これまで幸福度が最低だった中年層よりひどい…最新研究で分かった「今、急速に幸福度が悪化している年齢層」
2025年2月21日(金)9時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hakase_
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■年齢と幸福度の関係はU字型
「幸せな人生を送りたい」
こう願うのは私たち人間の自然な欲求です。この願いを叶えるためにも、これまで数多くの研究者が幸せの決定要因について分析を行ってきました。この中でも、多くの研究者の注目を集めてきたのが年齢と幸せの関係です。
「えっ! 幸せの度合いって各個人でだいたい決まっていて、年齢によってそんなに変わらないんじゃないの?」と思われる方も多いかもしれません。しかし、これまで600ほどの学術研究による分析の結果、年齢によって私たちの幸福度が変化することがわかっています。
具体的な研究結果を見ると、①年齢によって幸福度の水準が変化する、②その関係はU字型のような形状になる、③年齢と幸福度のU字型の関係は世界各国で見られる現象である、という点が明らかになっています。
この年齢と幸福度の関係は日本を含めた多くの研究で指摘されていることもあり、幸福度の重要な1つの特徴として捉えられてきました。
しかし、最新の研究によって、年齢と幸福度の関係に変化が生じることがわかってきました。
結論を先取りすれば、今幸福度が最も低くなっているのは、2017年以降に18〜25歳となった若年層です。これにはいわゆるZ世代も含まれています。
今回は年齢と幸福度に関する最新の研究を詳しく紹介したいと思います。
■幸福度が最も低くなるのは48.3歳
年齢と幸福度の関係について精力的な研究を行っているのは、ダートマス大学のデビッド・ブランチフラワー教授です。
彼の研究によって、幸福度と年齢の関係は一定ではなく、U字型になっていることが指摘されてきました(*1)。幸福度は若年層の時に高く、中年になるにつれて低下し、高齢層になると再び上昇するといった動きをするわけです(図表1)。
この年齢と幸福度のU字型の関係は、先進国のみならず、発展途上国を含んだ世界145カ国で確認されており、地域や文化を問わず見られる傾向だとわかっていました(*1)。
さらに、ブランチフラワー教授は世界145カ国のデータから最も幸福度の低くなる年齢を算出しています。その年齢とは48.3歳であり、まさにミッドライフクライシスと言われる中年期に幸福度が最も低くなっていたのです。
■中年期に幸福度が低下する2つの理由
中年期に幸福度が大きく低下する理由として、主に次の2つの要因が指摘されています。
1つ目は、40代から50代にかけて理想と現実のギャップに苛まれ、幸福度が低下してしまうという説です。
若年期に思い描いた「大人の自分の姿」が中年期に現実になるわけですが、思い描いた理想と現実のギャップに直面した場合、「こんなはずじゃなかった」と打ちひしがれてしまうわけです。
2つ目の理由として、50歳前後で親の介護と子育ての二重の負担がのしかかり、幸福度を低下させるという説があります(*2)。
50歳前後になると親も高齢で介護が本格的に必要となる場合が増えてきます。また、子どもがいればちょうど大学進学の時期と重なり、金銭的な負担もピークとなります。これらの負担が重くのしかかり、幸福度を低下させるわけです。
また、仕事面では中間管理職として働く時期であり、仕事の責任もストレスの原因となります。日本の場合、『賃金構造基本統計調査』が示すように、直近の十年間で課長以上の管理職になれる比率が徐々に低下しているため、そもそも管理職になれない場合も増えています。管理職になったらそれはそれで大変なのですが、なれない場合はより大きなストレスとなるでしょう。
このように仕事面でもストレスが多い時期であり、幸福度が低下する原因になっていると考えられます。
■若年層の幸福度が急速に悪化
年齢と幸福度の関係はU字型であり、幸福度が最も低くなるのは40代後半であるという結果は、数多くの研究で指摘されてきたこともあり、いわば「通説」でした。
しかし、この関係が崩れてきたことを指摘する研究が2024年に発表されたのです。
この分析を行ったのは、先ほどのブランチフラワー教授とユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのアレックス・ブライソン教授です(*3)。
彼らの研究によれば、2017年以降、18〜25歳の若年層の幸福度が急激に悪化し、これまで幸福度が最も低かった40代後半よりも幸福度が低くなっていることがわかりました。この結果として、U字型の関係が崩れたというわけです。なお、彼らはこの点をアメリカのBehavioral Risk Factor Surveillance System(BRFSS)という40万人以上を調査したデータから導き出しています。
■幸福度のU字型が崩れた
これまで幸福度が高い層として認識されてきた若年層の幸福度の急速な悪化は、ショッキングだと言えるでしょう。
年齢と幸福度のU字型の関係は、世代(いつ生まれたのか)に関わらず見られた傾向であったわけですが、近年の若年層はこれまでとは違う状況に直面している可能性があります。
また、今後この若年層が加齢したときに幸福度がどう変化するのかという点は興味深いポイントです。もしかすると、中年期に向けて幸福度がさらに低下する可能性があり、そうなれば図表1より下の水準でU字型を描くことになります。この点については今後の動向を見ていく必要があるでしょう。
■若者の絶望感が上昇している
ブランチフラワー教授らはBRFSSのデータを用い、若年層の絶望感がどのように変化したのかも検証しています。ちなみに絶望感とは、「過去30日間のうち、メンタルヘルスが悪かった日は何日ありましたか?」という質問に対して、「30日全部」と回答した割合で計測しています。
