「10年で500店舗→1000店舗」コメダをスタバ、ドトールに次ぐ国内3位のカフェに引き上げた"3つの要素"

2024年3月7日(木)9時15分 プレジデント社

コメダ珈琲店の「コメダブレンド」 - 画像提供=コメダホールディングス

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コメダ珈琲店で知られるコメダホールディングスの運営店舗は、2023年7月に1000店舗を突破した。名古屋のローカル店だったコメダが全国進出できたのはなぜか。高千穂大学の永井竜之介准教授は「コメダの強みは“3つの顔”を持つことにある」という——。

■国内第3位の出店数を誇るカフェチェーンに


「名古屋の定番」といえば、コメダ珈琲店(以下、コメダ)を思い浮かべる人は多いだろう。喫茶店が生活の一部に溶け込んでいると言っていいほど親しまれ、コーヒーを注文するとトーストやゆで卵が無料で付いてきて朝食にちょうどいい「モーニング」が当たり前の、名古屋ならではの喫茶文化。そのなかでも、地元民から愛され、県外から旅行や出張で訪れた人もよく利用する、代名詞的存在がコメダだ。


じつは、コメダはいまや国内第3位の出店数を誇る大手カフェチェーンとなっている。スターバックスの1901店(2024年3月5日時点)※1、ドトールグループの1273店(2024年1月末時点)※2に次いで、コメダグループは2023年7月に1000店舗へ到達しているのだ(※海外店舗を含む。2024年3月5日時点で海外店舗は39店舗)。コメダグループが500店を越えたのは2013年であり、この10年間で店舗数を倍増させる急拡大を実現させた形になる。コメダが、名古屋のローカルチェーンから、巨大な全国チェーンに変貌を遂げることができた背景について、お店の持つ「3つの顔」に注目して見ていこう。


画像提供=コメダホールディングス
コメダ珈琲店の「コメダブレンド」 - 画像提供=コメダホールディングス

■郊外型で大型のフルサービス喫茶店として人気を集めた


コメダの始まりは、創業者の加藤太郎氏が名古屋市内に「珈琲所コメダ珈琲店」を開業した1968年にさかのぼる。もともと加藤氏の実家が米屋を営んでいて、「米屋の太郎」という呼び名が、「コメタ」、そして「コメダ」と変移していったことに由来した店名になっている。


創業当時、個人経営の小規模な喫茶店が乱立していたなかで、加藤氏の「いろいろな人に日常のなかで親しんでもらいたい」※3という思いから、出入りしやすい広い駐車場を備えた大型の喫茶店として開業された。この郊外型で大型のフルサービス喫茶店が人気を集め、のれん分けの形で店舗数を拡大していった。


その後、フランチャイズ(以下、FC)展開を始めていき、1975年に株式会社コメダ珈琲店を設立し、中京エリアでのFC展開を進めた。1993年にはFC運営のために株式会社コメダを設立し、さらに出店ペースを速め、2000年以降からはエリアを拡大して、2003年に関東、2006年に関西への出店をスタートさせた。


■投資ファンドの運営になり出店ペースを加速


大きな転機は、2008年、コメダが加藤氏から投資ファンド「アドバンテッジパートナーズ」へと事業承継されたことである。買収したビジネスを大きく成長させて企業価値を上げてから売却することで大きな利益を狙う投資ファンドの運営となり、コメダの出店ペースは加速していき、2013年には500店舗に到達した。同年、コメダは別の投資ファンド「MBKパートナーズ」によって買収され、さらに全国チェーンへと飛躍する道を駆け上がっていくことになる。


MBKパートナーズの下では、日本マクドナルドのCOO(最高執行責任者)を務めた外食産業のプロフェッショナルである臼井興胤氏がコメダの新社長に就任し、社員にはストックオプション(株式購入権)を与えるなど報酬制度を見直して優秀な人材が外部から集められた。


■2016年には東証一部上場を果たした


この新陣営によって、創業以来、ほとんど手を加えられてこなかったコメダのメニューや価格が改革された。マーケティング予算を大幅に増やして大規模な消費者調査を実施し、その分析に基づいて価格を改定したり、定番商品「シロノワール」に偏りすぎていたデザートメニューをリニューアルしたりと、ニーズを的確に捉えて消費者を満足させるためのマーケティング改革が行われた。そして、FC店のマーケティング支援を専門的に行う「スーパーバイザー」の人員を3倍に増やし、改革を店舗網のすみずみまで行き届かせた。


画像提供=コメダホールディングス
コメダ珈琲店の「シロノワール」 - 画像提供=コメダホールディングス

こうした改革が軌道に乗り、コメダは更なる成長路線を突き進んでいった。2014年には株式会社コメダを完全子会社とする株式会社コメダホールディングスが設立され、2016年には東京証券取引所市場第一部への上場を果たした。2019年には青森県へ出店し、これによって日本の47都道府県すべてへの出店を実現している。また、上海、香港、台湾、インドネシアなどの海外出店も進められている。


■「くつろぎやすい店づくり」が徹底されている


1968年の創業から45年をかけて500店舗に到達し、その後、わずか10年で1000店舗にまで到達して、大手全国チェーンの一角となったコメダ。この店舗数の急拡大は、お店そのものに魅力がなければ成り立たない戦略だ。スターバックスやドトールなどの強力なライバルがいるにもかかわらず、急成長を実現できた背景には、コメダが「3つの顔」を併せ持つことで幅広いお客のニーズに応えて満足させられる点があげられる。


