欧米企業幹部の働き方は、なぜ「ジョブ型」でなく「自営型」に近いといえるか

2024年3月25日(月)4時0分 JBpress

 各社がこぞって「ジョブ型」雇用制度導入へと舵を切るなか、「ジョブ型は日本企業には向いていない」と喝破する専門家がいる。その同志社大学・太田肇教授が、ジョブ型の問題点を指摘しつつ、具体的な事例やデータにもとづき、生産性向上や人材不足対策の切り札になる新たな働き方のモデルを提示。本連載では『「自営型」で働く時代——ジョブ型雇用はもう古い!』(太田肇著/プレジデント社)から内容の一部を抜粋する。

 第6回は、「ジョブ型」と考えられている仕事のなかに「自営型」に近いものが多くあること、さらに「自営型社員」のマネジメントや育成方法について解説する。

<連載ラインアップ>
■第1回 「侍ジャパン」はメンバーシップ型でもジョブ型でもなく、何型だったか?
■第2回 “ジャパンアズナンバーワン”再来? 「自営型」が日本になじみやすい理由
■第3回 ウェブ調査で判明、中小企業経営者の「自営型」導入への期待とその役割とは?
■第4回 建設業や営業職で実証、なぜ「一気通貫制」で生産性が上がるのか?
■第5回 キヤノン、オリンパスの生産性を上げた「一人生産」方式は、どう進化したか?
■第6回 欧米企業幹部の働き方は、なぜ「ジョブ型」でなく「自営型」に近いといえるか(本稿)

※公開予定日は変更になる可能性がございます。この機会にフォロー機能をご利用ください。
<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
●会員登録(無料)はこちらから

■水面下で広がる「自営型」

 近年しばしば取りあげられるようになった「ジョブクラフティング」、すなわち作業者個人の視点から仕事を設計し直す取り組みのなかにも、自営型に含められるようなケースがある。

 たとえば人材育成などを研究する石山恒貴は、東京ディズニーランド、JR東日本の関連会社テッセイ、および羽田空港それぞれにおいて、清掃の仕事を新たに意味づけし、創造的な仕事に再設計した事例を紹介している。

 いずれの事例も、一人ひとりが主体的にまとまった仕事をこなすようになったところが注目される。

 いっぽうでは「ジョブ型」と称しながら、開発、営業、経理などを一人で担当したり、特定のプロジェクトや商品を一人で受け持ったりするなど、「自営型」と呼んでも差し支えないような働き方をしている例もある。

「ジョブ型」の要件の一つが職務を明確に定義する点にあることを考えるなら、これらはいずれも「ジョブ型」より「自営型」に近いといえるのではなかろうか。したがって少し外郭を広めにとれば、「自営型社員」は相当な割合を占めているという推測も成り立つ。

 そうだとしたら、自社の正社員(正職員)に取り入れられる働き方として「自営型」をあげる人事担当者が少なかったのも、実は自営型のイメージを具体的に描けなかったためではないかと考えられる。

 なお、その点に関連して少し付け加えておきたいことがある。世間では日本企業=メンバーシップ型、欧米企業=ジョブ型という単純な二項対立図式でとらえがちだ。

 たしかに欧米企業の非管理職は、ジョブ型で雇用されるのが普通だと理解してよい。しかし管理職、とりわけ幹部クラスになると、たとえば「5年以内に〇〇の開発プロジェクトを完遂させる」「アジア地域での売上げを30%アップさせる」というような目標を上から提示され、それを個人が受け入れて契約するケースが多い。

 そこで個人に求められているのはミッション(使命)の遂行である。個人の裁量と責任でミッションを遂行するという働き方は、ジョブ型というより自営型に近いといえよう。

 したがってメンバーシップ型かジョブ型かという二類型で強引に分けるならジョブ型に含まれるかもしれないが、自営型を加えた三類型では自営型が現状でもかなりの比率を占めていることを示唆している。

 要するに「自営型」という名称がなかったため、実像がつかめなかったのである。

■マネジメントや育成もインフラ型に

 「自営型社員」のマネジメントや育成はどうあるべきか。

 自営型の働き方にはインフラ型組織が適している。そしてマネジメントや育成も働き方の延長線上にある。したがって、マネジメントや育成も、少なくとも理念的にはインフラ型が望ましいということになる。

 自営型の特徴は、用いられる能力にしても仕事内容にしてもアナログ的な性格が強いところにある。しかもデジタル化が進むほど人間にはアナログ的な要素が求められるようになり、同時に個性、ユニークさが生き残りの条件として重要になる。

 また、とりわけ自営型で働く場合には自律性が不可欠であり、どれだけ能力が発揮されるかは自発的なモチベーションにかかっているといっても過言ではない。

 このような理由から、彼らのマネジメントは「管理」ではなく「支援」が中心になる。たとえば仕事に関する情報や資金を提供すること、問題が発生したときに相談に乗ったり、働きやすい環境を整えたり、活躍の場を提供したりすることなどである。

 能力開発も年次別、階層別研修など、伝統的な日本企業が行ってきた会社主導の画一的な制度はなじみにくい。そのため職人系の仕事ではOJTが中心になるが、クリエーティブ系では基本的に個人主導で、会社や上司はそれをサポートするというスタイルになる。

 実際に自営型社員が多く働く研究所やコンサルタント会社、ゲームソフト会社、広告会社などでは、個人が希望する能力開発を会社がサポートする方針をとっているところが多い。

 必然的に能力開発の場は社内より社外の比重が高くなり、社内の研修も会社がメニューを示し、個人が選択して受講する形が広がってきている。

<連載ラインアップ>
■第1回 「侍ジャパン」はメンバーシップ型でもジョブ型でもなく、何型だったか?
■第2回 “ジャパンアズナンバーワン”再来? 「自営型」が日本になじみやすい理由
■第3回 ウェブ調査で判明、中小企業経営者の「自営型」導入への期待とその役割とは?
■第4回 建設業や営業職で実証、なぜ「一気通貫制」で生産性が上がるのか?
■第5回 キヤノン、オリンパスの生産性を上げた「一人生産」方式は、どう進化したか?
■第6回 欧米企業幹部の働き方は、なぜ「ジョブ型」でなく「自営型」に近いといえるか(本稿)

※公開予定日は変更になる可能性がございます。この機会にフォロー機能をご利用ください。
<著者フォロー機能のご案内>
●無料会員に登録すれば、本記事の下部にある著者プロフィール欄から著者フォローできます。
●フォローした著者の記事は、マイページから簡単に確認できるようになります。
●会員登録(無料)はこちらから

筆者:太田 肇

JBpress

「企業」をもっと詳しく

「企業」のニュース

「企業」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