この結果を見ると、アメリカの25歳以下の若者の絶望感が2015年以降に上昇していることがわかりました。2009年時点で若年男性の絶望感の割合は3.0%だったのですが、2022年には7.3%へと増加しています。また、同期間において、若年女性の絶望感の割合は5.6%から10.6%へと増えていました。若年女性の変化は特に大きく、2倍近く絶望感を持つ割合が増えています。
ちなみにこの間、中年層の絶望感も増加していました。中年男性の絶望感は4.5%から6.8%へと上昇し、中年女性の絶望感は6.0%から8.6%へと上昇していました。ただ、その増加は若年層よりも大きくなかったため、今アメリカで最も高い絶望感を持つのは、25歳以下の若者、特に女性となっています。
■アメリカ以外でも急激に若年層のメンタルヘルスが悪化
ブランチフラワー教授らは若年層のメンタルヘルスの悪化がアメリカ以外の国でも見られるのかという点も検証しています。
その分析結果を見ると、イギリスでも若年層のメンタルヘルスが悪化し、全年齢層の中で最もメンタルヘルスが悪化していることがわかりました。
さらに、ブランチフラワー教授らは、Global Mind Projectが提供する2020年から2024年のデータを活用し、先進国だけでなく、発展途上国も含めた34カ国の状況についても分析しています。その結果から、やはり近年、全年齢層の中でも若年層のメンタルヘルスが最も悪化していることがわかりました(*4)。
この点をもう少し具体的に見たのが図表2です。この図は、Global Mind Projectで調査されているメンタルヘルスの指標のMental Health Quotient(MHQ)の分析結果を示しています(*4)。図表の値は、ブランチフラワー教授らの論文に掲載されたもので、メンタルヘルスが悪い状態の割合を年齢別に示しています。
これを見ると、フランス、ドイツ、ヨルダン、モロッコ、アルジェリアのすべての国で、24歳以下のメンタルヘルスが最も悪い状態にあることがわかります。
以上の結果から、世界的に見て、今メンタルヘルスに問題を抱え、幸福度が最も低くなるのは、若年層だと言えるでしょう。
■若年層のメンタルヘルスが悪化している原因
なぜ若年層ほど近年メンタルヘルスが悪化しているでしょうか。この点についてブランチフラワー教授らは3つの理由を指摘しています。
まず1つ目は、2009年に発生したリーマンショックの影響をまだ引きずっており、若年層を取り巻く雇用環境が悪かったことが影響している可能性です。
2つ目は、スマートフォンの普及とともに、急速に若年層に利用者が増えたソーシャルメディアの影響です。フェイスブック等に代表されるソーシャルメディアは、人々のつながりを広めた半面、自分よりも豊かな人々の生活も簡単に見ることができるようになりました。これによって、自分の現状の生活に対する満足感が下がり、メンタルヘルスの悪化につながった可能性があります。近年、若年層のソーシャルメディアの利用を禁止する国や地域も出てきている点を考えると、この可能性も無視できないでしょう。
3つ目は、新型コロナウイルスの影響です。コロナウイルスによって私たちの生活は大きな被害を受け、他者との直接的な交流や行動に大きな制限がかかりました。若年層にとってこの影響は大きく、メンタルヘルスの悪化につながった恐れがあります。
■日本でも同じ傾向が存在する可能性あり
世界的に見て、Z世代を含む若年層のメンタルヘルスの悪化と幸福度の低下が確認されていますが、日本ではどうなのでしょうか。
残念ながら詳細な研究はまだ存在していません。しかし、若年層のメンタルヘルスや自殺者数の統計を見ると、日本でも同じ傾向が存在している可能性があります。この点についてはまた別の記事で詳しく見ていきたいと思います。
〈参考文献〉
(*1)Blanchflower, D.G. (2021) Is happiness U-shaped everywhere? Age and subjective well-being in 145 countries. Journal of Population Economics, 34, 575–624.
(*2)Graham, C., & Ruiz Pozuelo, J. (2017). Happiness, stress, and age: how the U curve varies across people and places. Journal of Population Economics, 30, 225–264
(*3)Blanchflower, D. G., & Bryson, A.(2024) The Global Loss of the U-Shaped Curve of Happiness. Global Interdependence Center.
(*4)Blanchflower, D. G., Oswald, A. J., & Xu, X.(2024)The Declining Mental Health of the Young and The Global Disappearance of the Hump Shape in Age in Unhappiness. NBER Working Paper No. 32337.
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佐藤 一磨(さとう・かずま)
拓殖大学政経学部教授
1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。
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(拓殖大学政経学部教授 佐藤 一磨)