なぜ本当の富裕層はタワマンに住まないのか…お金の達人が実践する「理想の生活」の意外な中身

2024年2月29日(木)9時15分 プレジデント社

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人生を幸せに過ごすためには、どのようにお金を使えばいいのか。『あやうく、未来に不幸にされるとこだった』(東洋経済新報社)より一部を紹介する——。
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■「2000万円足りない」はウソだった?


「2000万円足りない」という金融庁のレポートが、2年後には「40万円余る」という内容に更新されました。この出来事こそ「未来の予測がいかに不確かでコロコロと変わるか」を教えてくれる、わかりやすい例でしょう。「過剰に心配してもしょうがない」という私の助言にも、納得いただけるはずです。


2000万円問題を深掘りするのは本書の目的ではありませんが、ひとり歩きしてしまった「2000万円足りない」という映画にまでなった言葉に不安をつのらせた方もいるでしょうから、少しだけ取り上げてみたいと思います。


「足りない」とされた2000万円の根拠とは、いったい何だったのでしょうか。


2019年夏。「老後資金2000万円が不足する」という金融庁のレポートが公表されて、日本中に大きな反響を呼びました。


その「2000万円足りない」という試算の根拠は、総務省による2017年の家計調査です。計算式は次の通りです。


【「2000万円足りない」の根拠】
全国の高齢者世帯の毎月の平均収入……約21万円
全国の高齢者世帯の毎月の平均支出……約26万5000円
収支……約26万5000円−約21万円=約5万5000円
つまり約5万5000円の赤字
赤字が30年間続いた場合……約5万5000円×12カ月×30年=1980万円
つまり約1980万円の赤字

■なぜ40万円が余ることになったのか


したがって公的年金を収入の軸にした場合は、30年間で約2000万円不足する、というわけです。この「2000万円」という金額の大きさに、多くの人々が驚き、各方面で話題となりました。


では、いったいなぜ、2年後には「40万円余る」ことになったのでしょうか。まず、最新の2020年総務省家計調査を見てみましょう。


【「40万円余る」の根拠】
それによると、高齢者夫婦で無職の平均的な世帯の収支は毎月約1110円の黒字となっています。


夫婦合わせての収入……25万6660円(年金21万9976円を含む)
夫婦合わせての支出……25万5550円
収支……収入・約25万6660円−支出・25万5550円=1110円
黒字が30年間続いた場合……約1110円×12カ月×30年=39万9600円


約40万円の黒字になったのはなぜか。その理由として次のことがいえます。


大きな要因がコロナ禍です。コロナ禍のため、多くの人が外食や旅行を控えました。特別定額給付金(10万円)を受け取った人も多いはずです。


次に、統計のとり方の問題もあります。過去の統計では「65歳以上の夫と60歳以上の妻」をベースにしていましたが、2020年から「共に65歳以上」に変更されています。


■経済の専門家でも未来を正確に予測することはできない


それにより「厚生年金を受給している妻の割合」が増えた点も、考慮に入れねばならないでしょう。「10万円の給付金」を受け取っていなくても、コロナによる自粛や統計のとり方の変化で、黒字にはなりそうですよね。


「2000万円の赤字」から「40万円の黒字」へと未来予想が一転した理由はおわかりいただけたかと思います。つまりは「現時点での収支」で30年間分を、エイヤとまとめて試算をしただけなのです。


人はその時々に合わせ、やりくりをしながら生活していくものです。


データを見ると、現に2018年と2020年では生活費が1万円も節約されています。


1カ月単位で考えると「たった1万円」かもしれません。ですが、これが30年も続けば、合計では30年間では360万円の節約になります。


目安なので仕方がないとはいえ、こうした計算は少々雑に感じられます。しかし、経済の専門家でも、未来を予測するとなると、ざっくりした計算にならざるを得ないのです。未来とは、それほど正確に考えようがない、よくわからないものなのです。


事実、年ごとに予測が赤字になったり黒字になったりするという、ややこしい顛末となりました。私たちとしては、ハラハラさせられるばかりです。


■金融庁が不安を煽るようなことを伝えるワケ


さまざまなデータを見ていると、日本の「家計金融資産額」は、世界的に見てもかなり高い額です。「資産を現金で持っている額」(=タンス預金)もかなりのもの。


実は、日本のタンス預金率は、ダントツで世界1位です!


