『パラサイト 半地下の家族』に登場した「チャパゲティ」ラーメンは、日本のラーメンが掌握していた米国や欧州市場で韓国ラーメンの人気を牽引し、ドラマ「愛の不時着」にたびたび登場したフライドチキンチェーン「bb.q オリーブチキンカフェ」は日本を含め世界中で店舗数を拡大している。製品以外にもBTSのミュージックビデオのロケ地は海外観光客の聖地となるなど、コンテンツの人気が韓国経済に与える影響は大きい。


そうした中で特に勢いに乗っているのが化粧品産業だ。日本では2022年に化粧品輸入額で初めて韓国がフランスを抜き、1位に躍り出るほどの急成長を遂げている。その額は775億円に上る。


韓国で化粧品産業が本格的に発展し始めたのは1960年代のこと。歴史こそ長くないが、現在は4500余りのメーカーや3万近いブランドが乱立し、市場規模で世界8位につけるコスメ大国だ。輸出面からみても、日本を抜いて、フランス、米国、ドイツに次ぐ世界4位を占め、2022年の輸出総額は76億ドルに達する(食品医薬品安全処調べ)。


■日本市場での嚆矢は2008年の「BBクリーム」ヒット


韓国化粧品の海外進出は2004年、「MISSHA(ミシャ)」がオーストラリアに店舗をオープンしたことから始まった。MISSHAは2000年にオンラインショップからスタートした後発メーカーだ。「製造原価からみれば化粧品は高価になる理由がない」というポリシーに基づいて低価格商品を売り出し、ブームを巻き起こす。その後、韓国の化粧品市場は低価格全盛時代に突入。リーズナブルかつ高いクオリティを武器に海外に輸出され始めた。そして韓流ブームがこれを後押しする。


2000年代初頭、韓流ドラマがアジアを中心に人気を集めると、「韓国女優が使っている化粧品」のイメージを背景に中国などで大きな反響を得始める。日本で韓国産化粧品を認識させるきっかけとなったBBクリームも、もともとは韓国で2004年に国民的ヒットとなったドラマ「火の鳥」のヒロインである故イ・ウンジュ氏が使用したことで人気に火がついた。


皮膚の手術跡を保護するためにドイツで開発された「欠点カバー用バーム」がもとになっており、すっぴん風に見せながらしっかりと欠点をカバーし、スキンケアや日焼け止め機能も兼ねるオールインワンという使い勝手の良さでヒット。その手軽な使用感と効果に感心した美容家のIKKOさんが日本で紹介し、2008年に「日経トレンディ」(日経BP)が選ぶ「今年のヒット商品」で7位にランクインした。


■わずか5年で日本の輸入額が4倍になった


そして現在、第4次韓流ブームが巻き起こっている日本では再び韓国コスメブームが到来している。韓国の人気美容系YouTuberミン・セロム氏がプロデュースするブランド「rom&nd(ロムアンド)」はその好例だ。


2016年に始まったブランドは2019年に日本上陸。発色の良いリップティントやアイシャドウ等が人気を博し、コスメ好きが注目する各メディアの「ベストコスメ」企画常連となっている。2023年3月にはローソン限定の新ブランド「&nd by rom&nd(アンドバイロムアンド)」を展開し、3日間で在庫30万個が完売して話題となった。


「&nd by rom&nd(アンド バイ ロムアンド)」のイメージ画像 出典=韓国高麗人蔘社/PR TIMESより

KOTRA(大韓貿易投資振興公社)の関係者は、「韓国産化粧品が日本の輸入化粧品市場で占める割合は、2017年まではフランスはもちろん米国や中国にも及ばなかったが、韓国の配信コンテンツが日本で人気を集めることで、韓国産化粧品輸入額が増加し始めたとみられる」と説明する。


出典=日本化粧品工業会

■日本の美容系YouTube動画についたコメントを分析


業界団体の韓国化粧品産業研究院では2020年7月〜2023年6月の約3年で日本の美容系YouTube動画につけられた約30万個のコメントを分析し、日本における韓国コスメのトレンドを算出している。それによると、2022年下半期〜2023年上半期までの「K-beautyトレンド」1位は「ウォニョン・メイク」だった。K-POPガールズグループ・IVEのメンバーで、世界中の女の子たちの憧れの顔として浮上しているウォニョンのメイクを「真似したい」などのコメントが一番多かったという。


同研究院は、「20年前の韓流第1次ブームでは韓国産化粧品が一部の中年女性の間で人気があったが、最近は韓流アイドルの人気に支えられ、MZ世代(1980年代〜2000年代生まれ)を中心に、再び韓国化粧品の人気が高まっている」と分析した。(『グローバル・コスメ・レポート 日本編 2023年 vol2』より)


■潜在需要を読み取ってトレンドをつくるのが得意な韓国企業


韓国化粧品が日本の若い女性に人気を集めているもう一つの理由として、各社の「企画力」が挙げられる。化粧品専門誌「CosMorning」のホ・ガンウ記者は、韓国化粧品企業の強みを次のように説明する。


