知らないことを「ググる」時代は終わった…仕事が爆速な人は使っている「無料で高性能の検索サービス」の正体

2025年2月10日(月)9時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kenneth Cheung

■独り勝ちだった「米国AI」に立ちはだかる


足許、ソフトバンクグループ(SBG)は、米国のAI先端企業と組んで積極的な投資を行おうとしている。1月21日、同グループはオープンAI、オラクルと共同で“スターゲート計画”を発表した。また、1月下旬、オープンAIへの追加出資〔最大で250億ドル(約3兆8800億円)〕との報道もあった。孫正義会長兼社長は、トランプ政権の政策で米国のAI業界は一段と拡大すると判断しただろう。


その一方、米AI業界の優位性が揺らぎそうな変化も起きた。それは、“ディープシーク”など中国AI業界の発展だ。1月下旬、米国のアプリストアで、ディープシークのアプリダウンロード数はトップになった。ディープシークに続いて、アリババやティックトック(TikTok)親会社の字節跳動(バイトダンス)もAI事業の強化を進めている。その進捗は、大方の専門家の予想を上回っているようだ。いわゆる中華AIは、いずれ先進の米国AI企業の脅威になるとみられる。


写真=iStock.com/Kenneth Cheung
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kenneth Cheung

米国第一主義のトランプ大統領にとって、スターゲート計画の成功は非常に重要だ。ただ、今後、中華AIの成長によっては、スターゲート計画の前提を崩すことも懸念される。今後、米・中を中心に世界的なAI競争が発生する可能性が高い。競争の勝者が、これからの世界経済をリードすることになるだろう。わが国も、その競争の中で存在意義を示す必要がある。


■本格的にAIに参入するソフトバンク


トランプ大統領はAI分野の投資増加を重視している。同氏は規制緩和や法人税率の引き下げを表明した。発電コスト低減のため、化石燃料の増産を奨励する。トランプ氏の政策目的の一つは、“シンギュラリティー(AIが人類の知能を超越する世界)”の実現だ。


一方、SBGは、コロナ禍の発生を挟み業績は一時不安定だった。2022年頃からはテレワーク需要の一巡で半導体市況は軟化し、ITスタートアップ企業の業況も悪化した。業績の立て直しのため、孫氏はリスクテイクを抑制した。2023年9月、英半導体設計企業のアームの株式公開も実現し、中国のアリババに代わる資金創出手段を確保した。2024年7〜9月期には、オープンAIに5億ドル(775億円)を投資しAI分野に本格参入する橋頭堡(きょうとうほ)を築いたといえる。


令和7年2月3日、石破総理は、総理大臣官邸でソフトバンクグループ代表取締役兼社長執行役員の孫正義およびOpenAI社CEOのサム・アルトマン氏と面会(写真=首相官邸ホームページ/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

■「マサ、2000億ドルにできないか」


同グループは、借り入れによる資金調達や、経済のデジタル化を重視する中東投資ファンドからの資金拠出も活用し、SBGはAI時代の本格化を狙った事業計画を立案した。昨年11月の大統領選挙後、孫氏はトランプ氏と会談し、1000億ドル(15.5兆円)規模の計画を共同で発表した。


発表時、トランプ氏は「マサ、2000億ドルにできないか」と冗談交じりに呼びかけた。孫氏は要請に応え中東の投資ファンドなども巻き込んで、総額5000億ドル(78兆円)規模のスターゲート計画を取りまとめた。同計画は数十万人の雇用創出効果を持つとされる。


孫氏は、トランプ政権の発足で“時が来た”と瞬時に投資の機会到来を察知しただろう。現在、世界のAI業界で米国の優位性は高いと考えられる。今日のAIブームをもたらしたのは、2022年11月のチャットGPTの公開だった。AIの学習に必要なGPU分野でエヌビディアは独り勝ちの状態にある。


■「ディープシーク・ショック」の背景にある中国の熱狂


米アンソロピック、インフェクションAI、カナダのコーヒアなどはオープンAIとモデル開発でしのぎを削っている。米AI関連業界の成長を取り込み業績を拡大するため、SBGは米国でのAI事業に多額の投資を表明したのだろう。それがトランプ大統領の政策目的と合致した。


米国内のAI投資の動きに足して、中国のAI関連企業の追い上げも熾烈だ。現在、中国のAI業界は、大手、新興企業が開発を競う“熱狂100モデル戦争”と呼ばれるような状況にある。“ディープシーク・ショック”は、それを象徴する一つの例だ。創業して20カ月のディープシークは、短期間、低コストでAIを開発した。オープンAIに比べ開発費用は10分の1との指摘もある。