つまり、お金を持ってはいるけれど、投資に回したりはせず、現金で大切に持っている傾向が非常に高いのです。それは日本人の慎重な気質のせいでもあるでしょう。


だからこそ景気回復のために、金融庁はどうにかして株などを買わせたいのです。「投資で資金を増やさないと老後に困りますよ」と国民に伝えたのは、そのためでしょう。


金額は生々しいリアリティがあるもの。だから「2000万円足りない」といったネガティブなメッセージは、未来に対する大きな不安を抱かせます。


しかし、未来に不安を感じて「やみくもに倹約する」というのも、実は“無計画な行動”です。なぜなら、倹約しすぎると、生活の潤いも精神的な余裕も無くしてしまうからです。


「いまを楽しむこと」を自分から取り上げるなんて、もったいないですよね。


■「億り人」は、好きなこと以外にはどケチ


では逆に、「お金を十分に持っている富裕層」はどのようなお金の使い方をしているのでしょうか。そこには、お金の使い方のヒント、さらには、お金の貯め方のヒントがあります。


元野村證券の経済コラムニスト、大江英樹さんの『となりの億り人 サラリーマンでも「資産1億円」』(朝日新書)というベストセラーをご存じでしょうか。


大江さんは、3万人以上の投資家の資産運用を担当してきた方で、富裕層のマインドがリアルに紹介されています。


タイトルからして私たちには関係なさそう、と思うかもしれませんが大変学びが多く、お勧めです。この本には「億り人」(1億円超えの資産を築いた人のこと)のエピソードが多く出てきますが、共通しているのは、次の姿勢です。


「好きなことには、積極的にお金を使うが、それ以外には1円たりとも使わない」


極端な表現なので、本書なりに言い換えてみましょう。


リラックスゾーンのものには、自分を癒せるだけお金を使う……無制限モード
チャレンジゾーンのものには、コスパを追求する……お利口モード
ストレスゾーンでは、1円たりとも無駄にしない……どケチモード
写真=iStock.com/bee32
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■衣類はユニクロ、車はヴィッツ、外食はチェーン店


大江さんは、富裕層のリアルは「衣類はユニクロ、自動車はトヨタヴィッツ、住居は普通のマンション、外食はせいぜいチェーン店」だと述べています。


「お金持ちならベンツやポルシェなどの高級車を乗り回しているんじゃないの?」という気もしますが、それはごく一部。富裕層の中でも、「高級車が好きな人」だけ。


そして、「高級車が好きな人」は、それ以外には「どケチモード」になります。それが彼らの成功哲学なのです。アーティストの全国公演を追いかける、いわゆる“推し活好きな人”も、ある意味成功哲学の実践者です。


同じアーティストの同じ内容のコンサートを、自腹で追いかけるわけですから、ファン以外の人から見れば“無駄”でしかありません。


しかし、その“推し活好きな人”にとって、生活を豊かにする過ごし方として、コンサートの“全国行脚”は重要なこと。お金の使い方のプロから見ると「まさに使いどころ」なわけです。


