"無実"の30代男性が突然逮捕され懲役3年…支払いきっちり上得意客が通常商取引に紛れ込ませたヤバい案件

2024年3月19日(火)11時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/undefined undefined

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詐欺の被害者は高齢者が多いが、若い世代にも少なくない。時計の買い取り・販売会社を経営していた30代男性は昨夏、突然逮捕され、その後、懲役3年(執行猶予5年)の有罪判決を受けた。日々、真面目に働いていたのになぜなのか。ジャーナリストの多田文明さんが、罪のない市井の善人をコマとして使う詐欺集団の恐るべき仕組みを解説する——。

■“無実”なのに…突然、刑事にきて逮捕され懲役3年の有罪判決


詐欺の魔の手は、いつ私たちの身近に迫ってくるかわかりません。被害者には高齢者が多いイメージがありますが、ビジネスパーソンなど若い世代も餌食となる事例が後を絶ちません。


柴田さん(仮名・30代男性)は昨年5月に急転直下の事態に見舞われました。突然、自宅に刑事がきて、手錠され逮捕されたのです。なぜ、自分が? 何をしたというのか! 抗議しても一切聞き入れられません。


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最終的に懲役3年(執行猶予5年)の有罪判決を受けます。執行猶予付きとはいえ、有罪です。これまで真面目に働き、コツコツ築いてきた人生は完全に破壊されました。いったいどんな犯罪をしたというのでしょうか。


柴田さんはこう振り返ります。


「警察がきた時には、何のことかわからないまま逮捕されましたが、後で自分が知らぬうちにどんな犯罪に加担していたかがわかりました。実は僕は特殊詐欺の資金洗浄にかかわり、犯罪収益金75万円を得たというのです。特殊詐欺の『受け子』や『出し子』は知っていましたが、まさか僕自身が『出し子』になってしまうとは……」


金銭的な代償は、罰金など700万円。“自分が得た”という75万円の10倍近くのお金を払わなければならなくなりました。もちろん、得たといっても本人にその自覚はありませんでした。自分が知らないうちに、マネーロンダリングの歯車となっていたのです。資金洗浄? 犯罪収益金? いったい何が起きたのでしょうか。


柴田さんの仕事は、時計の買取り・販売会社の経営。以前から取引のあった香港で古物商をしている石井(仮名・40代男性)という人物から、ある時、日本に住む親しい友人を介して依頼されます。


「石井さんがビットコインを円に換えてほしいそうなんだ」


通常の業務内容ではなく乗り気でなかったものの、石井からは1年以上も継続して注文があり支払いもきっちりしていた。いわば、上顧客としての信用もあり、むげに断れなかったのです。


ところが柴田さんの元に送金されたビットコインは、特殊詐欺で集められたものでした。それを知らずに円に換えて、石井やその部下に現金で手渡ししていたのです。


■被害者多発のNTTの関連会社をかたる手口


このお金はどのような詐欺の手口で集められたものなのか。多くは、「NTTの関連会社」をかたるもので、「ご利用料金の支払い確認が取れておりません」という連絡をしてくる手口でした。


参照記事:なんと病院内ATMからも…60代男性に117回振り込ませ1.6億円を奪った全カラクリ


この記事のような手口でだましとられたお金は、柴田さんのような詐欺に“全く関係のない人物”を通じて資金洗浄されていたと考えられます。


これまでの「NTTの関連会社」をかたる手口では、詐欺グループにつながる電話番号を載せたショートメッセージを送ることが多かったですが、最近は自動音声ガイダンスで電話がかかり「料金の確認」を名目に電話のボタンを押させて、オペレーター(詐欺師)につなぎ、「有料サイトなどの未払金がある」と嘘をついて、お金をだましとるケースが多くなっています。


一度、先方の話を信じてしまうと、一気にやられます。さまざまな職業を名乗った人物が電話してきます。例えば、サイバー保険会社などを装い「あなたのスマホはランサムウェアにかかっており、個人情報が流出して、多くの被害者が出ている」と言ってくる。「今日中に支払わないと裁判になる」と脅して、被害者に近くのATMから振り込みをさせます。


柴田さんによると、その詐欺被害者が詐欺グループに指示されてATM から振り込んだ先は、暗号資産の取引用アカウントに紐づいた、正規の暗号資産取引所の銀行口座でした。


被害者も振り込み先が、一般企業名(暗号資産取引所)になっていますので、まさか詐欺に遭っているとは思わなかったはずです。もちろん、正規の取引所も、そこが詐欺のアカウントとは思っていませんので、その振り込まれた金額分をアカウントに反映させます。そこからひそかに柴田さんの会社の暗号資産のアカウントに、ビットコインで送金する仕組みにしていたのです。柴田さんは、よもや自分自身が詐欺行為に巻き込まれているとは考えませんでした。


■1ビットコイン(BTC)になった時に、円に換金する


柴田さんが商取引用に持っている会社の暗号資産の口座には、こうした不正に開設されたと思われる複数のアカウントから10万〜20 万円分のビットコインが細かく複数回送られてきていました。それが「1BTC」になった時に円に換金して、石井らに渡していたのです。その額が500万円相当だったというわけです。


写真=iStock.com/dulezidar
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/dulezidar

