「グー・チョキ・パー」で最初に出すべきはこれだ…統計学が解明「じゃんけんの勝率が高まる」指のかたち
2024年3月6日(水)18時15分 プレジデント社
※本稿は、サトウマイ『はじめての統計学 レジの行列が早く進むのは、どっち⁉』(総合法令出版)の一部を再編集したものです。
■人間のクセからみるじゃんけんの統計的な必勝法
運に関するゲームで、私たちの一番身近にあるのは「じゃんけん」ではないでしょうか? 手だけを使って、3種類の手の出し方(グー・チョキ・パー)の組み合わせによって、勝敗を決めるシンプルなゲームです。
コイントスやクジなどと違い、道具を用意することなく短時間で決着がつくことから、世界各地でじゃんけんに似たゲームが存在します。
英語圏の場合「Rock Paper Scissors」などと表現されることもありますが、ルールは同じです。じゃんけんの起源は諸説あるようですが、日本では江戸〜明治時代に発明されたのではないかといわれています。
実はこのじゃんけんに、統計的な必勝法があることをご存じでしょうか?
人間は、なにかしらのクセを持っています。話し方のクセ、歩き方のクセ、考え方のクセ、そして、選択のクセです。
じゃんけんにも、出し方のクセというものがあります。「人によって違うのでは?」と思うかもしれません。しかし、大きなくくりでとらえると「出す手の確率」が偏っているのです。
平等なルールであるはずのじゃんけんですが、身近に「あの人、じゃんけん強いな」といわれている人がいるときは、ここで紹介する「じゃんけん必勝法」を使っているのかもしれません。
写真=iStock.com/eyecrave productions
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/eyecrave productions
■じゃんけんを仕掛けるときは「最初はグー」を
2009年に日本経済新聞に掲載された、桜美林大学の芳沢(よしざわ)光雄(みつお)教授による「ジャンケンに関する研究結果」によると、学生725人による、延べ1万1567回のジャンケンの結果、それぞれ出された手の回数は以下のようになりました。
グー:4054回
チョキ:3664回
パー:3849回
これをパーセンテージにすると、
「グー」を出す確率:4054/11567=35.0%
「チョキ」を出す確率:3664/11567=31.7%
「パー」を出す確率:3849/11567=33.3%
グーを出す人が一番多く、次にパー、チョキの順です。自分がグーを出したときに勝てるのは、相手がチョキを出したときですので、勝つ確率は31.7%です。
同様に、
自分が「チョキ」を出して勝つ確率:33.3%
自分が「パー」を出して勝つ確率:35.0%
となります。
つまり、「パーを出すのが最も勝ちやすい選択」ということです(図表1)。
出所=『はじめての統計学 レジの行列が早く進むのは、どっち⁉』
この勝率の差は「誤差の範囲」ではないかと思うかもしれませんが、統計的に意味のある差であることがわかっています(これを「有意差」といいます)。
心理学的には「人間は警戒心を持つと、拳を握る傾向がある」という説のほか、「チョキはグーやパーと比べて出しにくい」という説もあります。
クセというのは、人が無意識時により出やすいので、相手が酔っ払っているときや疲れているときはチャンスかもしれません。
また、こちらからじゃんけんを仕掛けるときは「最初はグー」という掛け声をスピードアップし、相手に考える余裕を与えないようにすることで、クセがより出やすいのではないでしょうか(図表2)。
出所=『はじめての統計学 レジの行列が早く進むのは、どっち⁉』
■あいこになったとき、次も同じ手を出す確率は22.8%
これが、じゃんけん初手(最初になんの手を出すか)での戦略です。
この研究では、「あいこになったときは、次になんの手を出せばいいのか?」についても調べています。その結果、あいこになったとき、次も同じ手を出す確率は22.8%ということがわかりました。
例えば、自分が一度目に「グー」を出し、相手も「グー」を出しあいこになったとします。すると、次に相手がまた「グー」を出してくる確率は22.8%だということです。
もしランダムで「グー・チョキ・パー」を出しているなら、それぞれの確率は1/3(約33%)になるはずですので、22.8%というのはかなり低いことがわかります。
「なんとなく、同じ手ではなく違う手を出したくなる」という選択のクセがあるようです。