そのかわり、それ以外のことでは徹底してコスパを追求し、無駄を排除する。


これぞまさしく、お金の達人が実践する“理想の生活”なのです。


■お金持ちだから車を持てるのではない


私の富裕な友人に“大の車好き”がいます。もう何年間も、所有する車は3台を下回ったことはありません。


しかし、彼はお金持ちになってから車を持つようになったわけではありません。学生時代から車を所有していました。確か中古のVWゴルフIIだったと記憶しています。


彼はアルバイトで頭金を工面し、車を手に入れた後もバイトを掛け持ちして毎月ローンを返していました。それも数年おきに車を乗り換えながらです。


彼の20代の車遍歴は4台で済まなかったはずです(まだ裕福ではなかったので、常に“1台持ち”ではありましたが)。


「バイト生活で目当ての車をなんとか手に入れ、丁寧に乗り、それを下取りに出して次の愛車を手に入れる」


彼はそんなサイクルを繰り返して、自動車好きの生活を楽しんでいました。


それと並行して、起業してがむしゃらに働き、40代でなんとか軌道に乗せると、使えるお金も増えたのでしょう、いまでは車3台持ちです。


誰しも彼を見て「お金持ちだから、車を趣味にできるのだ」と思うようです。車を3台も持てるのは、確かに成功したからでしょう。


でも彼はお金持ちになる前から、車が趣味なのです。それは、友人である私がよく知っています。


■自分を喜ばせ、ほかの部分では「1円も無駄にしない」


彼は苦しい中で、なんとかやりくりしながら「車で得られる喜びを糧にして仕事を頑張る」、そんな人生を楽しんできたわけです。彼にとっては、事業が成功したことも、所有する車が3台になったことも、たまたまの結果にすぎません。


私たちの多くは富裕層ではありません。しかし、彼だって富裕層ではありませんでした。人生の喜びと金銭の多い少ないは関係ないのです。


お金はなく“ても”、余裕はない“けど”、人生をうんと楽しむことはできるし、またそうすべきです。


未来を恐れてすべての喜びを先延ばしにしたり、切り詰め続けたりするのではなく、いまを適度に楽しみ、自分自身を喜ばせ、そのほかの部分では「コスパを追求して、1円も無駄にしない」。そうした生活こそ、未来への真の対策であり、幸せな人生設計なのです。


意外に思うかもしれませんが、過度でなければ、倹約さえ楽しむことができます。


「もしコスパの追求と無駄を排した生活」を「つらいもの」とイメージしているなら、その考えは改めるべきです。


節約、倹約する生活を楽しんでいる人や、SNSで節約生活のコツを発信している人は数多くいます。私も時々見ていますが、「上手な倹約生活」は「なるほど!」というアイデアに満ちた、普通の暮らしよりも楽しそうな暮らしです。


みなさんも、お気に入りの発信者をぜひ探してみてください。そんな「素敵な人」探しがあなたの趣味の一つに加わったとしたら、一石二鳥ですよね。


■貯めるなら、お金よりも「筋肉」


ここまでお金の考え方をお話ししてきました。「貯める」ばかりではなく、「いまを楽しむために使う」ことの大切さをお伝えしたつもりです。その上で、実はお金よりも貯めておいてほしいものがあります。


未来においてお金以上に“絶対に”役に立つものです。いったいなんだと思いますか?


答えは「筋肉」です。大まじめに言っています(笑)。「あ、自分には無理だな」と思ったあなた。それは早合点です。


ある著名なスポーツトレーナーは、自分の母親が90歳を過ぎて寝たきりであったところ、毎日少しずつトレーニングをさせて、100歳を超えてから片足でスクワットできるまでに回復させたそうです。もちろん、人それぞれ体力差がありますから、無理は禁物です。しかしだからこそ、筋肉は自分の方法でコツコツと貯めるべきです。


筋肉は体重の4〜5割を占めています。筋肉は、体を動かすだけではなく、支えたり、エネルギーを貯蔵したりという役割も担っています。


筋肉量は、成長と共に増えていきます。そのピークは20歳頃で、そこから筋肉量は徐々に減り始めます。70代になると、20代のなんと4割程度に減ってしまいます。


減り方には個人差もありますが、30〜50代に運動をあまりせずに過ごすと、筋肉が急激に減少し早死にするリスクが高まります。


■「歩くのが速い人は寿命が延びる」というデータも


反対に、筋肉量が多いほど長生きできる確率が高まるようです。


例えば「75〜84歳の高齢者の歩く速さ」と「10年後の生存率」を調べた研究によると、「普通以上の速さ(毎秒1.4m以上)で歩けるグループ」と「歩行速度が遅い(毎秒0.4m未満)グループ」とでは、10年生存率に約3倍もの開きがあったそうです。


写真=iStock.com/Mladen Zivkovic
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「歩くのが速い人」、つまり「筋肉量が多い人」ほど長生きできる可能性が高いということですね。