「特殊詐欺で、ビットコインの形でお金をだまし取り、送金する方法があるとは全く知りませんでした。つまり、僕自身が出し子の立場になってしまうんですよね。(詐欺グループに)はめられた感じです」


詐欺の知識のない者を狙い、手足として使うのが、犯罪グループのやり方です。驚くのは、詐欺グループの暗号資産のアカウント数です。後に警察の捜査などでわかったそうですが「犯罪者らが送金してきたアカウント数は200〜300はあったようだ」といいます。


■自分をハメた人物もまた犯罪組織にハメられた可能性


会社の口座を通じて円に換金したことで犯罪グループに組み入れらてしまった柴田さんですが、事情を取材していると、こんな驚くべきことを口にしました。


「この話をもってきた石井も犯罪収益金だったことを知らなかったことも考えられます」


自分をハメた石井もまたハメられた“被害者”の可能性はあるというのです。


「石井が面倒をみていた人物にA男がいるのですが、そもそもは、この人物が石井に持ち掛けてきた話のようなのです。A男は東南アジア(フィリピン)でオンラインカジノをしていると聞いています。(警察の話などから)このグループは関西で特殊詐欺をしていた集まりではないかということでした」


現在、石井も、A男も東南アジアにていて、帰国していませんが、日本に戻れば逮捕されることになりそうです。そうなれば、長年にわたって行われてきた、NTTの関連会社をかたり詐欺をしてきたグループの全容解明の端緒がつかめるかもしれません。


■資金決済法違反になる


「僕は石井とのやり取りで儲ける気はこれっぽっちもありませんでした。ただ、実際にはビットコインを円にするプロセスで暗号資産の価格が上がり“利益”が発生しました。結果的に、手数料で利益を得てしまうという暗号資産交換所のような立場になり、金融庁に登録することなく、この行為をしてしまったことで、法律違反に問われました」


写真=iStock.com/MEDITERRANEAN
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紫田さんが換金する際のいわば手間賃として手数料を石井からもらっていたことが、資金決済法違反になったわけですが、柴田さんは「これはあくまでもリスクヘッジのつもりでした」といいます。


「ビットコインは急激に上がって利益が出ることもあれば、逆に一気に下がってマイナスになることもあります。レート変動による赤字のリスクや、円に交換する時にかかる取引所の手数料もありましたので、毎回、1%ほどの手数料をとった形で、石井には、お金を渡していました。しかし結果として、9回のビットコインの換金により利益が出てしまい、(犯罪収益金の)75万円を受け取ってしまうことになった」


柴田さんは組織犯罪処罰法にも問われています。


「円に換金したビットコインのなかに、被害に遭った方の500万円分が含まれていて、その際、7万円ほどの利益が出ていて、その犯罪収益金を手にしたこともあり、裁判所より懲役3年(執行猶予5年)の有罪判決の判決を受けることになりました」


おそらく柴田さんがビットコインを円に換えた、ほぼすべてが詐欺によるお金の可能性があります。しかし明確に被害金とわかる500万円で立件されての判決になっていると思われます。


■通常の商取引のなかに犯罪収益が入り込む


柴田さんは確かに迂闊でしたし、いくつかの重大な判断ミスを犯しています。ただ、石井といつも通りの通常商取引の中に犯罪収益金が潜んでいたことに気づくことができなかったことは、不運な面もあるように感じます。


「ビットコインを円に換える間も、これまで通りの通常の時計の販売もしていました。石井との商売上のやり取りは5000件くらいあって、そのうち、今回、犯罪収益として立件されたのは9件ほどです。リアルな取引のなかに入っていたので、こちらとしてよく分からない状況でした」


まさに不正な行為を通常の売買のなかに紛れ込ませてくる。詐欺グループの巧妙さもみえてきます。


詐欺に気づくポイントはなかったのか?


柴田さんに「犯罪に手を染めているかもしれないと気づくポイントがなかったのか?」を尋ねると「一つあります」と答えます。


「実は、暗号資産での取引を始めた頃、取引所のアカウントが急に止まったことがあるんです。しかし止まった理由は(暗号資産の取引所からは)詳しくは教えてもらえませんででた。当時は、ビットコインで時計を売買する取引も結構ありましたから。もちろん、その原因を調べるために、石井にも、送られてきたのは何のお金かと聞きました。すると『カジノの収益金だよ』と言われて、それを信じてしまいました」(柴田さん)


取引所のアカウントが止まるというのは、よほどのことだと思い、犯罪行為の可能性を必ず考える必要があります。柴田さんは「気をつける点としては、やっぱり良好な人間関係であっても、お金の絡む話の時には、必ず疑うことは必要でした」と悔やみます。


これまで柴田さんは顧客との信用関係を第一に会社経営をしてきました。犯罪グループはそこを突いてきたのです。しかし詐欺の手足としての歯車になってしまうと、たとえ数十万円しか手にしていなくても、刑事罰という大きな代償を受けることになります。


今、身の回りには詐欺などの犯罪が存在している。少しでも「おかしい」と思った時には、必ず誰かに相談して、立ち止まることが必要です。


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多田 文明(ただ・ふみあき)
ルポライター
悪質業者への潜入取材経験からジャーナリスト、ヤフーニュースオーサーとして活動。近著に詐欺商法の事例満載の『信じる者は、ダマされる。元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)がある。
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(ルポライター 多田 文明)

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