30歳長男が生涯無職でも黒字家計のはずが…5年後再試算で「77歳で底を突く」まさかの赤字転落決定の驚愕理由

2024年3月10日(日)11時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Janice Chen

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65歳でリタイアした男性には240万円の年金収入のほか預貯金5700万円がある。2歳下の妻と共にゆとりある老後生活を送れる額だが、そうではない。同居する30歳長男は勤務経験がなく、今後も働かない公算が大きい。5年前に家計シミュレーションすると長男が80歳になっても2000万円超の貯金が残るという結果だったが、今回再試算すると、77歳時点で底を突くことが判明した。その理由とは——。
写真=iStock.com/Janice Chen
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■持ち家で資産5700万円でも…余裕の老後生活がかなわない理由


神奈川県にお住いの春日徹さん(仮名、65歳)は、会社を退職したばかりです。60歳の定年後も再雇用で働き続け、最近ようやくリタイアしました。家族は主婦の妻(63歳)と長男(30歳)です。長男は高校時代に不登校となり、そのまま大学に進学せず、就職もせずに今にいたっています。実は5年前にも一度ご相談に来られたのですが、今回リタイアを機に、再び将来の状況を確認するために私の元を訪れました。私は再びシミュレーションを作成しましたが、その結果は驚かされるものでした。


相談者の家族構成
相談者:春日 徹さん(仮名):65歳(無職) 収入:年金240万円
:由紀子さん(仮名)63歳(主婦)
長男:30歳(無職)


資産
預貯金:5740万円
自宅(持ち家)


支出
生活費:年額240万円


家計相談を受ける際、筆者は各家庭の状況を伺いながら、将来の家計状況のシミュレーションを作成します。その上で、問題点があれば、改善していただくようにアドバイスしています。それは、お子さんがひきこもりなどで働けない家庭でも同じです。


ただ、このシミュレーションは前提条件が変わると、結果も変わってきます。家族の状況や経済状況が変化すると、前提条件も変わり、シミュレーションの結果も異なってきます。そこで、折に触れて見直しをしていただくようにお勧めしています。家族の状況の変化があった際などに再度シミュレーションの作成をご依頼されるケースは少なくありません。


春日さんもそんな一人でした。5年前に一度相談に来られ、長男の将来のシミュレーションを作成しました。春日さんの長男は、高校生の頃に不登校となり、そのまま大学進学も就職もせずに20代半ばとなっていました。


対人関係が苦手で、学校生活になじめなかったのですが、そのまま社会に出る機会も失ってしまいました。実は父親も、仕事こそ定年まで続けられましたが、それほど社交的ではなく、長男が対人関係を苦手としているのも理解していました。それだけに、長男が働けなくても生きていけるように財産を遺してあげたいと、ぜいたくをしないで貯蓄を続けてきました。資産は預貯金5740万円と自宅(持ち家)です。


■長男が80歳になった時点でも2000万円以上の貯蓄残高を維持


そして、定年を機に「長男は今のままでも生きていけるか、診断してほしい」と筆者の元を訪れました。早速、春日さんから家計や貯蓄の状況を伺ってシミュレーションを作成しました。


〈5年前の状況〉
収入
・春日 徹さん:給与収入450万円


支出
生活費:年額280万円


資産
預貯金:3750万円
・まもなく退職金2000万円が入る予定
・自宅(持ち家)


その時に私が作成したシミュレーションのグラフが図表1です。


筆者作成

65歳でリタイアした後は、徐々に貯蓄を取り崩していくことになりますが、それでも両親亡き後、長男が80歳になった時点でも2000万円以上の貯蓄残高を維持することができそうです。春日さんが当時すでに十分な貯蓄(3750万円)を持っていたこと(春日さんが相続した資産含む)、長男が一人っ子なので、将来春日さんご夫婦の財産を100%相続することなどが幸いしました。シミュレーション結果を見て時の春日さんのほっとした表情をよく覚えています。


そして5年の時を経て、春日さんは再び私にシミュレーションを依頼されました。


「私もとうとうリタイアすることになりまして、この機にもう一度将来の状況を分析してもらいたいと思いまして……」


と言っても、65歳でリタイアすることは前回に織り込み済みでしたので、特に状況が変わったわけではありません。それでも安心したいとのことでしたので、筆者は再びシミュレーションを作成しました。