統計数理研究所の石黒(いしぐろ)真木夫(まきお)名誉教授が作った「じゃんけんゲーム」では、人間対コンピューターで先に30点を取ったほうが勝ちという勝負で、延べ5万回の勝負でコンピューターの勝率が6割を超えました。
というのも、このソフトでは人間の14のクセを織り込んで勝負をしながらパターン解析を行い、人間の出す手を決定していくそうです。
「人間がソフトの手を読もうとすると、それがクセになるので、逆にソフトの勝率が上がる。まったくデタラメに出せれば、それが一番強い(勝率50%にすることができる)」という石黒教授のコメントも紹介されています。
■あいこになったら、次に自分はその手に負ける手を出す
それでは、「相手が同じ手を連続して出す確率は低い」ということを利用して、あいこの次の手で勝つ確率を上げる方法を考えてみます。
例えば、自分と相手が同じ「グー」を出してあいこになったとします。
次に相手が出す手が「グー」である確率は22.8%ですから、それ以外の手(「チョキ」か「パー」)を出す確率は77.2%(=100%−22.8%)です。
ということは、「チョキ」を出しておけば77.2%の確率で負けないということになります(図表3)。
出所=『はじめての統計学 レジの行列が早く進むのは、どっち⁉』
同じように、ほかの手についても負けない確率の高い手を考えると、一度目にあいこだった手が、
「グーの場合」:二度目は「チョキ」を出す
「チョキの場合」:二度目は「パー」を出す
「パーの場合」:二度目は「グー」を出す
これが最善の手となります。
覚え方は簡単です。「2人でじゃんけんをしてあいこになったら、次に自分はその手に負ける手を出す」ということです。
■もっと勝率を上げる交渉の持ちかけ方
「じゃんけんの必勝法」といっておきながら矛盾しますが、運のゲームやギャンブルには100%勝つ方法は存在しません。
初手で一番強い「パー」を出して、10人と対戦したとしたら約3人(31.7%の確率)には負けるわけです。確率が100%ではない以上、それ以外の事柄が起きる可能性は0ではありません。
一番勝率が高いと予想される「初手ではパーを出す」という選択は間違いではないのですが、もっと勝率を上げる方法が存在します。
それは、一回ぽっきりのじゃんけんで勝敗がつくルールではなく、「複数回の勝負にして、勝った回数が多いほうが勝利する」というルールにしてしまう方法です。
わかりやすくスポーツで考えてみましょう。
例えば、バレーボールは5セットのうち3セット先取したチームが勝利です。これがもし、1セットだけで勝敗がついてしまうルールだったらどう思いますか?
ワールドカップを観戦していて、1セットで日本チームが敗れてしまったとき、「今回はたまたま負けただけ。日本の実力はこんなものではないはず」と思う人もいるのではないでしょうか。
同時に「もうちょっと試合を長くやってくれないと、“本当の実力の差”がわからないよ」といいたくなるのではないでしょうか?
■「大数の法則」を制する者は賭けを制す
多くのスポーツでは、数回戦のゲームを行って総合的に勝敗をつけるようなルールになっています。
なぜなら、1回の勝負だけでは運よく勝つこともあるかもしれませんが、数回戦の長期戦のゲームになれば本当に実力のあるチームが勝つはず、という統計的な前提に基づいているためです。
じゃんけんであれば、「本当の実力=各手の勝率」ということです。
自分が「グー」を出して勝つ確率:31.7%
自分が「チョキ」を出して勝つ確率:33.3%
自分が「パー」を出して勝つ確率:35.0%
潜在的な勝率に偏りがあれば、長期戦にすることによって本当の実力がデータに表れやすいことを「大数の法則」といいます。
サイコロを例に、大数の法則について紹介します。
サイコロの目1〜6までの各数字は、それぞれ、1/6の確率で出現します。1/6は16.67%くらいです。
「16.67%」というのが、各数字が出現する「本当の実力」を表していると考えてください。
この場合、歪(ゆが)みのないサイコロなので、「1〜6の各数字の本当の実力は16.67%ですべて等しい」ということになります。この状態を確率の世界では、「同様に確からしい」といいます。
各出目が出る確率は、理論上は等しくても、例えば、サイコロを6回投げたとき、1〜6までの数字が必ず1回ずつ出るとは限りません。もしかすると、1の目が6回続くかもしれません。
■試行回数が多いほど、「本当の実力」に収束
確率現象を実験したり観察したりすることを「試行」といいます。
サイコロを振る回数(試行回数)を12回に増やしたとして、1〜6までの各数字が出る回数の期待値はいくつになるでしょうか?
