気づいたら「ふるさと納税のワンストップ特例」から外れていた…会社員でも油断禁物"確定申告の落とし穴"
2025年2月28日(金)8時15分 プレジデント社
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yusuke Ide
※この連載「高山一恵のお金の細道」では、高山さんの元に寄せられた相談内容を基に、お金との付き合い方をレクチャーしていきます。相談者のプライバシーに考慮して、事実関係の一部を変更しています。あらかじめご了承ください。
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■確定申告の「落とし穴」
今年もこの季節がやってきました。そう、「確定申告」です。会社員で確定申告をしている方は約3割という調査結果(東証マネ部!「確定申告はしていますか?」2022年2月12日)もありますが、ふるさと納税や医療費控除といった還付・控除を受けるために申告している方や、副業で確定申告をしている方もいますよね。
今回は、そんな確定申告における“落とし穴”を紹介。さまざまな制度を活用することで節税につながる一方、情報を見落とすと逆に損をしてしまう可能性も……。そんなトホホ体験をしてしまった方の実体験から、学んでいきましょう。
■医療費控除の申告忘れで約60万円が消えた
では早速、ケース1「医療費控除の申告忘れ」。都内で勤務する会社員の大月さん(仮名)は、20代後半で年収1000万円オーバーという高所得者。ただ、仕事柄ハードワーク続きで、最近は体調を崩しがちになっていました。特にここ数年は毎年のように入院するほどの大病を患ったことや、歯科矯正をはじめたこともあり、医療費が年間100万円を超える年もあったそうです。
大月さんの所得税率は約23%なので、年間100万円分の医療費控除を申告した場合、約21万円が戻ってくる計算……なのですが、彼女はなんと、一度も医療費控除の申告をしたことがありませんでした。というより、「“医療費控除”ってなんですか?」状態でした。
とはいえ、大月さんのようなケースは決して珍しくなく、むしろ私的には、“高所得者×ハードワーカーあるある”とすら思っております。日々忙しい彼・彼女らは確定申告について知識を深める時間がないことに加え、節税意識を持たなくてもやっていけてしまう年収ということもあり、基本的な確定申告の知識を持っていない&持たずとも済んでしまったのでしょう。
大月さんには、「これまで医療費控除の申告をしていたら合計60万くらいは戻ってきていたはず」とお伝えし、その重要性を認識してもらいました。
■「ワンストップ特例」の注意点
続いて、ケース2「“ふるさと納税ワンストップ特例”の落とし穴」です。ケース2は難易度が高く、うっかりすると誰でもこの落とし穴に落ちてしまいますので、ふるさと納税を利用している方はぜひご確認を。
まず、「ふるさと納税ワンストップ特例」とはなんぞや、から。以前はふるさと納税で寄付金控除を受けるためには確定申告が必要だったのですが、2015年4月1日から、1年間に寄付した自治体が5自治体までの場合、「ふるさと納税ワンストップ特例」を使えば確定申告せずとも寄付金控除が可能となりました。その利便性から、今ではふるさと納税利用者の過半数がこのワンストップ特例を使うようになっています(ニッセイ基礎研究所「ふるさと納税の新たな懸念 ワンストップ特例利用増加で浮上する課題」2024年12月6日)。しかし、この便利な特例にも落とし穴がありまして……。
写真=iStock.com/show999
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■確定申告をするとワンストップ特例から外れてしまう
30代会社員・藤倉さん(仮名)はふるさと納税を毎年行っていて、ワンストップ特例も導入直後から申請するなど、お金への興味・関心の高い方でした。そんな藤倉さんが、「ふるさと納税の寄付金控除を申告したはずなのに、反映されてないんです」と、住民税の通知書を見せてくれました。さらに藤倉さんからいろいろと話を聞いてみると、その年、医療費控除があったことで確定申告をしていたことがわかりました。
実は、ふるさと納税でワンストップ特例を申請している人が確定申告をした場合、このワンストップ特例が外れてしまうため、ふるさと納税の寄付金控除も一緒に確定申告しなければいけなかったのです。これはまさに落とし穴。