今のところ詳細は不明だが、ディープシークは主に“蒸留(Distillation)”と呼ばれるAI学習の手法を使い、オープンAIのデータを不正利用したとの見方もある。第三国経由でエヌビディアのGPUも入手し、チャットGPTやグーグルのAIに匹敵するモデルを開発したと報じられた。


■エヌビディアの時価総額が91兆円吹き飛ぶほど


一部の投資家は、先端のAIチップなしで相応の推論性能を持つモデル開発は可能とみたようだ。そのため、先進のチップ銘柄であるエヌビディア株を売った。その結果、1月27日の米国市場でエヌビディアの時価総額は円ベースで91兆円減少した。


ディープシーク以外にも、中国のAI業界は急成長している。ディープシークが“R1”モデルを公開した2日後、TikTok親会社のバイトダンスは、AIモデル“豆包(Doubao)”の最新バージョンを発表した。昨年10月、世界の月間AI利用者数ランキングで豆包は、チャットGPTに次ぐ第2位だった。夫婦喧嘩の解決方法など、日常生活に利用する人は急増中のようだ。


アリババ傘下のアント・グループは、“支小宝”というAIアプリを提供している。アリペイと連携することで、タクシー配車や飲食の注文、支払いをチャット形式で完結できる。また、1月29日、アリババは、最新版AIモデルの“通義千問(Qwen)2.5 Max”が米メタの“ラマ”、ディープシークのV3を上回る性能を発揮したと発表した。


写真=iStock.com/Khanchit Khirisutchalual
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Khanchit Khirisutchalual

■ビジネス利用がさかんな「通義千問」


通義千問は主にビジネス利用を念頭に置いている。企業間のコミュニケーションの促進やEコマース事業の効率化、新事業計画に必要なデータの分析をサポートする機能を持つ。テンセントやバイドゥ、ファーウェイなどもB2B、B2Cの両方でAI開発を強化している。半導体分野では中国版エヌビディアと呼ばれる“中科寒武紀科技(カンブリコン)”がAIチップ開発に取り組んでいる。


2024年4月、アリババグループの蔡崇信(ジョセフ・ツァイ)会長は「中国のAIは米国企業に2年遅れ」と指摘した。その一方、社会経済へのAI浸透スピードは米国以上との指摘は多い。バイトダンスは、AIビジネスの成長を目指し海外投資を増やす方針だ。


スターゲート計画が中国AI業界との競争に勝つには、さまざまな取り組みが必要になるだろう。まず、汎用型のAIの実現に向けた研究開発と同時に、安全性確保の重要性は高まる。


■過熱していたAI関連銘柄は調整するのか


ディープシークのAIは、安全性への対応が不十分とみられる。オープンAIの経営方針が利益重視に傾く中、SBGが正確性と安全性を重視してモデル開発に取り組む米国内外のAI開発企業と連携する意義は高まるだろう。


米国で開発したAIの海外展開も必要だ。人口が増加しているインド、データ保護の確立に取り組む欧州など、各国のデータ主権管理指針を満たすモデル開発の重要性は高まるはずだ。米国企業の取り組みが遅れると、中国のAIが海外で人気を獲得するリスクは上昇する。


そこで問題になるのは、トランプ氏が他国との政策連携を好まないことだろう。SBGの孫氏は、多額投資でトランプ氏の機嫌をとったといえる。ただ、今後のAI開発競争の中で、SBGが有利な立場でいられる保証はない。これからは、AI開発競争の趨勢を見ながら、迅速に情勢を判断することが求められるはずだ。


世界的な株価の変動リスクにも対応が必要だろう。現在、主要投資家はエヌビディアの成長期待は高いと考えているが、先行きは不確実になりつつある。エヌビディアの“ブラックウェル”の歩留まりが高まらない、あるいはTSMCの微細化が遅れる可能性は排除できない。


そうしたリスク要因が顕在化しエヌビディアの成長期待が低下すると、AI関連銘柄の株価は世界的に調整することになるだろう。株価や為替など金融市場の変動リスクの高まりも、世界的なAI開発競争の行方に重要な影響を与えるはずだ。これからも世界的なAI企業の動きから目が離せない。


----------
真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。
----------


(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

プレジデント社

「時代」をもっと詳しく

「時代」のニュース

「時代」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