するとどうでしょう。筆者も春日さんも「えっ」と声を上げてしまいました。


■5年後の再シミュレーション…まさか「77歳で赤字転落」に愕然


両親亡き後、長男が77歳になった頃に貯蓄残高は早くもマイナスに転じ、90歳まで生きると4000万円以上もの不足が発生する、という結果になったのです。前回、80歳になった時点でも2000万円以上残高があるのとは天と地ほどの差です。


筆者作成

貯蓄が底を突くのは47年後のことですから、直ちに心配する必要はありませんが、あきらかに何らかの改善が必要な状況です。春日さんは、分析結果を見て動揺していました。


「えっ、これはどういうことなのでしょうか? そんなに生活は変わらなかったように思うのですが……」


「確かに、支出が増えたわけではありませんし、収入の減少は当初の予定どおりです」


「では、なぜ? 前の分析が間違っていたというのですか?」


「いや、そうではないのですが」


私は少したじたじです。


「実は、前回と変わった点が1つありました」


私は説明を始めました。


「前回の分析の際は、消費者物価の上昇率は0%近辺の状況が続いていました。そこで、シミュレーションでも物価の上昇率は0%という前提で計算しました。ところが、最近は状況が変わりました。昨年(2023年)は消費者物価の上昇率が3.2%となっています。今年はそれよりは下がるとの見通しですが、日本銀行は2.0%を目標としています。よって、今回は2.0%で計算しました」


「それだけでこんなに変わるのですか?」


「そうなんです。長期にわたる分析だと、前提条件が少し違っただけで結果が大きく変わります」


「では、もう息子は生きていけないということなのでしょうか?」


「いや、まだそう決めつけるのは早すぎます。今は物価が上昇しているのですが、金利はまったく上がっていません。預金金利はほとんど0に近い水準です。そのために、貯蓄で生活する人にはとても不利な状況になっています。一般的に、物価が上昇するような状況が続くと、金利も上がる傾向があります。金利がまともに付くようになれば、状況は改善されます。まだしばらくは低金利が続きそうですが、長い目で見れば、今の状況が続くとは限りません」


「もう少し様子を見る必要があるということですね」


「そうです。また5年後ぐらいにシミュレーションをすると、また違った結果になると思います」


「そうですか。少し安心しました。当面はどんなことをしておけばよいでしょうか?」


■消費者物価対策のためにすべき2つのこと


私は2つ対策を提示しました。どちらも簡単ではありませんが、インフレへの対策として有効です。


「1つは、資産運用です。春日さんは、十分な貯蓄をお持ちですが、そのほとんどは定期預金です。現状ではほとんど利息が付かず、物価が上昇している現状では実質的に目減りしていることになります。投資信託などで資産運用をすることで、貯蓄の目減りを防ぐことができます」


「資産運用というと、損してしまうこともありますよね」


「確かに損失の可能性はあります。ですから、ご資産のすべてを運用に充てるわけではなく、一部を運用されてみてはいかがでしょうか。資産を増やすのが目的ではなく、目減りを防いでくれればよいのですから、慎重に運用をされるとよいでしょう」


「そうですか。それでは資産運用の話も聞かせてください。ところで、もう1つはなんでしょうか?」


「これまでも意識されてこられたことと思いますが、ご長男が収入を得ることです。自立した生活が送れるほどでなくても構いません。少しでも収入が得られれば、将来の状況は改善します。物価の上昇が続くと、賃金も上昇する傾向にありますので、これもインフレ対策として有効です」


「そうですね。簡単なことではありませんが、あきらめずに本人に促していきたいと思います」


「ご本人の意向が大切ですので、焦らずに声かけをしてみてください。シミュレーションでご覧いただいたように、貯蓄が不足するとはいっても40年以上先のことです。その間に経済状況も変わってきますので、すぐに心配いただく必要はありません。できることから少しずつ取り組んでみてください」


最近の経済状況の変動はファイナンシャル・プランナー泣かせです。シミュレーションの結果で相談者を驚かせてしまうこともあります。背景を丁寧に説明することで、不安にならずに、前向きに捉えていただけるように努めています。


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村井 英一(むらい・えいいち)
ファイナンシャルプランナー
「働けない子どものお金を考える会」メンバー。
大手証券会社で個人顧客の投資相談業務を長年行い、ファイナンシャルプランナーとして独立後は、資産運用に限らず、家計の見直し、住宅購入、老後資金など幅広い相談を受ける。
特に、長期にわたる家計のシミュレーション分析を得意とし、ひきこもりや障害を持つお子さんとそのご家族の資金計画を行っている。
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(ファイナンシャルプランナー 村井 英一)

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