ワンストップ特例をきっかけにふるさと納税を始めた人や、医療費控除を受けたことのない人は、気づかないままの可能性もあります。ふるさと納税をしているすべての方には、この藤倉さんの失敗を教訓にしていただきたいと思います。
■医療費控除がふるさと納税の控除限度額に影響
ケース3もふるさと納税に関する落とし穴で、「上限額で失敗」の例をお伝えします。年収900万円の会社員・須藤さん(仮名/50代)は、一昨年からふるさと納税をはじめました。その際、須藤さんは、ふるさと納税のサイトにあった簡易シミュレーションで控除額の上限(限度額)を調べ、約15万円までなら控除が受けられることを確認。控除額の上限となる約15万円分をきっちり使って寄付金控除を受けようとしたのですが……。翌年の6月、住民税決定通知書を見てみると、寄付金控除で自己負担額は2000円で済むはずが、なぜか4万円も負担することが判明。
きちんとシミュレーションまでしたはずなのに、どうしてなのでしょうか? 話を聞いてみると、その年、夫婦でインプラント治療をしたことで、医療費控除の申告額が120万円を超えていたことがわかりました。これが、ふるさと納税の控除上限額に影響していたのです。
写真=iStock.com/Promo_Link
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■「簡易シミュレーション」には要注意
仕組みを説明すると、医療費控除の申告をすると課税所得が減少するため、これに伴い、ふるさと納税の限度額も減少していた、ということになります。同じことがiDeCoにも当てはまるので、医療費控除やiDeCoを行っている方は、ふるさと納税の控除上限額に注意が必要です。さらに住宅ローン控除も多少ですが、控除の限度額に影響があります。
非常にややこしい話かと思いますが、ざっくりまとめると、ふるさと納税は限度額いっぱいまで使わず、余裕を持たせておくことが大切、ということです。特に、いつ病気やケガをするかは予測できませんから、ふるさと納税を続ける以上、常に医療費控除分も念頭に入れておくことが必要でしょう。また、須藤さんの場合、簡易シミュレーションで算出していたことも、落とし穴に引っかかってしまった要因と言えます。ふるさと納税のサイトには詳細シミュレーション版もあるので、医療費控除やiDeCo、住宅ローン控除等と合わせて総合的に限度額を見極めておくといいと思います。
節税効果をねらってふるさと納税を利用している人は多いですが(※厳密には、ふるさと納税には節税効果はない)、一方で、2000円の自己負担額で収まっている人は意外と少ない、という話を聞いたことがあります。また、税制は毎年のように変更があるので、情報をアップデートし続けることも大切なポイントです。
■会社員が確定申告について学ぶ機会はほぼない
さまざまな“落とし穴”を書いてきましたが、特に会社員の方の場合、確定申告のやり方を教わる機会がほぼない、という状況にまず問題があるのではないでしょうか。ケース1の大月さんは大企業に勤務されていますが、確定申告や源泉徴収票の見方について学ぶ機会がなかったことを嘆いていました。逆に言うと、ケース3で取り上げた「医療費控除がふるさと納税の上限金額に影響を及ぼす」ことを知っている方は、かなりお金に関するリテラシーが高いと思いますが、正直、そこまで把握されている方はごく稀、という印象です。
ふるさと納税やiDeCoなどのお得な点や節税といったメリットを最大限に享受するためにも、確定申告を機に“税”について学んでみるのはいかがでしょうか。
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高山 一恵(たかやま・かずえ)
Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士
慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演・執筆活動・相談業務を行い女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。著書は『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年前後のお金の強化書』(きんざい)など多数。FP Cafe運営者。
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(Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士 高山 一恵 構成=小泉なつみ)