そう言われると自分の歩く速さが気になりますよね。


でも安心してください。いま、「歩くのが遅い人」も、運動を習慣化したり食生活を改善することで速く歩けるようになれば、生存率は伸ばせます。


健康のために「生活改善をしましょう」という呼びかけは、もう耳タコですよね。


食べ物やサプリ、運動、睡眠。気にかけなければいけないことが多すぎて、ちょっと面倒になってしまいます。私だってそうです(笑)。


そんな場合、ぜひ「筋肉」に注目してください。


「あらゆる要素の中で、健康寿命に最も貢献するのが筋肉量である」


この事実は、さまざまな研究ですでに証明されています。


■お金をたくさん貯めても、倒れてしまったら意味がない


より健やかになるための具体的な目標を持って日々を過ごそうとする姿勢は、素晴らしいものです。


たとえ大金を貯めていても、不摂生で倒れてしまっては、元も子もありませんね。


もし未来を心配するなら、貯蓄の最優先事項は「お金」ではありません。それは絶対に「筋肉」である、と断言できます。


筋肉の貯蓄を成功させる第一のコツは、「無理は絶対にしない」ということ。高すぎるハードルは掲げないということ。


筋肉づくりの第一歩として、まずは歩くことから始めましょう。例えば「1日30分程度」を目安に歩くようにしてみてください。もし自信があるようなら、「速歩き」を少し意識するのもいいですね。


この時点で、膝や腰、肩などに痛みが出たら、自分の弱点を棚卸ししましょう。整形外科を受診し、指導を受けるのがお勧めです。整形外科には、「リハビリ治療」もありますから。そこで普段歩くのに問題のない体づくりを手伝ってもらいましょう。


■ウェアも専用シューズも必要ない「ストリークラン」


スマホ脳』(新潮新書)で知られるスウェーデンの精神科医アンデシュ・ハンセンには数多くの著書があります。


それらは一貫して「心と体を健康に保つには走るのが最もよい」と説いています。走ることは、歩くのと同じく、体を健康に保つすべてに役立ちます。


あなたにもし余力があるなら、「30分」を目安に走りましょう。週に1度でもいいですし、できれば2〜3度トライできれば最高です。「走る」となると、すぐさま「ランニングのためのウェアがない」「よいシューズを用意しなければ」と、“準備”が面倒になってきます。でもそうなると、心理的なハードルが急に上がってしまい、「やっぱりやめた」とモチベーションが下がってしまいますよね。



堀内進之介、吉岡直樹『あやうく、未来に不幸にされるとこだった』(東洋経済新報社)

いま、海外では「ストリークラン」が流行中です。準備はさておき「とりあえず少しでもいいから走ろう」というものです。


仕事帰りに駅からの5分間だけ、荷物を持ったまま少し駆け足するだけ。それでもいいのです。大切なのは、スタイルでもなく、運動の強度でもなく、「続けること」。


「30分間、汗をかいてしっかり走ること」は確かに理想の習慣です。でも、それは「いつかできたら」という努力目標でOKでしょう。


今日からほんの少しだけ、「駆け足」になってみませんか?


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堀内 進之介(ほりうち・しんのすけ)
政治社会学者
Screenless Media Lab.所長、東京都立大学客員研究員ほか。博士(社会学)。単著に『データ管理は私たちを幸福にするか? 自己追跡の倫理学』(光文社新書)『善意という暴力』(幻冬舎新書)『人工知能時代を〈善く生きる〉技術』(集英社新書)ほか多数、共著に『人生を危険にさらせ!』(幻冬舎文庫)ほか多数。翻訳書に『アメコミヒーローの倫理学』(パルコ出版)がある。
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吉岡 直樹(よしおか なおき)
Screenless Media Lab.テクニカルフェロー、ディレクター。(株)XAMOSCHi代表。デジタル系プロダクションの設立を経て現職。日本ディープラーニング協会認定ジェネラリスト(JDLADeepLearning for GENERAL 2017)、米国PMIR認定プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル、経営学MQT上級(NOMA)、ウェブ解析士(WACA)、日本マネジメント学会正会員(個人)。共著に『AIアシスタントのコア・コンセプト』(ビー・エヌ・エヌ新社)がある。
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(政治社会学者 堀内 進之介、吉岡 直樹)

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