大谷選手に合わせて無理をしていた…年収7500万円の元通訳・水原氏が「生活苦」に陥ったギャンブル以外の理由

2024年4月1日(月)16時15分 プレジデント社

韓国代表とのエキシビションゲーム前、練習に臨むドジャースの大谷翔平(右)と水原一平通訳=2024年3月16日、韓国・ソウル - 写真=時事通信フォト

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■あれだけ「蜜月」だったのがなぜ


米大リーグ(MLB)、ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手が、前代未聞のトラブルに巻き込まれている。元通訳の水原一平氏が違法賭博に関与したと報じられ、球団を解雇された問題で、25日(日本時間26日)に初めて声明を発表した。


「僕自身は何かに賭けたりとか、誰かに代わって、スポーツイベントに賭けたりとか、またそれを頼んだりということはないですし、僕の口座からブックメーカーに対して、誰かに送金を依頼したこともありません」


賭博への関与を全面否定し、続けて「数日前まで、彼(水原氏)がそういうことをしていたということもまったく知りませんでした。結論から言うと、彼が僕の口座からお金を盗んで、なおかつ、僕と僕の周りの皆に嘘をついていたということになります。(中略)正直ショックという言葉が正しいとは思わないですし、それ以上の言葉では表せないような感覚」と、水原氏への強い憤りをあらわにした。


大谷と水原氏——。日本ハム時代から「蜜月」だった2人の間に、一体何があったのだろうか。


写真=時事通信フォト
韓国代表とのエキシビションゲーム前、練習に臨むドジャースの大谷翔平(右)と水原一平通訳=2024年3月16日、韓国・ソウル - 写真=時事通信フォト

■「球団職員と選手」の関係から相棒


水原氏は主に外国人選手の通訳担当として、大谷と同じ2013年に日本ハムへと入団。大谷が当時所属していたルイス・メンドーサ投手と仲が良かったこともあり、2人は次第に親交を深めていった。


そして2018年。大谷はMLB挑戦の際に、水原氏を専属通訳として伴い渡米。ロサンゼルス・エンゼルスで新人王を獲得した会見上では、「お世話になったのは、やっぱり一平さん」と絶大な信頼を置いていた。今季からドジャースに移籍後も、その強固なパートナーシップは変わらず続いていくとばかり思っていたが……。


そもそも、選手と通訳の関係性が、どうしてここまで親密だったのか。日本において、通訳は球団職員として採用されるケースがほとんど。球団スタッフとして選手と接することを第一に、通訳業務のほか、練習相手なども買って出る。時には160キロを超える投手のキャッチボール相手も務めるため、グラブの紐が切れることもしばしば。想像以上に肉体労働の印象を受ける。


そのほか、プライベートでも車の運転や家族の病院の手配など、行動をともにすることはあるが、あまり深入りはしないように釘を刺す球団もあるという。


■年収750万円と年収10億円が毎日一緒にいるようなもの


しかし、大谷と水原氏の間柄は、選手と通訳で始まったわけではない。日本ハムで長く付き合っていくうちに、信頼関係を構築。そして異国の地で戦う日本人選手にとって必要不可欠な専属通訳として、ともに海を渡る決断をした。


水原氏はMLBでも基本的には球団職員として雇用されており、エンゼルスやドジャースから給与が支払われていた。ただ、大谷のグラウンドでの通訳だけではなく、車の運転手やプライベートでの通訳など、生活全般のサポートも担っていたため、大谷個人のポケットマネーによる雇用契約も結んでいたとされる。


球団職員のみでは一般的なサラリーマンの給与と変わらないが、大谷からの報酬も合わせれば、米スポーツ専門局ESPNが報じた30万〜50万ドル(約4500万〜7500万円)という破格の年収にも合点がいく。


ただ、メジャーリーガーたちの平均年俸は、AP通信によれば、2023年シーズンは過去最高の452万5719ドル(約6億8000万円)。ましてや、自分の隣にいる大谷は、ドジャースと北米プロスポーツ史上最高額といわれる10年総額7億ドル(約1050億円)という契約を交わしている。桁を1つ減らして、年収750万円の会社員が年収10億円のお金持ちと常日頃行動を共にしていると想像すれば、その格差は凄まじい。