コメダの1つめの顔は、他にはない特別な居心地の良さを提供してくれる「カフェチェーン」だ。創業以来、コメダは「喫茶店を自宅の居間や会社の応接室の延長線上で使う名古屋のお客さんと向き合ってきた」※4と語られるように、おいしさ、おもてなし、居心地にこだわった「誰もがくつろげる街のリビングルーム」として店づくりが行われている。


店の内装、色味、イスやテーブル、周りの視線から守るパーテーションや席同士の距離確保など、老若男女がくつろぎやすい店づくりが徹底されている。また、来店時の出迎えから注文・提供・会計、そして退店時の見送りまで、従業員によるおもてなしのフルサービスが行われる。


■「ファミリーレストラン」としての顔も持つ


コメダは、個人席、コンセントやWi-Fiの完備など、個人での仕事利用にもしっかりと対応してくれるなど、大手カフェチェーンに求められる環境整備に抜かりはない。それに加えて、洗練されすぎている、若者向けに特化している、長居しにくくてゆっくりくつろげない、セルフサービス、といった他のカフェチェーンの特徴とは明確に異なる、コメダならではの居心地の良さを、大手カフェチェーンになっても守り続けている。


コメダの2つめの顔は、家族ニーズにも応えられるコスパの高い「ファミリーレストラン」だ。コメダの大きな特徴として、想像やメニュー写真よりも実物が大きい、デカ盛りフードメニューがある。お客に驚きと満足を届ける、コスパの高いフードメニューは高く支持されている。そして、このフードの味が、激辛やクセの強いものではなく、広く親しまれやすい味付けになっている点も特徴的である。


画像提供=コメダホールディングス
コメダ珈琲店の「カツパン」 - 画像提供=コメダホールディングス

クセの強い味付けは、たまに食べる分には良いが、週に何度も利用したいとは思われにくい。また、大人は好きでも、子供やお年寄りには敬遠される味付けでは、幅広いお客からの利用には適さない。サンドイッチ、カツパン、ハンバーガー、スパゲッティー、グラタン、そしてデザートなど、コメダのフードは老若男女問わず、万人に愛されやすい味であり、だからこそ家族連れが「ファミレス」として頻繁に利用しやすいお店にもなることができている。


■他の大手カフェチェーンよりも「午前中の稼働率」が高い


万人に愛される味は、フードだけでなく、コーヒーでも一貫されている。各地の自社工場で焙煎・抽出されたコーヒーは、どの店でいつ誰が淹れても同じ味になる点、そして、一部の通向けや好き嫌いの分かれる味ではなく、誰もが安心して美味しく飲めるいつもの味にする点にこだわられている。


コメダの3つめの顔は、名古屋の喫茶文化を継承し続ける「ローカル店」だ。47都道府県のすべてに出店し、全国に1000店以上を展開する大手カフェチェーンになった現在でも、愛知県には最多となる200店以上が集中している。コメダは「名古屋の定番」を味わえるローカル店らしさを、全国に届けているお店であり、モーニングを目当てに集まるお客が多いため、他の大手カフェチェーンと比べて、午前中の稼働率が高い特徴を持つ。


このようにコメダは、特別な居心地の良さを提供してくれるカフェチェーンでもあり、安心の美味しさが味わえるコスパの高いファミレスでもあり、名古屋の喫茶文化を楽しめるローカル店でもある。この3つの顔を併せ持つことで、あるいは立地に応じて顔を使い分けることで、コメダは幅広いお客のニーズに応え、お客の期待を上回って驚きを提供できるお店として愛され、店舗網の急拡大を実現させているのである。


【参考文献】
※1 「スターバックス 店舗検索」参照。
※2 「ドトールグループ総店舗数」参照。
※3 Cocotame「なぜ全国区に? 『コメダ珈琲店』の50年の歴史を明かす」2018年9月28日
※4 東洋経済オンライン「コメダ珈琲、スタバとはまるで違う愛され方」2018年6月22日
※5 コメダホールディングス ウェブサイト(「グループ沿革」「グループ事業の概要」「“くつろぎ”の秘密」)
※6 日経ビジネス「コメダ上場、投資ファンド幹部が語る支援の内幕」2016年6月29日
※7 日経XTREND「コメダ珈琲、1000店舗目は新橋 クイズで分かる大増殖の道のり」2023年7月13日
※8 ITmediaビジネスONLiNE「「コメダ珈琲店」は略称だった 創業者の思いが詰まった正式名称とは?」2023年8月11日


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永井 竜之介(ながい・りゅうのすけ)
高千穂大学商学部准教授
1986年生まれ。専門はマーケティング戦略、消費者行動、イノベーション。産学官連携活動、企業団体支援、企業との共同研究および企業研修などのマーケティングとイノベーションに関わる幅広い活動に従事。主な著書に『マーケティングの鬼100則』(ASUKA BUSINESS)、『嫉妬を今すぐ行動力に変える科学的トレーニング』(秀和システム)、『リープ・マーケティング 中国ベンチャーに学ぶ新時代の「広め方」』(イースト・プレス)などがある。
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(高千穂大学商学部准教授 永井 竜之介)

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