腸を整えるイメージがある食品なのに…医師が警鐘「過敏性腸症候群」を悪化させる意外な食べ物2つ

2024年3月31日(日)7時15分 プレジデント社

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/M_a_y_a

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中高年で初めて診断されることもあるIBS(過敏性腸症候群)とは、どう付き合えばいいか。医師の石井洋介さんは「IBSは内臓に病気があるわけではなく主に精神的なストレスによって起こるため、仕事や家庭でライフワークバランスが取りにくい50代になりちょっとした『便漏れ』が気になってきた、という方は意外に多い。大腸でガスを発生させ、お腹を張りやすくする『高FODMAP食』の大量摂取はIBSの症状を悪化させる可能性があり、反対に低FODMAP食はIBS症状の改善につながるともいわれる。『高FODMAP食』には、便秘解消のために食べるヨーグルトや蜂蜜も含まれている」という——。

※本稿は、石井洋介『便を見る力』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。


写真=iStock.com/M_a_y_a
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■50代で増える「便漏れ」の根本原因


以前『タイムマシンで戻りたい』という本を日本うんこ学会で出版しました。いろいろな人の「うんこ漏れ体験」を集めた本で、読んでいただくとわかるのですが、意外と人って漏らしているんです。


かくいう私も潰瘍(かいよう)性大腸炎の影響で、よくお漏らしをしてきました。だからこそ身につまされてわかるのですが、うんこを漏らした話というのは誰にも言えない、つらく孤独な経験だと思います。


この本を読んでくださっている皆さんも、実は生涯で1度や2度くらいは「便漏れ」経験があるのではないでしょうか。最近では便漏れに関するガイドラインも出てきており、中には改善可能な便漏れがあることを、ぜひ知っておいてほしいです。


特に私がこれまでうんこに関するいろいろな悩みを抱えた患者さんを見てきた中で意外に多いのが、50代になってちょっとした「便漏れ」が気になってきた、という方です。年齢的に、老化による便失禁にはまだ少し早い。


加齢によって消化酵素が減ってきているせいで、若い頃には大丈夫だった脂っこいものを食べても下痢しやすくなったという可能性はありますが、特に暴飲暴食をしているわけでもないのに下痢が続く場合には、IBS(過敏性腸症候群)という病気が隠れている可能性があります。


IBSとは、ストレスによって腸の動きが活発になってしまう疾患です。突然の腹痛や下痢、便秘を繰り返すのに、検査をしても体に異常は見つからない。そんな場合はIBSを疑ってみましょう。


■「ミッドライフ・クライシス」負担が体にかかり症状として現れる


IBSは内臓に病気があるわけではなく、主に精神的なストレスによって起こります。トイレのない電車での旅行や、映画や観劇など長時間トイレに行きづらい場所にいられなくなるため、QOL(生活の質)を低下させてしまいます。


その結果、さらに精神的なストレスが大きくなり、症状が悪化するという負のスパイラルに陥ってしまいます。IBSはよい治療薬も出てきているので、医師に相談し、治療を受けることが大切です。


ミッドライフ・クライシスという言葉もあるように、40〜50代というのは仕事上では中間管理職、家庭でも子どものことや夫婦関係、親との関わりなど、ライフワークバランスが取りにくい世代です。


自分のことを優先しにくく、いろいろなストレスを抱え込みがち。その負担が体にかかり、IBSの症状として現れることがあるのです。


写真=iStock.com/dai2003
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/dai2003

実際は、どの年代の人でもIBSにかかる可能性があり、6人に1人は隠れIBSといわれています。10代の思春期特有の悩みからIBSになる患者さんもいます。


50代からその数が急に増えるということではありません。ただ、50代での「便漏れ」は、精神的にも社会的にもダメージが大きいため、不安を感じて受診する方が多いのかなと思っています。


50代というのは、社会的にそれなりの地位にあり、人から頼られる立場の人も多いでしょう。そんな自分がうんこを漏らしてしまったら……。


若さでは誤魔化しきれず、老化と諦めるにはまだ早い。ですから深刻に、本気で止めたい、という意識で受診する患者さんが多いです。


■ストレスを長期的に感じると、その悪影響は蓄積される


IBSの病態、病気になる原因は今のところ完全にはわかっていません。感染症をきっかけに罹患する人などもいてきっかけはさまざまですが、多くの患者さんに共通していることは、ストレスとの相関です。