12回×1/6=2
で12回サイコロを振ったら、1〜6までそれぞれ2回ずつ出る計算になります。実際にコンピューターでシミュレーションをすると、図表4のような結果になりました。
各出目が出る回数の期待値は2回のはずですが、2と6の目は1回も出ていない一方で、5の目は4回も出ていますね。各出目の出現確率も0〜33.3%とバラついています。
ではこれを、60回、600回、6000回、6万回と試行回数を増やすと、どういった結果になるか見てみましょう。
60回もサイコロを振れば「1回もその目が出なかった」ということはなくなりましたが、出現確率は11.7〜28.3%とまだバラつきがあります。
600回では出現確率が14〜18.7%となり、バラつきが小さくなってきました。
さらに、6000回では出現確率が15.2〜17.5%となり、もっとバラつきが小さくなってきました。
出所=『はじめての統計学 レジの行列が早く進むのは、どっち⁉』
そして、6万回では出現確率が16.5〜16.8%になり、どの出目も「本当の実力」である16.67%付近に落ち着いているのがわかります。
出現確率の変化に注目してほしいのですが、試行回数が60回、600回、6000回、6万回と多くなるごとに各出目の出現確率にブレが少なくなっているのがわかると思います。
試行回数が多いほど、「本当の実力」(16.67%)に収束していく大数の法則が働いているためです。
■PayPay全額返金キャンペーンの勝算
2018年末頃から、PayPayというスマホ決済サービスが普及しました。「10回、20回、40回に1回全額返金される」という期間限定キャンペーンが話題を呼びました。
なぜ、全額返金という一見太っ腹なキャンペーンを打ち出せるか、赤字になったりしないのかというと、大数の法則に裏打ちされた戦略があるからです。
例えば1万円の買い物の場合、「40回に1回全額返金」にしたときの還元率は2.5%です(1万円×1/40+0円×39/40=250円)。
このキャンペーンに1人しか参加せず、運よくその人が1万円全額返金されることもあるでしょう。しかし、実際はかなり多数の人がこのキャンペーンに参加していました。購入金額も様々です。
キャンペーン全体を見たとき、購入総額の2.5%が還元されるところに落ち着くのです。
PayPayは「初期導入費・決済手数料・入金手数料0円」をウリに加盟店を拡大してきましたが、利用者が多くいることによって大数の法則が働き、コストの計算をより正確にすることができるのです。
この大数の法則に則って経営をしているのがギャンブル店です。
顧客がプレイする回数(試行回数)を多くすることで、設定した控除率(店側の取り分)に収束しやすいようにコントロールしているというわけです。
つまり、お客さんがプレイすればするほど(試行回数が増えるほど)店側の儲けが確定しやすいのですが、お客さんのプレイ数が少ない(試行回数が少ない)と、設定した控除率に収束しづらくなる(店側が赤字になることもあり得る)ということです。
こういった理由から、ギャンブル店では顧客のプレイ回数(試行回数)を、経営の最重要指標として設定しています。
例えばパチンコ店では、「稼働数」といい「お客さんが一日を通してパチンコ台に打ち込んだ玉の数=試行回数」という指標を、一番重要な指標として扱っているのです(「売上」や「客単価」ではないところがポイントです)。
写真=iStock.com/Travel Wild
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■自動車保険は加入者をどれだけ増やすか
大数の法則はギャンブルの世界だけでなく、保険や銀行の貸付等にも幅広く応用されています。
自動車保険を例に考えてみましょう。万一の事故に備えて、加入するのが自動車保険です。
しかし、自動車事故が頻繁に起きたら、保険会社の保障は大変なことになります。
でも、実際にそうはならないのは、「事故を起こす人」が加入者全体の比率でいえばかなりの少数だからです。その他大勢の「事故を起こさない人」が払っている保険料で、「事故を起こす人」の保障をまかなっているということです。
保険の場合も、加入者をどれだけ増やすかということが大事です。
加入者が多くなるほど、加入者全体の事故を起こす確率にブレがなくなり、安定した経営ができるようになります。
保険料が人によって異なるのは、加入者の年齢や性別、免許証の色などで事故を起こす確率の高低が異なるためです。「事故を起こす確率の高い人」と判断された場合には、保険料が高くなります。
銀行の貸付金利もこれと同等の仕組みです。返済するのが難しそうな人ほど金利が高くなったり、そもそも審査に落ちてしまって借りられなかったり、ということがあるのはそのためです。
■自分の人生の舵を自分で握れる人生であるか
このように、決済サービス、ギャンブル、保険、金融などあらゆるビジネスに、大数の法則が取り入れられ、経営を安定させています。これはビジネスの世界の話だけでなく、個人にも取り入れるべき考え方だと思います。
サトウマイ『はじめての統計学 レジの行列が早く進むのは、どっち⁉』(総合法令出版)
統計学が味方をしてくれる人の特徴は、「一発逆転を狙わないコツコツとした行いができること」や「目の前の出来事に一喜一憂せずに、長期的に勝つことを選択できるかどうか」といえるかもしれません。
一回ぽっきりで勝負が決まってしまうような運まかせのゲームは、エンターテインメントとして楽しめる範囲にとどめておきましょう。
もし、そこに人生の大勝負を懸けてしまうと、「運」という自分ではコントロールできないものに自分の人生の舵(かじ)を託すことになります。
それはそれでひとつの選択かもしれませんが、自分の人生の舵を自分で握れる人生と、自分以外の誰かに舵を握られる人生、あなたはどちらを選択したいですか。
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サトウマイ(さとうまい)
データ分析・活用コンサルタント
合同会社デルタクリエイト代表社員。国立福島大学経済経営学類卒業。一般企業就職後、26歳で独立、データ分析・統計解析事業を始める。現在は企業のマーケティングリサーチや需要予測調査、商品開発支援などを行っている。数学アレルギーから学生時代より文系の道に進むが、統計学と出会いアレルギーを克服。株式会社野村総合研究所主催の「マーケティング分析コンテスト」入賞。学生や社会人向けに、データ分析をリアル謎解きとして楽しみながら、仕事に役立つ実践的なトレーニングを行っている。
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(データ分析・活用コンサルタント サトウマイ)