■「ライフスタイルに合わせようと無理をしていた」


移籍の際には、背番号17を譲ってくれたジョー・ケリー投手の家族に高級車のポルシェをプレゼント。昨年には、日本全国の小学校にグラブ6万個を寄贈するなど、桁違いのスケールを前に、金銭感覚が狂うのも無理はないだろう。


水原氏はESPNのインタビューに「生活苦だった。(大谷の)ライフスタイルに合わせようと無理をしていたからだ」と回答したという。それが「ギャンブル依存症」に拍車をかけ、雇用主でもある大谷の口座から違法ブックメーカー(賭け屋)へ、多額の借金返済のために少なくとも450万ドル(約6億7500万円)を送金する最悪の結果を招いてしまった。


大谷の危機管理が甘いと言われればそれまでだろう。ただ、異国の地で流暢に英語を使いこなす水原氏を見て、その信頼はさらに深くなっていってもおかしくはない。水原氏はメディアの取材やスポンサーの窓口業務も担っていたとされる。マネージャーとしての働きを見せる中で、銀行口座に関するあらゆる情報の管理も任せたのだとすれば、今回の「窃盗疑惑」も説明がつく。


■選手の資産管理は本来だれがやるのか


米国の銀行口座で、口座名義主が選んだ人間に付与できる「Check Writing Privileges」(日本でいう「振込代理権」)の送金上限は50万ドル(約7500万円)。水原氏はESPNのインタビューで、大谷同意のもと、数カ月にわたり8〜9回の送金をしたと語っており、その合計額はほぼ合致する。なお、水原氏は後日、大谷は何も知らなかったとし「すべて自分の過失だ」と前言を撤回している。


こうなれば何が本当で、何が嘘なのかわからない。水原氏は米カリフォルニア大学リバーサイド校を卒業したとされるが、米メディアが大学側に確認したところ、在籍した事実はないという。「学歴詐称」疑惑も浮上し、SNS上では「今まで積み上げてきたものが、一瞬で崩れ去ってしまった感じ」「本当に残念」といった落胆の声が相次いでいる。


それでは本来、プロ野球選手の金銭面の管理などは、誰が行うのがベターなのか。もちろん本人が管理するに越したことはないが、多くは、一定の高額年俸に達した時点で、マネジメント会社や代理人と契約を結んだり、会社を設立したりして両親や妻を取締役とし、プレーのみに集中できる環境を整えるケースが多い。


大谷自身も一部報道では日本ハム時代に会社を設立。渡米時には代理人事務所「CAAスポーツ」のネズ・バレロ氏にチームとの契約・交渉を任せるなど、抜かりはなかったはずが……。


写真=iStock.com/dszc
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/dszc

イチロー、松坂、田中…やはり妻の存在は大きい


やはり大きいのは妻の存在だ。イチロー、石井一久松坂大輔、田中将大、菊池雄星……。今挙げた選手以外でも、多くの日本人選手が、MLBへ移籍する前に結婚し、妻とともに渡米している。特にイチローの資産は、妻の弓子さんが代表を務める資産管理会社が運用。エステ店経営と不動産投資を合わせて100億円以上を運用しているとされている。


大谷は独身のままメジャーへと移籍したため、側で安心して財布を預けられる人物が水原氏以外にいなかったのも、今回の騒動の発端といえる。


その大谷は2月に自身のインスタグラムで結婚を発表。3月20、21日に韓国・ソウルで行われたパドレスとの開幕カードに妻・真美子さんを帯同させ、本塁打こそでなかったものの、2戦で3安打2打点と気を吐いた。


ただ、違法賭博問題が露見した水原氏が21日に球団から解雇。突如として苦楽をともにした“相棒”を失う形となった。開幕カード後のオープン戦も含め、13打席連続無安打と心労も心配されたが、28日(日本時間29日)、カージナルスとの本拠地開幕戦で2安打を放ち、周囲を安心させた。


今後は、真美子さんの公私にわたる献身的なサポートが、「ショック」以上の衝撃を受けた大谷の支えとなる。


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内田 勝治(うちだ・かつはる)
スポーツライター
1979年9月10日、福岡県生まれ。東筑高校で96年夏の甲子園出場。立教大学では00年秋の東京六大学野球リーグ打撃ランク3位。スポーツニッポン新聞社ではプロ野球担当記者(横浜、西武など)や整理記者を務めたのち独立。株式会社ウィンヒットを設立し、執筆業やスポーツビジネス全般を行う。
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(スポーツライター 内田 勝治)

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