人の脳は、ストレスを感じるとホルモンがコルチゾールというストレスホルモンを放出させたり、腸でセロトニンの分泌を促したりします。


セロトニンは、「幸せホルモン」とも言い、聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。脳の興奮を抑え、心身をリラックスさせる効果があるセロトニンは、腸の動きを活発にする働きもします。


ただ、ストレスによってコルチゾールが放出され続けると、セロトニンの分泌も過剰になり、腸がセロトニンに反応しやすくなってしまいます。腸の運動が活発になり過ぎることで、下痢や便秘といった排便異常や腹痛が引き起こされます。


これがIBSの病態だといわれています。たとえばサバンナにいる草食動物を想像してみてください。草かげからぬっとライオンのような影が見えたら、体がビクッと一瞬にして緊張状態となり、走り去ると思います。これが一気にコルチゾールを放出した状態です。


厄介なことに、ストレスを長期的に感じた結果、その悪影響は蓄積され、消耗してしまうといわれており、この現象を「アロスタティック負荷」と呼びます。


周囲に自分を襲ってくる肉食動物がいないかずっと気を張っている状態が続くと、セロトニンを放出する蓋のようなものがゆるゆるになってしまい、ちょっとしたことで出続けるようになってしまいます。


風が吹いて草が少し動いただけで逃げ出してしまうような、過敏な草食動物を思い描いてみてください。腸がこうなってしまうと、風が吹いて桶屋が儲かるのではなく、お腹が痛くなる状態になってしまいます。


現代社会もサバンナのようなものだとすると、ライオンのような恐ろしい上司に呼ばれただけでお腹が痛くなるというのも理解できますね。


前述の通り、IBSは内臓に病気があるわけではないため、診断するためには、「除外診断」が必要となります。大腸がんや炎症性の腸疾患など他の病気がないことを、まずは証明するのです。特に50代の患者さんで、過去に大腸の病気にかかったことがあったり、家族にそうした病歴があったりする場合は、大腸内視鏡検査や大腸造影検査などを行った方がいいでしょう。


■「うんこをしたら楽になる」はIBSの可能性大


がんや他の腸の病気がないことを確認し、ようやくIBSの診断となります。中には下痢の原因は豆腐サラダの食べ過ぎだったという患者さんもいました。


内視鏡や血液検査、便検査などでお腹に痛みが出るような異常がなかった場合、次のような基準をもとにIBSの診断を行います。


〈IBSの診断基準(ローマIV基準)〉
・少なくとも診断の6カ月以上前に症状が出現した。
・腹痛が直近3カ月間の中の1週間につき、少なくとも1日以上起こる。
・さらに下記の2項目以上の特徴を示す。
 ①排便によって症状がやわらぐ
 ②症状とともに排便の回数が変わる(増えたり減ったりする)
 ③症状とともに便の形状(外観)が変わる(軟らかくなったり硬くなったりする)

特に「排便によって症状がやわらぐ」のは、IBSの特徴的な症状です。他の腸の病気がある場合、排便があっても腹痛がおさまったりはしません。


ですから「お腹がぎゅーっと痛くなってトイレに駆け込み、うんこをしたら楽になる」という場合は、IBSである可能性が高いといえるでしょう。



IBSを悪化させる食べ物はある?


IBSにはストレスによって腸が激しく動き過ぎて下痢をする下痢型、逆にうまく便が出なくて便秘してしまう便秘型、便秘と下痢を繰り返す混合型などがあります。



石井洋介『便を見る力』(イースト・プレス)

一般に、下痢症状は男性に、便秘症状は女性に出やすいといわれています。前章で紹介したブリストルスケールに照らしてみると、下痢症状のときはtype-6の泥状便やtype-7の水様便。便秘症状のときはtype-1のコロコロ便、type-2の硬い便が多くなるようです。


便秘型IBSは一般的な便秘と区別することが難しいのですが、便秘解消のために食べるヨーグルトなどの食材が、逆に症状を悪化させてしまったという患者さんに会ったこともあるので注意が必要です。