「製品そのものの品質は日本のほうがまだ一枚上手だが、日本企業は市場の変化や消費者のニーズのキャッチアップが遅い面がある。一方、韓国企業は市場を読み取り、新しい流行を先導する能力に優れている。たとえば、従来の製品を少容量で低価格にした“ミニコスメ”は、韓国だけでなく世界市場で10代を中心に人気が高い。好みがコロコロ変わる若年層の消費性向にあっているからだ。


また、韓国で生まれて世界的ヒットになったBBクリームやクッションファンデーション、シートマスクは、忙しい日常で煩わしい過程を省略できるように複数の機能を盛り込んだ革新性が受けた製品だ。こうしたトレンドを生み出す力が日本の若い消費者に受け入れられているようだ」


写真=iStock.com/moonHo Joe
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/moonHo Joe

これまで中国市場に力を入れてきた韓国の化粧品業界では、本格的な日本進出のために戦略を模索し始めている。AMOREPACIFIC(アモーレパシフィック)やLG生健などの大手ブランドは、日本の消費者の好みに合わせて製品ラインを補強したり販売チャンネルを補強したりするなど、日本市場攻略のための準備に余念がない。


■プチプラだけでなく高級路線も狙う


韓国の女の子たちに「コスメの聖地」と呼ばれるヘルス&ビューティストア「CJオリーブヤング」は、2020年に東京と大阪で自社ブランドのポップアップストアを展開したのを皮切りに、日本へ本格進出。翌2021年に常設店を2店舗出店。2023年12月には日本の女性たちが「コスメの聖地」と呼ぶアットコスメ東京でポップアップストアを展開した。この3年間で自社ブランド製品の日本における売り上げは年平均2倍のペースで増加している。


また、新生ブランドも日本市場を狙った戦略樹立に力を入れている。


韓国最大の医薬品流通企業「ミファーム」が新設した機能性化粧品ブランド「GLINARD(グリナード)」は、高級原料を使用した製品をリーズナブルな価格で販売する戦略で、韓国より先に中国、タイ、オーストラリアなど海外で大きな成功を収めていた。現在は韓流スターマーケティングを通じて今年中に日本進出を目標にしている。


「アンチエイジング効果があるとされる最高級の日本製シルクフィブロインを主原料としながら、韓国の技術力をもとに製品価格を画期的に下げたのが自社の最大の強みだ。現在、日本で人気のある韓国化粧品より価格帯が高いため、デパートへの出店やビューティーインフルエンサーを活用したバイラル・マーケティングを通じて日本市場への進出を図っている。安定性と機能性を重視する日本の消費者から良い評価を得られると確信している」(グリナード代表 イ・ヒョンス氏)


画像提供=グリナード
グリナードの機能性化粧品 - 画像提供=グリナード

■中国ではシェア暴落…課題はブランド価値の向上


ただ、韓国産化粧品が日本で人気を維持するためには、シェアが暴落した中国市場を反面教師にしなければならないという業界の分析がある。中国は日本に先んじて韓国化粧品がブームになったが、最近は国産化粧品の品質向上とともに「愛国消費の熱風」で韓国化粧品のシェアが減り続けている。


「中国では中低価格ブランドは自国産製品が、ハイブランドはフランス製品や日本のSK-IIなどが韓国製品を押し出している。原因はブランドパワーを育てることに失敗したためだ。化粧品は文化商品であるだけに、ブランド価値を高めなければ気まぐれな消費者にそっぽを向かれるというのが中国市場の教訓だろう。


現在、日本で人気を博している韓国産化粧品はほとんどが中低価格ブランドで、言い換えればブランドパワーよりコストパフォーマンスで若年層に選ばれているということ。シェアを維持するためには、流行に敏感な若年層だけでなく、ブランドロイヤルティが強い中年層にも選ばれるようにブランディングに力を入れなければならないだろう」(前出 ホ・ガンウ記者)


ファッション業界紙のWWDが集計した「グローバルビューティー企業トップ100」(2021年基準)に日本企業は13社ランクインしたのに対し、韓国企業は3社のみ。「コスメ大国」という名声に比べ、ブランドパワーが確立されていないという限界を示している。日本国内の韓国化粧品の人気を支えている韓流コンテンツも、いつまで流行が続くかわからない。ブランドパワーで勝負できる戦略を打ち立てることが韓国化粧品業界の目下の課題になるだろう。


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金 敬哲(きむ・きょんちょる)
フリージャーナリスト
韓国ソウル生まれ。淑明女子大学経営学部卒業後、上智大学文学部新聞学科修士課程修了。東京新聞ソウル支局記者を経て現職。著書に『韓国 行き過ぎた資本主義』(講談社現代新書)、『韓国 超ネット社会の闇』(新潮新書)。
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(フリージャーナリスト 金 敬哲)

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