〈お酒〉

アルコールは消化管の運動を低下させたり、腸での炭水化物やタンパク、水分の吸収力を低下させたりすることで排便異常が起こるといわれています。特にIBSの方は一般の方に比べて飲酒後に消化器症状が悪化したという研究があります。


〈スパイス〉

激辛料理はお腹をゆるくするイメージがあるのではないでしょうか。唐辛子には消化管運動亢進(こうしん)作用があり、IBS患者においてはそれが過度に働きすぎ、症状を引き起こしてしまうといわれています。他にも、スパイス類は消化管運動を亢進し、IBS患者の腹痛を増強する可能性があるといわれています。


小腸内で分解・吸収されにくい糖類(短鎖炭水化物)のことを「FODMAP」といいます。


Fermentable(発酵性)、Oligosaccharides(オリゴ糖)、Disaccharides(二糖類)、Monosaccharides(単糖類)、Polyols(ポリオール)の頭文字をとったもので、小腸で吸収されなかったFODMAPは、そのまま大腸へたどりつき、腸内細菌によって発酵してガスを発生させます。


大腸でガスを発生させ、お腹を張りやすくする食べ物のことを「高FODMAP食」といいます。最近の研究では、高FODMAP食の大量摂取は、IBSの症状を悪化させる可能性があり、反対に低FODMAP食は、IBS症状の改善につながるともいわれています。


ただし前述のローマ分類(消化器疾患の国際分類)を発表した研究組織では、まだまだ研究の余地があるため、過剰に気にしないようにしましょうともいっています。以下にリストを記載しますが、この中に自分に合わないものがあるかもしれないくらいに思ってもらえればと思います。


完全に守ろうと思うと食べるものがなくなってしまい、それはそれで不自由です。これを避けたところで治るわけではないので、調子が悪くなったら困る、たとえば大事な受験の直前だけ一部制限するという程度に考えておきましょう。


代表的な高FODMAP食と低FODMAP食は次のようなものです。


〈高FODMAP食〉
タマネギ、ゴボウ、アスパラガス、カリフラワー、そら豆、全粒粉パン、ライ麦パン、パスタ、シリアル、牛乳、ヨーグルト、蜂蜜、加工肉、カシューナッツ、ピスタチオ、リンゴ、ドライフルーツ、プラムなど

〈低FODMAP食〉


にんじん、じゃがいも、かぼちゃ、きゅうり、ほうれん草、茄子、トマト、米、そば、オートミール、タピオカ、バター、モッツァレラチーズ、カマンベールチーズ、肉類、魚介類、卵、豆腐、マカダミアナッツ、アーモンド、メープルシロップ、キウイ、バナナ、オレンジなど

これをみるとわかるように、ヨーグルトと蜂蜜は高FODMAP食。便秘によかれと思ってヨーグルトをたくさん食べたり、いろいろな種類の蜂蜜を試したりしたら、便通がよくなるどころか、むしろお腹が張って便秘が悪化してしまった。そんな人は、便秘型IBSかもしれません。


ちなみに乳酸菌は慢性便秘症への効果はある程度証明されていますが、潰瘍性大腸炎にはよくありません。「腸活」ブームともいわれていますが、「腸の病気全てに効く」とか、「万病に効果がある」いう意味ではないのでくれぐれもご注意を!


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石井 洋介(いしい・ようすけ)
医師、日本うんこ学会会長
19歳の時に潰瘍性大腸炎により大腸全摘出術を受けたことをきっかけに医学部受験を決意。高知大学医学部卒業後、研修を経て横浜市立市民病院へ。消化器外科医として大腸がんの手術などを多数手がける一方、厚生労働省勤務や「日本うんこ学会」創設など意欲的に活動。「大腸がんは見つかった時点で寿命が決まる」という厳しい現実を打開すべく、毎日うんこを観察するカンベン(観便)を推奨し、医療の現場はもちろん、ゲームアプリやエンタメを通して発信し続けている。近年は、病気の予防・治療に加えて在宅医療の必要性を感じ「おうちの診療所」を開設。著書に『19歳で人工肛門、偏差値30だった僕が医師になって考えたこと』(PHP研究所)。
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(医師、日本うんこ学会会長 石井 洋介)

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